映画館がやってきた! | 映画鑑賞記 |
「緑の猿」と名乗るテロリスト集団が次々と催眠術で
人を操り、米軍の横須賀基地のミサイルを乗っ取り日本を爆撃し、日本の
乗っ取りを図る。 |
まず冒頭の「ミサイルがお寺を爆破する」というSFXショットが安い。
今時はNHKの特番やニュース番組の再現映像で使われる程度のクオリティー
に見える。それに、「超音速で高空から飛来するミサイル」の標的が命中の
ずっと前からおどろおどろしく揺れるはずがないわけで、これでは、
お化け屋敷レベルの脅かしだ。
このミサイルは米軍横須賀基地のミサイル・コマンド・システムが、
催眠術で洗脳されたサラリーマン(?)に乗っ取られて、制御システムの
暗証番号を変えられたために誰にも止められなくなり、そこに「千里眼」
と呼ばれる心理カウンセラー(黒木瞳)が、事態の収拾に駆けつける。
という話になっている。
だが、疑問は沢山ある。ミサイルは大陸間弾道弾のような地下サイロ
から発射されるが、はたして米軍に国内を照準とする対地ミサイルが
配備されているだろうか?もし対地ミサイルが有ったとしても、この種の
ミサイルが地下サイロに格納されているだろうか?
このミサイルは筒型に描かれているが、長距離の水平飛行をするミサイル
なら、翼が有りそうなものだ。
ミサイルシステムをいじった日本人(一見サラリーマン)は外部から進入した
わけだが、米軍基地にサラリーマンが入れるのか?何故制御システムの操作方法
が分かるのか、制御システムをいじっている間誰も止めなかったのか?
暗証番号を何故知っていたのか? もっとも簡単な答は米軍の人間も全て
催眠術に掛かっていたという解釈だが、だったら、発射そのものを米軍の
人間にやらせれば良いわけで…。
パスワードを入力する表情が監視カメラに写っているのを見て、パスワードを
推測するシーンがあるが、操作員の顔を映すカメラがあるのなら手元を映して
いないのは不思議なことだ。
ミサイルの発射命令が取り消せないのも、管制室からミサイル本体までの間に
ハード的な停止スイッチが一つもないなんてことが果たして有るだろうか?
ラストで水野美紀の自衛官が発射された米軍のミサイルをコントロールする
シーンがあるが、なんでF-15のパイロットが米軍のミサイル基地の管制システムを
自由に使いこなせるのか?
ミサイルの航跡ディスプレイが出てくるが、マッハ2〜3で飛んでいるにしては
航跡の伸びが速い。たぶん10倍は。
自衛隊の電子機器だけを破壊して米軍の電子機器は破壊しない電磁パルス
発生器…という兵器が出てくるが、これも胡散臭い感じしか与えない。その
機械を組み立てる過程も、アンテナだけ高い場所に置けば良い話で、
なにも秘密基地めかさなくても、気球でも上げる方がリアルだ。
何のかんのと言って、この作品の軍事的な描写は怪しいところだらけ。
最近の映画では軍事関係の描写には専門家の監修が付くのが普通だが、
どうも、アドバイザーの性能が低いのではないか(^^;?
催眠術がキーになるホラーなので、心理学に関する描写も多いのだけれど、 その言動の多くは心理学者と言うよりインチキ占い師のよう。も〜ちょっと らしくならないか?
主役が途中で爆死してしまうシーンは、シチュエーションから「偽装爆破?」 とピンと来てしまうし、だったら「黒幕はこいつだ」と分かってしまうのが イマイチだなぁと思う。
本編でインパクトがあるのは「緑の猿が世界を制す」というリフレインの
不気味さだけかな。
水野美紀のアクションは、なかなか楽しかったので、今後もどんどん
やっていただきたい。
さて、このなんともぱっとしない話。原作が悪いのか、監督(麻生学)が
悪いのか。良質な映画の嘘とは、「本当のような嘘」でなければただの
ヨタ話に終わる。この映画は残念ながら安いヨタ話にとどまっている。
文:唐澤 清彦 | 映画館がやってきた! |