映画館がやってきた! 映画鑑賞記

王様のレストラン

■DATA (年/)
脚本:三谷幸喜、音楽:服部隆之、プロデューサー:関口静夫、演出:鈴木雅之
役名(お仕事)役者名 - タイトルロール順
千石武(ギャルソン)松本幸四郎
原田禄郎(パトロン)筒井道隆
磯野しずか(シェフ・ド・キュイジーヌ)山口智子
三条政子(バルマン)鈴木京香
水原範朝(ディレクトール=支配人)西村雅彦
梶原民生(メートル・ドデル(最初はギャルソン))小野武彦
稲毛成志(シェフ・パティシエ(お菓子))梶原善
大庭金四郎(ソムリエ)白井晃
和田一(コミ)伊藤俊人
畑山秀忠(スー・シェフ)田口浩正
佐々木教綱(ブロン・ジュール)杉本隆吾
ジュラール・テュヴィヴィエ(ガルド・マンジェ)ジャッケー・ローロン

Story & 感想

[2001.5.6 - 8.3](VHS) ★★
 最近…といっても、ここ1,2年かな? TVドラマを真面目に見るようになった のだけれど、これと当たりを付けた物だけ見ているので数は少ない。しかし、 『古畑任三郎』関係の色々なページや『ラヂオの時間』の特典の対談を見たら、 「三谷ドラマの最高傑作は『王様のレストラン』だ」というので、これは見て おかなければなと。

■第1話・伝説のギャルソン「千石」が帰ってきた

 バブル崩壊後すっかり客の入りも途絶えて寂しいフレンチ・レストラン 「ベル・エキップ」で、オーナーシェフ が死んだ。シェフは臨時雇い、ギャルソンは教育されておらず、ソムリエは 熱心だがオタク過ぎて客あしらいが苦手…などなど。オーナーの抜けた 店にはすきま風が吹いていた。
 そんな店におどおどした若い男性客がやってくる。そして連れはフレンチの ことなら何でも知っているらしいジェントルマン。
 スタッフ一同「どこかわけ有り? あるいは評論家のお忍び?」と興味津々 だが、二人の会話の内容は彼らの想像も付かないものだった。
 …という始まり。  まずオープニングを飾る服部隆之の音楽が華々しくて、有無を言わさず 気分が高揚する。「料理の鉄人的」も有り、「ディズニーランド的」もあ り。久しぶりにドラマの中の音楽の凄さを感じてしまった。
 最近のドラマは初回が90分のスペシャルだったりするが、「無駄に長い」 と感じることも多々ある。最近では『ルーキー』なんかそうだったかな。
 『王様のレストラン』は通常の一時間番組(だから正味45分くらい)だが この第一話には、90分番組以上とも思えるほどの内容が詰まっていた。
 謎の客の正体が徐々に明かされていく下り。観客にちょっと遅れて 店のスタッフが正体にたどり着いてびっくりの下り、そういうスリルあふれる 展開の中に、駄目になってしまった店の中のスタッフ、それぞれの立場や性格、 人間関係を短い時間にきちんと流れに組み込んで紹介している。
 謎として残されるのは、ギャルソン千石の過去だけ。これは、この後 じっくり一話毎にエピソードが明らかになっていくのだろう。
 という対決の構図三本立ても、面白くなりそうだし、厨房の中の今は混沌 とした秩序がギャルソンの指導の下でフランスの三ツ星レストラン並みに なって行くであろう成長物語も期待できる。
 何か凄いことが起きそう、という予感をたっぷり与えてくれながらも、 要所にさりげなく笑いが散りばめられているのも、三谷作品らしくて 楽しいところ。あと、それとなくフレンチの知識が身に付きそうなのも 良い(笑)
 良いレストランには偉大なシェフと、ギャルソン、支配人の三人が必要 だと千石さんは言う。ギャルソンは勿論伝説の…と言われる男だが、 新人支配人は、それまでフレンチに全く興味の無かった小僧だし、シェフは もの凄い才能を秘めているけれど、経験不足で何より自分で自分の才能に 気付いていない。
 とにかく、45分に詰め込んだことにびっくりしてしまうような、ありと あらゆる話が面白くなりそうな要素を詰め込んだ第一話。
 役者がみな良いベテランを揃えているのも嬉しい話。
 続きが待てないって感じだ。

