ピース・メーカー
■DATA (1997年/米)
キャスト:ジョージ・クルーニー(トーマス・デヴォー大佐),
ニコール・キッドマン(ジュリア・ケリー博士)
監督:ミミ・レダー
Story
旧ソ連領内で核弾頭を積んだ貨物列車が不可解な事故を起こす。
合衆国の核兵器の専門家ジュリア・ケリー博士は、その事故が核兵器略奪
を偽装するための恐ろしい計画の一部であることを発見する。
時間との争いの中、
調査責任者に任命されたケリー博士は軍部から派遣されたトーマス・デヴォー大佐
とチームを組むことになるが彼の方針に不満を抱く。
しかし2人は衝突しながらも次第に惹かれあい、国連ビル本部を狙う最後の1発
となった核弾頭を追跡するのだった。
|
感想
[2000.8.17] VHSレンタル ★☆
-
「踊る大捜査線」のコメンタリーで「事件は会議室で起きているんじゃない、
現場で起こっているんだ」のモデルとなったといわれた作品。
「踊る大捜査線」的に解釈すると、当然ジョージ・クルーニーが青島君。
ニコール・キッドマンがすみれさんかな〜と思うが、ニコール・キッドマン
のケリー博士は核テロリスト対策チームの責任者として、かなり大きな現場
の権限を任されており、室井さんの立場にも近い。
クルーニーとキッドマンがコンビを組んで現地を走り回り、ワシントンの
会議室には国防省の偉いさんがあれこれ指示をしてくるところは、「踊る」
の状況にかなり近い。
クルーニーは軍人であるからとにかくアクションでテロリストを
なぎ倒していく。市街地のカーチェイスはなかなか見物。そんなシーンで
キッドマンはけなげで可憐に見える。
しかし、核を追ってロシア領にヘリを飛ばすかどうかと言う決断のシーンでは、
「君に責任をとってもらうよ」と言わんばかりの態度でワシントンが
ごちゃごちゃ言う中、現場の指揮官であるキッドマンの苦悩が良い。
そこでクルーニーが
「事件はワシントンには無い、この現実の世界で起きてるんだ」
てなことをキッドマンに言って出撃するのですな。
ぴったりなせりふが出てくるわけではないけれど、官僚と現場の構図
は確かに通じるところがあって面白い。
このシーンはまだまだ中盤で、このあとヘリが落とされたり、市街地の
大追跡あり、核弾頭の解体ありと、アクションの連続になり結構飽きさ
せない映画だけれど、なぜか小粒に感じてしまうのは悪役の設定なのかも
知れない。
この作品のテロリストはボスニアで妻子を亡くし、「ピース・メーカー」
を名乗るアメリカの欺瞞に対する復讐として、国連ビルを爆破しようとする
のだが、家族を失う不条理に対する悲しみはよく伝わってくるが、
「なぜアメリカ?」という詳しい背景や論理が描かれていないので、
彼に対する共感度がイマイチ上がらない。
『踊る…』ではどこにも巨悪は出てこないのだけれど、犯人像がよく見える
だけに、虚構とリアリティーのバランスが良い。つまりそちらは見ていて入り
込みやすい。
とはいえ、このクルーニーとキッドマンは名コンビで、二人ともに
知性と野生をあふれさせていて昔のボンドガールみたいな美人ではなく
良きパートナーとしてのすがすがしさが有って良い。恋人になりそうで
ならない微妙な感じが気持ちよい緊張感。
・アイズワイドシャットのニコール・キッドマンはこれといった印象が
ないのだが、この作品では、か細い外見で有りながら心が強くて頑張る
いい女を演じて本当に良い。
・ビデオはTVサイズでやはりなんだか狭い。
劇場サイズで見直せば評価はさらに上がるかも知れない。
- ラスト「起爆装置が解除できずに爆発したのになんであの程度ですんだ?」
という疑問をwebに書いている人が居たが、理由は
「爆発したのは起爆装置の火薬だけだから」。
核爆弾は爆薬で圧縮して核を精密に一点に集中することで起爆するので、
爆薬の一片をナイフで分解したことで、起爆に失敗したというわけ。
そうはいっても大量の核物質が飛び散っちゃったことは間違いないので、
ただじゃ済まないとは思うけれど。映画でも一応後始末しようと言う様子は
映ってますね。
- ところで、「テロリストが核を強奪して追いかけっこ」という映画は
世の中にいくつ有るのだろう。
先日見た「007/ワールド・イズ・ノット・イナフ」はそうだし
「ゴールド・フィンガー」もそのような物だ。
「盗まれた・核弾頭」で検索してみるとブロークン・アロー、
新スパイ大作戦、新スーパーマン(37話)とか、他にも色々ありそう。
[2001.4.23] TV ★
TVで放映された物を再見。評価下がる(笑)
ハンス・ジマー音楽だが、冒頭のロシアのシーンに流れる音楽は
プロコフィエフのバレエ音楽「ロミオとジュリエット」の中の一曲にうり
二つだ。ロシアっぽいメロディーをどこかから取って来るにしても、こんな
有名な近代の曲を使うならそのまま使って著作権料を払った方が良いんじゃ
ないかな。
アメリカ側のシーンの音楽は、良くあるアメリカ人の士気を鼓舞する音楽。
ありふれた突撃ミュージックだ。
ミミ・レダー監督は今では結構メジャーだけれど、情感がベトベト
して暑苦しい。
まず、ロシアの核弾頭を解体して運び出すシーンは「蒸気機関車に電子ロック
搭載の貨車」という組み合わせが、確かにロシアでは蒸気機関車も現役なのかも
知れないけれど恣意的な演出だ。
そこに乗り込んで同胞を殺しまくる軍人も殺される軍人もロシア兵を馬鹿者
として描きすぎ。アメリカ人て嫌らしい。
盗まれた核弾頭を国連本部で爆発させようと言う東欧のテロリスト。
彼らの描き方も酷い。
確かに「民族紛争を激化させた責任はアメリカだ」という主張は明瞭だ。
しかし、人物描写は「巨人の星」の飛馬とバン忠太のごとくすぐに燃えて
抱き合って熱い涙を流し合う…みたいな、どう見ても「同胞愛」よりは「ホモ」
に見える、気持ち悪い男の抱擁が見苦しい。
国連を核で爆破しようなんて人たちは当然頭がおかしいので、感情表現が
不気味なのは差し引くとしても、こいつら、あんまり頭が良くない。しかし、
テロを計画するだけの知性は感じられた方がよい。
これからアメリカに乗り込むという前にテロリストが長々とピアノを弾く
シーンが挿入されるのも感情的に押しつけがましくて気持ち悪い。
結局、「ピースメーカー」アメリカの偽善性をちらつかせながら、最終的には
ロシア人も東欧人も悪者でアメリカ人は正義の味方さという結論に落ち着く
いつものハリウッド映画である。
ニコール・キッドマンの若々しい活躍が見られる所だけが救い。
■関連URL
[戻る | 目次]