映画館がやってきた! 映画鑑賞記

プライベート・ライアン

■DATA (1998 米)
キャスト:トム・ハンクス

Story

 第二次世界大戦。ライアン二等兵は他の兄弟全てを戦闘で失う。
 「兄弟を全員戦死させてはいけない」という司令部の方針によって 敵地奥深い場所にパラシュート降下したライアンに等兵を無事に連れ 戻すために8人の特務隊が編成される。
 「たった一人の兵隊を救うために何故8人の兵士が命を懸けなければ ならないのか。」
 軍の理不尽な宣伝任務でしかないと疑問を抱きながら進む彼らは、 しかし、壮絶な戦闘のの中で やがてそれぞれの答えを見つけるのだった。

感想

[2000.11.11] ★★
 なるほど、アカデミー賞をどっさり取っただけあって凄い映画だ。
 とにかく戦争映画としての臨場感はもの凄く、たぶん大音量で聴いたら もの凄いことになる。でも我が家では大音量にしない。自宅で擬似戦争体験など したくないから。
 一番良いのは脚本とトムハンクス(ミラー大尉)の演技だろう。
 女房役的な軍曹のキャラクターも良いし、狙撃の名手役の兵隊も  ライアンを探す行軍の中の小さなエピソードの一つ一つまで、本当に良く できている。たった一人を救い出すために8人が死の危険を冒すことについての 兵士たちそれぞれの葛藤が、細やかに描かれている。
 DVDとしての画質も良くて、銀残しのくすんで暗い絵が説得力がある。明るくて 綺麗なDVDなどいくらもあるが、これだけ暗くても克明で見せる絵のDVDは珍しい。 暗くてもコントラストが高いからだな、きっと。
 本質的にはスピルバーグの 「兵隊さんよありがとう、いまの西側諸国があるのはあなたの方おかげです」 という意図の作品なので、日本人が必要以上に誉める必要はないような物だが、 まあ今までみた様々な大戦ものの作品の中でも最上級の作品だとは言って良い ようだ。
 ただし、この作品のテーマを考えると、冒頭の30分にも及ぶ「ノルマンディー 上陸作戦」の再現映像は全く不要だろう。いきなり三人の戦死を知らせるタイプ を打っているシーンから始まっても作品としては完全だ。
「怖ければ怖いほど戦争映画は反戦映画になる」という発想らしいのだが、 たんなる「派手な掴み」でしかないと思う。超大作であるための看板みたいな…。 確かにアクションファン(ジュラシック・パークは見たけれどシンドラーのリスト は見ていないなんて人)も引き付けるとは思うけれど。
 それにもまして、作戦の無茶さ加減が情けない。
 真っ昼間に無傷の敵陣の真ん前に歩兵を上陸させるなど、酷い話(史実としては 空爆をかけているらしいが)。海から近づくなら、艦砲射撃でも何でもして、 敵の重火器くらい潰しておくぐらいのことをしなかった指揮官は縛り首だな。
 通訳の兵士アパムのエピソード(腰を抜かして見方の兵士を死なせてしまう) は、そう言うこともあるかとは思うが、なにしろ可哀相だし無くても良いんじゃ ないかと思うのだが。
 トムハンクスが死ぬ必然性も、実は感じない。偶然のこととはいえ、あと数十秒 飛び出さずにいれば彼は死なずに済んだろうという状況に釈然としない後味を 残す。
 最後に駄目なのは、邦題かな?
 「ライアン二等兵救出作戦」って直訳も別に良くはないかも知れないけれど、 「セービング・プライベート・ライアン」のセービングを取っちまったら、 日本的には「ライアンの私小説」みたいだし、主役はちっともライアンじゃない のだし。実に役立たずの邦題である。
 DVDパッケージの原題を見るとセービングは太字で"saving private ryan" と書かれており『救出作戦』であることこそが強調されている。頭の中で補完し て読むのですな。
ストーリーの説得度 ★★★★★
リアルな戦闘シーンの必要度 ★

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!