■第2話・復活への第一歩

 全くやる気がなく今日も厨房で「ぴあグルメ」などを眺めながら転職を 考えているシェフ、しずか。
 「シェフが臨時雇いでコースしかできない。アラカルトはメニューが 寂しいから乗せているだけで絶対に注文を取ってはいけない」という 先任のギャルソン梶原の言葉に頷きつつ、千石はしずかの目を覚ますべく、 わざと六品別々のアラカルトの注文を取ってしまう。
 大パニックの厨房の中で、人間関係の火花が散る。
 第二話では、復活した千石さんが少しずつ才能を光らせながら店の立て直しが 始まるが、反発するメンバーもいれば感心して味方に付く人間も居て力関係の 微妙さが面白い。

■第3話 「ヤメてやる、今夜」

 1,2話を見てから長い間があったのだが、なんと3話の冒頭には前回までの 復習(回想みたいな)が付いていてラッキー(笑)
 毎月50万円の赤字を出し続けているというBEの財政建て直しのために リストラするかも?と大騒ぎ。千石の進言でオーナーの禄郎が全員を面接して 誰を首にするかを考えるのだが…という話。
 スタッフは騒然とするが、面接に来る全員が有ること無いこと並べて 泣き落としに掛かったり、美味しいものを食べさせて点数を稼いだり、 コンクールの優勝歴を並べ立てて自慢したり…と、とてもまともな 面接には成らない。そして肝心のオーナーがイチイチ嘘を真に受けて 同情する物だから、ついに話はまとまらない。
 唯一肝心のシェフ・しずかだけが「誰かやめさせるくらいなら私がやめる」 と反抗する。
 1,2話では厨房の隅の皿洗い君などは、顔を見せただけで全然話に 絡んでこなかったけれど、今回は全員がどういう人なのか、店内の 力関係がどうなっているのかをきちんと紹介されて、なるほど、 と思った。(上手いエピソードだ)
 結論は、「皿洗いと食材係を首にするとちょうど30万円が浮きます」 というオーナーの説明に、スタッフ対経営陣の緊張が一機に高まるが、 「話を最後まで聞いてください」といった後の説明で話は急展開。
 業者に任せていた制服のクリーニングと掃除を自分でやる。コーヒー は一杯300円とする。タクシー代を節約する…と帳簿を洗ってみると、 結果はちょうど30万円。これで誰も首にすることなく店を救える。
 千石は「それで良いのです。お父様にあなたの半分でも優しさが有れば 私も店をやめることはなかったでしょう」とオーナーに言う。
 でもね、最初に面接をして首にする人間を決めましょうと言ったのは 千石さんなんだな、引っかけなんだな、ずるいよあんた(^^;;

■第4話 「偽りの料理の鉄人」

 首騒動が一件落着して、経営者としての信頼がちょびっと上がった オーナー・禄郎だが、ギャルソン・梶原の千石に対するライバル意識 の方は治まらない。
 スタッフ内で「千石は、最初の約束では平ギャルソンの約束だったのに すべてのことに口を出しすぎる。今後は口出し無用」と団結し、このまま では働けないと、経営陣と対立するが、千石は「では私たちだけで店を 開けるしかない」と範朝、禄郎の三人で店を開ける。
 スタッフは、しずかを大将に決めて控え室に籠城。
 千石は厨房にはいるが「実は料理なんかしたこと無いんです」と 白状する。もちろん、店はてんてこ舞いになるが、スタッフは控え室で トランプをしている。
 経営者寄りで団体行動に入らない(というより仲間はずれの) 政子(バルマン)は、なんとなく手伝いはじめ、大庭(ソムリエ)も、 「ワインの管理は日課だから」と持ち場に着く。ワインおたくぶりが 伺われてちょっと可愛いぞ。
 こうして、てんてこ舞いを続けるうちに、ついにしずかが千石の 料理を見かねて手伝いはじめたことで、厨房スタッフは全員仕事に 戻るが、発端の梶原、和田の二人は取り残され、 「このままうまく行ってしまうなら、僕たち居場所がないですね」 と嘆くが、最後には禄郎にお願いされた千石が「やっぱりあなた方が 居ないと店はやっていけません」といい気持ちにさせて一件落着。
 今後の店の雰囲気がどう変わるのか楽しみになるエピソードだ。

