映画館がやってきた! 映画鑑賞記

さくや妖怪伝

■DATA 監督:原口智生、特技監督:樋口 真嗣、音楽:川井憲次
出演: 安藤希、松坂慶子、藤岡弘

Story

 1707年。人心の乱れが神々の力を弱め、富士は噴火し、ひび割れた 地中深くから封印された妖魔たちが解き放たれる。
 「神々の力及ばざる時、妖魔を持って妖魔を絶つ」
 妖怪討伐士の振るう刀「妖刀村正」は、凄まじき怨念を込めて打たれた ため刀自身が妖怪と化し、その力の代償として使うものの命を削った。
 公儀妖怪討伐士(藤岡弘)は、利根川の大河童を切り伏せるとその命を終え、 娘のさくやに刀を託す。
 半年後、さくやはこの度の異変の根を絶つべく富士の麓に向かう。
 手練れの忍者二人と、今は弟として育てている利根川で拾った河童の子供 を連れて。
 富士の麓には「土蜘蛛の女王」(松坂慶子)が待ちかまえていた。果たして 決戦の行方は…。

感想

[2001.3.29] ★★
 話は(あたりまえだが)子供向けで特撮もTV映画的なお手軽感があるが、 映像は絶妙なCGIの効果で美しい。たぶん、ガメラなどと比べたら圧倒的に少ない 予算で作られているのだろうが、予算以上の仕事をしているように見える。
 本作の、一番のポイントが主役の安藤希(=さくや)のインパクトだろう。
 まだまだ経験も少ないだろうから芝居が飛び抜けているわけではないが、 とにかく目から強烈なオーラが出ている。画面でも「両目だけのアップ」が 頻繁に使われているがそれほど印象的な目だ。

 こんなにいい目をしていたかな?と端役で出演していた『ガメラ3』を 見直してしまったが、この時はただやせて ふにゃっとした娘にしか見えないんだよねえ(^^;
 アクションも結構自前でこなしているらしいし、このくらいの年齢の 女優は一年でころころと印象が変わるのは良くあることだが、良い方に 転がった幸せな人だと思う。
 とにかく彼女のどアップが多いのだが、寄って語らせてそれで映画が 成立してしまうというのは凄いことだよ。と、心底感心する。 (監督は楽か…(^^;)
 平成ガメラの方では藤谷文子が可愛いカットって「1の水族館」と 言い切れるし、逆に2,3ではどうもぱっとしないのが歯がゆいくらい。 長峰役の「中山忍」も1の前半のいくつかのカットが素晴らしいが、 3ではどうも光らない。
 2の水野美紀(穂波)は役者としては良いのだけれど、他のガメラの ヒロインと比べるとガメラとの関わりが薄く主役とは言えない。 (2は男のドラマですね)
 3のヒロインの「前田愛」は、確かに強い輝きを持っているが、ガメラの 敵という立場なので感情移入がしにくい上に「出番の半分は昏睡状態」 なので思う存分活躍したとは言い難い。
 …などなど最近特撮ヒロインに感じていたフラストレーションを思い起こすと、 『さくや妖怪伝』の安藤希は彼女を中心に物語を動かす本当の主役で、 どの一つのカットも魅力的。これはなかなか凄いんじゃないかと思う。
 今までにインパクトの強かった特撮ヒロインであるゼイラムの 「森山祐子」が美人で格好いいけれど作品の中で動きがぎこちなかった (作品のせいもある)ことを考えると、安藤希は凄い。

 女優で凄いのは「松坂慶子」も。彼女の土蜘蛛の女王は変化後の 特殊メーク状態も凄いが、ずらりと蜘蛛女を従えて白装束で高笑いする シーンがまぁ、凄い。なにが凄いってこう凄い凄いと書くと形容詞の大安売り のようだが、松坂慶子に高いところからビシリ、 「黙りおりょう下郎!」 などと見得切られたら、ずがんと来るよね(笑)
 さらに、さくやが弟として育てる子河童を騙してさくやを刺させるのに 成功した土蜘蛛の女王の「してやったり」と勝ち誇る笑顔の悪そうなこと。

