映画館がやってきた! 映画鑑賞記

Shall we ダンス?

■DATA 1995年、大映/日テレ、監督/脚本/原案:周防正行、
キャスト
杉山(課長)=役所公司, 田中(でぶ)=, 服部(ちび)=, 青木(ラテン男)=竹中直人, おばさん=,
たまこ先生=, 美人先生=草刈民代, 杉山さんの妻=原日出子, 杉山さんの娘=, 探偵=榎本明,

Story

 杉山課長は最近元気がない。妻一人、娘一人、40代で郊外に一戸建てを 持って、なんとなく順調な人生に生き甲斐を失っている、普通の男。
 帰りの電車の窓からふと見上げたダンス教室の窓辺に立つ憂い顔の美女に 心ひかれた杉山課長は、ふらふらとダンス教室に入門するが…。

感想

[2001.2.22] ★★☆ 中年男がダンス?という笑いからコーラスライン・社交ダンス版に。終わらないワルツ
 ヨーロッパの映画祭で 「"Shall we dance"という曲は『王様と私』の中の曲だというのを知っていますか」 と聞いた記者がいたそうだが、言うまでもなく大切なポイントにこの曲と、 『王様と私』の一シーンについての言及があり、ミュージカル好きの心もくすぐる。 それから「ラストダンスは私と」の曲も重要な使い方をされている。
 導入部はダンスの基礎のあれこれを披露してくれて、主人公といっしょに 教室に通っているような気分にさせてくれる。
 とはいえ「ダンスは楽しい!」という話ばかりではない。
 「中年男がダンスなんて、やらしい下心が有るとしか思えない」という 世間の白い目から隠れつつ、でも確かに動機は「美人な先生」だし、 ダンスサークル、ダンスホールに誘われていって見ると、ギラギラした 中年の男女の火花にたじろぐ。挙げ句の果てに「あんた気持ち悪い」と パートナーに罵られて凹む友達に怒濤の現実が押し寄せる。
 でも、「生徒さんとは教室の外ではつき合いません」ときっぱり 美人先生に否定された杉山課長の復活が偉かった。
 話はここから日本人の大好きな「スポ根」の色彩をにわかに強め、 登場人物の過去と生き甲斐が次々と語られていくのは、 「コーラスライン・社交ダンス版」という感じだ。
 元気が出てきたけれど急に帰りが遅くなった夫のことを、心配する妻(原日出子) は探偵(榎本明)に調査を頼むのだが、普段意地悪な役が多い彼がこの作品では とてもいい人で、杉山課長に中年男の共感を感じたのか、いつの間にか 探偵仕事そっちのけで自腹で追跡しては、こっそり応援してしまう姿が ほのぼのしている。
 この映画は結末で多くを語らない。それぞれに人間関係のぎこちない思い、 ほろ苦さを残したまま終わる。だけど、彼らの明日からの生活はなんとなく 想像が出来る。きっとみんな生き甲斐のある良い人生を送るだろう。これから 新たにダンスを始める人も何人もいるはずだ。そうしてお話は円舞曲(ワルツ) のようにくるくると巡りながら続いていくのだろう。
ダンスの基本
パーティー モダン          ラテン
--------------------------------------------------
マンボ   ワルツ          ルンバ
ジルバ   タンゴ          チャチャチャ
ブルース  スローフォックストロット サンバ
      クイックステップ     パソドブレ
      ウインナワルツ      ジャイブ
--------------------------------------------------
社交ダンスは、イギリスで完成され教養の一部とされている。
モダン、ラテンの計10曲(テンダンス)が競技会で使用される。
 大貫妙子の歌うテーマ曲etc.の音楽は自然で快適。
 「編集」もテンポが良くて、あっというまに世界に引き込まれる。
 主人公の平凡な日常は、ダンスによってがらりと変わってしまう。 「楽しい時間は速く過ぎる」という感覚が、主人公の日常を押さえた カットの流れ、リズムの軽やかさに巧妙に表現されていて素晴らしい。
 脚本も実に隙がない。邦画の脚本では「12人の優しい日本人」 「ラヂオの時間」と並ぶコメディーな味わいと、加えてロマンに満ちている。
 ラストシーンは予測通りだ。それはわかっているのに、ひっぱってひっぱって、 そうして思い通りの結末になった瞬間の充実。まんまと乗せられて、 それで嬉しいという幸せな結末。
 主人公のあこがれる美人先生を演じた草刈民代は、牧阿佐美バレエ団のトッププリマ。
 その立ち姿はどこから見てもただ者ではない美しさと、軽い緊張感が漂っていて、 「ださい中年サラリーマン」の役所公司がいつのまにか格好いいおじさんに 変貌していく姿と合わせてこの映画のリアリティーを高める大きな要素だ。

■関連URL

[戻る | 目次]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!