■第5話 「奇跡の夜」

 「一流の店には、その店を代表するスペシャリテが必要だ」と 千石としずかが新メニューづくりに取り組むお話。
 店が終わった後の時間、千石としずかは店に残って新メニューの開発 に取り組むが、なぜか店で飲み会を始めたりしてちらちらと覗きに来る 他のスタッフのかわいげの有るところも良い。基本的に「朝まで粘るぞ」 という二人のお話だが、店の全員に見せ場があるのだ。
 新メニューは「オマールエビのびっくりムース」
 オマールエビのムースにソースをかけるのではなく、ムースの内側に ソースが封じ込めてあり、切るとトロリとソースがあふれ出すというの がミソ。
 何度も失敗した最後の試作品に、居残っていた他のスタッフが しでかした偶然が次々と功を奏して完全な一皿となる。
 一皿の料理を考案するという、ただそれだけの小さな世界のお話だが、 冒頭から張り巡らされた伏線の数々が思わぬ偶然の形を取って料理を 完成へと導くラストの驚き、収束感はまるでミステリー作品のようで ある。

■第6話「一晩だけの支配人」

 「オマールエビのびっくりムース」も好評で、活気の戻ってきたベル・エキップ。 政子も「新しいカクテル」を研究するなど、仕事が楽しくなってきている様子。
 ギャルソンの梶原(小野武彦)の別れた妻と息子が店に来るが、梶原の態度がおかしい。 実は彼は家族に「自分はこの店の総支配人だ」と嘘をついており、せめて息子の前だけで もそういう話に…と、スタッフに泣きつく。
 普段店内で浮いている 梶原のこと、乗り気のスタッフは居ないが、人の良い禄郎(店長)はみんなで協力して あげることにする。だが、本物の総支配人・範朝に内緒ではじめたばかりに、話は 次々とこじれる。
 もと妻から再婚をうち明けられ見栄を張って「俺だってつき合っている人がこの店に…」 と言ってしまったことがきっかけで打った芝居が大失敗。なぜか「不倫男」になって しまった梶原の名誉回復のために、店に現れた不良客を格好良く追い払う芝居を 用意してさあ、というときに範朝のところに「本物の借金取り」が現れて大騒ぎになる。
 だが、この事件を何とか捌いて、息子の目にお父さんへの尊敬の笑顔が返ってくる。
 千石が来て以来疎外感に悩む梶原だが、スケベでいい加減な親爺の彼の良い ところはみんなを不快にさせない人の良さ…というのがテーマ。渋しぶながら 芝居に参加するスタッフの間にも、この事件で一段と結束が固まる。
 とにかく次から次ぎへとおきる嘘の上塗りが大爆笑(^^)

■第7話「笑わない客」

 日仏の外相会議の晩餐会場に爆弾騒ぎ、急遽「暇な無名のフレンチ」のベルエキップに 晩餐会のおはちが回ってくる。
 張り切るスタッフだが、大臣たちは交渉決裂、お互いを罵り合いながら 来店し肝心の料理に一口も手を付けない。
 スタッフ全員で雰囲気を和ませよう、あるいは食欲の沸く味付けを試みようと 奮闘するがまるで無駄。にこりともしない客、手を付けずに下げられる皿。 厨房を見張る渋顔のSPも思わず同情するほどの悲惨なディナー。思わず 握る拳に力が入ってしまうスタッフたち。
 無惨に溶けていくデーザーとを見てとうとう見かねた政子が、千石から 教えて貰ったフランス語で 「さっさと食べろ!」と連呼すると、なぜかフランスの大臣が 「懐かしいママに叱られたようだ」と感激してやっと手を付け 「こんなに素晴らしい料理に申し訳ないことをした」と最初から 食事会をやり直すことに。
 後日、この一件で和んで会談も上手く進んだことから、政子は 「フランス経済を救った女」として雑誌の表紙を飾るほどの重要人物 になってしまう。
 実は千石が政子に教えた言葉は「坊や、お口が動いてまちぇんよ」 という子供を叱るお母さんの言葉。それにしても、手を付けられない 皿が下がっていく光景には胸が痛むのだった。

