映画館がやってきた! 映画鑑賞記

恋におちたシェイクスピア

■DATA (日劇プラザ(有楽町)SRD 1999.5.17)

Story

 1593年。芝居熱が過熱するエリザベス朝のロンドン。借金で潰れそうな 劇場『ローズ座』を救うのは、当代切っての人気作家、シェイクスピア が執筆中のコメディだけが頼り。
 ところが、シェイクスピアは大スランプ。ライバル作家マーロー にヒントをもらい、なんとか新作は書き進められオーディションを開く。
 一方、芝居の世界に憧れる裕福な商人の娘ヴァイオラは、 男装してトマス・ケントと名乗り、このオーディションに潜り込む。 (当時、女性が舞台に上ることは禁じられていた)

 突然逃げ出したケントを追って、シェークスピアは彼(彼女)の家にたどり着き、その夜の 夜会でヴァイオラに会い運命的な恋に落ちた。しかし、ヴァイオラには親が決めた婚約者 ウェセックス卿がいた。
 その日からシェイクスピアのペンは、流れるように愛の物語を生み出した。
 トマス・ケントを主役に物語はどんどん書き進められ、外題は「ロミオとジュリエット」と 決まった。ところが、シェイクスピアはある日ヴァイオラから、 「ウェセックス卿と結婚してアメリカへ行かなければならない。」という手紙をもらう。
 納得の行かないシェイクスピアは、ヴァイオラの邸へ向かい、互いが本当に愛し合って いることを確かめ会い、結ばれる。
 乳母の計らいで、二人はしのび逢いを続けた。
 二人がささやく愛の言葉はそのまま芝居のセリフとなって、一座の誰もが傑作の誕生を 予感し、成功を信じた。
 “ローズ座”では稽古も大詰めで、初演の日を待つばかりだった。しかし突然、役人が ものものしく踏み込んでくる。ロミオ役のトマス・ケントが、女性だったことが役人に ばれたのだ。“ロミオとジュリエット”の初演を目前に、“ローズ座”は、即刻、閉鎖を 言い渡される…
 果たして、初演は、二人の恋の行方は…

感想

 初登場シーンでヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)は、物語のような恋を夢見る 子供のように描かれているのだが、シェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)と恋をして、 大人の女になり、そして、この時代の女として親の決めた婚約者、ウェセックス卿 (コリン・ファース)に従うためにアメリカに旅立っていく姿が、なかなか悲しい。
 ヴァイオラの立場で映画を見ると、一度限りの奔放な恋の思い出を 胸に、厳しく生きていく『時代の常識から逃れられない女』の悲しい物語にも見えてくる。
 その点は、同じように「家のために望まぬ結婚を強いられた」タイタニックのローズが アメリカに渡った後、時代の価値観をうち破って、自分の人生を過ごしてきたという、 充実感に支えられているのとは大違い。
 つまり、この映画は徹底的に「シェイクスピアの映画」なのですね。

 一方、シェイクスピアと、名作ロミオとジュリエット成立の裏話として見れば、 これは面白い。
 私はかじった程度だけれど、映画の出来事に、実在の人物と出来事がチラチラと 顔を出して、ロミオとジュリエットの裏に、こんな恋物語があったら本当に素敵だ ろうなと思わせる。
 とにかく、小さな伏線とどんでん返しの連続。そしてスピード感
 映画で人を楽しませてやろうという気分が溢れている。
 特に圧巻なのは、ロミオとジュリエットを書き進めるシェイクスピアの才気の ほとばしりを感じさせるスピード感。
 「恋をする。書く。稽古をする。」恋と芝居で 充実する日々の眩しいこと。芝居と現実の恋の交錯。どこからどこまでが現実とも芝居 とも付かない、あの目まぐるしい瞬間こそが実は恋をしている人間の心の中そのもの なのではないだろうか。
 そして、ラストのロミオとジュリエットの劇中劇。
 美しい恋に、激しい乱闘、そしてジュリエットの墓の前のロミオ。
 カーテン座の観客が息を呑むのと一緒になって、毒をあおるロミオ(シェイクスピア)を凝視。
 「まさか、本当の毒をあおってこの場で死んでしまうのか…」
 そして短剣を胸に突き立てるジュリエット(ヴァイオラ)…。
 …と、ヴァイオラの胸から吹き出す「真っ赤なスカーフ」
 あ〜お芝居で良かった…という迫真の演技と絶妙な弛緩。脚本と監督の腕前は凄い物だと 思います。主役級の役者の演技と美形ぶりも光っています。アカデミー賞最多受賞というの を意識して見に行ったわけではないけれど、こんなに泣き笑い出来た映画は久しぶり。
 素晴らしい映画でした。

 最後に引っかかってしまったのはやはりヴァイオラの人生のことでしょう。
 シェイクスピアの史実と整合させるためには、二人が結ばれるわけには行かないの ですが、ハッピーエンドが欲しかったですね。

■DVD(Collecter's Edition/SONY)

[1999.11.25]
 DVDで『恋におちたシェイクスピア(Coll.Ed.)』を鑑賞
 くっきりツヤツヤ、極上の画像。VW10HTが未出荷なのが本当に恨めしく感じるほど 高画質が詰まっているが、実は安い液晶プロジェクターでもこういう高画質ソフトを 映すと、プロジェクターがグレードアップしたような気持いい映像が出る。本当に凄い。

 衣装の材質の微妙な輝き。マーロウの肩口の紫のビロードや、女王の孔雀の羽を散り ばめたもの凄く凝った豪華な衣装が、どこまでも緻密に鮮やかに見える。
 暗部も色が濁らず色の純度を保ったままの闇が見られる。こういうのはなかなか無いこと。
 サウンド面では、派手な効果音があるわけではないけれど、大きめの音量で聞くと 臨場感は高い。
 そして音楽が良い。多分古楽スタイルの新作だけれど、古楽としての実質は残しつつ 恋に落ちたシェイクスピアの新鮮さ、現代感覚と実にうまく融合している。
 内容は劇場で見て知っているけれど、DVDでも楽しかった。二度目以降は伏線探しでも 楽しめるかもしれないくらい、ディテールが詰まっている。ロミオとジュリエットの劇中劇は 白熱。そのラストではやっぱり、劇中の観客と一緒に涙が出てしまいました…(^^;

コレクターズEd.のおまけについて
 メイキングは約20分。 なかなか面白かったです。終わりの方に古今のシェイクスピア映画の断片が沢山紹介されて、 最近シェイクスピア映画付いている私にとっては「お、あれ見た、これ見た!」と楽しい ひととき。ともあれこの作品が古今のシェイクスピア映画の一ページに長く残ることは 確実でしょう。
 「カットシーン」のトップバッターはなんと「もう一つのエンディング」。結末は同じ だけれど、ずいぶん違った雰囲気になっていて興味深い。もちろん本編エンディングの方が よいと思うけれど。他の断片も「尺の関係でのカット」ではなく「もう一つの演出」という 内容。最後にNG集的おふざけもちょびっと流れて和む。
 オーディオ・コメンタリー(監督と出演者の解説音声。もちろん英語)に挑戦する気力は無いので、 将来にとって置くとして、おまけの量、質にはお買い得感がある。買うべし(^^)


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!