 『帝都物語』の嶋田久作が長髪を振り乱して忍者をやっていたり、仮面ライダーの 藤岡弘が豪快に剣を振るっていたり、脇を固める俳優も有名どころが揃っている。

 特撮は、TVの時代劇のようなセットを組んだシーンがあまりにも「時代劇」 っポイので最初は思わず引いてしまったが、ある意味「様式美」なのかも知れない。
 「vs利根川の大河童」では手前に幅2m程の川、4,5mの舞台(河原)での立ち回り の奥に、下から1/3だけでビスタサイズの画面いっぱいになる巨大な月。という ものすごいセット。
 「良い妖怪の宴会シーン」なんかも時代劇な舞台にかぶり物で、作り物感爆発。 頭をリアルから切り換えて「妖怪時代劇」にしないと違和感ありあり。
 役者のアップは、単純な黒バックなんてシーンも多い。
 そうかと思うと、巨大な武家屋敷のセットは(他の作品で建てたものらしいが) ずら〜っと家来が並んで豪華だし、時代劇には定番の田舎道なんかもあり、 色々なテイストのシーンが混じっている。
 松坂慶子が登場する「崩れ果てた神社の大屋根」というシーンは、普通 特撮で行くと思うようなシーンなのにオープンセットで組み上げてしまった という力作だったりする。
 と、全体を見渡すとバラバラな素材だが、編集が上手いのはもちろんだが、 CGを使うことが、素材映像をノリのようにつなぎ合わせている。
 「時代劇」風舞台の映像も素のままではなく絶妙に霞がかかり、古びた 色合いになっているし、切られた妖怪が炎を上げて消えていくショットも なかなか美しい。
 富士山の大爆発シーンなどはフルcgiで、本物とまごうばかりの映像。
 巨大土蜘蛛と河童の電撃戦のほとばしる稲妻は、昔は手で書き込んでいた ものを今は3D-CGIでやっているそうだが、とにかく派手だ。
 とにかく、ほんの1,2秒の特撮でも手抜きせずにやっていることは良く 分かるし、効果はある。
 特撮を「樋口つながり」で見ると、95年のガメラ1から2000年の「さくや」 に至るもの凄い進歩が見て取れるわけで、スターウォーズep1の用に 何もかもCGIになってしまうのでなく、本物の爆発も、スーツもあって なんだかウエットな日本の特撮で、今回は子供向けだけれど、この後に 生まれてくるハードな設定の特撮作品を期待してしまう。

 音響もまた凄い。
 「妖怪活劇」と割り切れば器はコミックやアニメも似つかわしい荒唐無稽の まかり通る世界。ならば、コミックの書き文字の擬音のように効果音をつけ ようという事だろう。富士山大爆発や妖怪がわらわら出てくるように当たり 前に考えられる音は当たり前に派手だが、さらに、さくやに同行する忍者が 紹介されるシーンで名前が呼ばれカメラを振るのと同時に 「ずしゃ〜!、ずぎゅわ〜!」と賑やかなこと。当然、必殺の刀が輝く 瞬間には「ぴきゅいぃ〜ん!」と鳴るわけだ。
 要所では360度音が荒れ狂うし、重低音はどかどか鳴るし、音のサービス は、忘れてはいけないポイントだ。

 音楽も格好いい。盛り上がるし、記憶に残る。

 この作品で最大の問題は「子供向け映画であること」が受け入れられるか どうかってことだろう。
 いい役者が揃っていて、特撮は今までにないほど巧みにCGIが生かされ、 サウンドもアメージング。おとぎ話を素直に楽しめばいいと思うのだけれ ど。TV映画の枠を越えるなにかが欲しいとも思う。
 しょ〜もないと言えば言えるかも知れないけれど、そうは思いつつ気合い が入ってしまう(笑) これから面白くなる 素材がいっぱい詰まったおもちゃ箱のようだと見て楽しめる人はラッキー だ。
 それになんだかんだ言っても、安藤希、松坂慶子、特撮の進化、サウンド の楽しさはみんな納得だと思う。あとは…やっぱり予算と脚本なのかな?

 本編と離れるが、ラストのローリングタイトルも良かった。
 BGMはなんとchiakiの歌うちょっとロックでファンキーな音楽で 「妖怪映画」の音楽とは思えないノリなのだが、音楽に合わせて子河童と いい妖怪たちが踊ったり、さくやが父(藤岡さん)に居合い抜きのポーズを 教えて貰ったり、彼女がそれを河童に教えてあげたりという、ちょっと ほのぼのした時間が過ごせる。
 そして、字幕をよく見ていると普通カタカナの仕事名がすべて日本語に なっている。「アディショナル××」なんかは「追補××」とか、 無理矢理に訳してあるわけ。
 楽しく作った気分が出ていていいと思う。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!