■第8話「恋をしたシェフ」

 しずかの料理に感激したフランスの大臣が、本国の有名店で絶賛した ことから、彼女に本店のスーシェフとしての引き抜き話が来る。 給料はなんと今の7倍。
 こんなチャンスを棒に振るような料理人は失格だ。とまで言う千石だが、 ようやく軌道に乗ってきたベル・エキップにとってシェフの引き抜きは 店の存亡に関わる危機だった。
 今夜8時に迎えが来て面接だ、というしずかのまわりで、何とかして 足止めしようとあの手この手の妨害工作をするスタッフたち。
 だが、なんとか店を出たしずかは、帰りを待っていた千石に 「面接には行かず、映画を見て帰ってきてしまった」という。
 「男と女の間にはワインがなければ」と、差し入れてそっと帰るソムリエの大庭。 二人きりの店内で静かに語り合うしずかと千石の間に、ほのかな恋があるのだろうか?
 しずかと千石。結構歳の差があるので恋心といっても千石さんの慈しみのような、 喧嘩から始まった二人の関係穏やかな変化がしんみり来る話で、大庭の 変人なんだけれど高い美学をもつしゃれた一言も染み込む染み込む。
 そんなお店の裏で総支配人は、相変わらず「カラーひよこ」で大もうけ の夢を追っているが、ついに業者にダマされて大損の証拠が発覚する。
 どうする借金!

■第9話 「長い厄年の終り」

 ついに「カラーひよこ」が詐欺だったことに気付く範朝だが、 投資のためあちこちに借りまくった借金の返済の目処が立たない。 妻の実家の金を使い込んで帰ることも出来ない彼は、ついに店の売り上げと 権利書に手を付けようとする。
 ところが、休日だというのにコーラスの練習に出てきた従業員たちに 引っかかっているうちに、背広に隠した札束と権利書を発見され、ついに 店を辞めるべきだと責められることになる。
 しかし、彼を救ったのは弟禄郎の愛だった。
 …つまり、禄郎君は子犬のように純粋にお兄さんが大好きで、 誰も不幸にしたくないという、その一点だけはいつでも何にも優先する ポリシーだ。何度千石と対立しても最後は禄郎の優しさが勝つ。 こんな経営者が居たらみんな付いていくのかも知れ無いなあ…。

■第10話 「去る者、残る者」

 雑誌にベル・エキップの評が載る。しずかの料理は絶賛されるが、 メインが素晴らしいだけにデザートの平凡さが際だってしまうことが 指摘されて、パティシエの稲毛は落ち込む。
 自分はしずかの足を引っ張っていると稲毛はワインカーブに引きこもって 職場放棄。困った厨房では買ってきたケーキをデコレーションしてその場を 凌ぐが、千石はベル・エキップを真の一流の店にするために新たな パティシエを雇うべきだと主張し、他のみんなと対立する。
 ひとり店に残った千石は、自分の厳しさはかつて自分が対立した オーナーと同じではないかと気付き、その夜のうちに店を去る。
 翌朝出勤したスタッフはそのことに驚き、ギャルソン抜きでは 営業できないとうろたえるが、団結すれば千石抜きでも何とかなる はずだと店を開ける決心をする。
 …またも禄郎が「みんなで幸せになろう」を目標に頑張る。
 店のスタッフにとっては、千石からの巣立ちと言うことになる のだな。

■第11話 「奇跡」

 一年後、政子は範朝と結婚して「マダム」となり、バルマンは ソムリエの大庭が兼任。皿洗いの佐々木君が料理の手伝いに手を 出していたり、少し様子の変わったベル・エキップだが、店は ますます繁盛しているように見える。
 厨房には「今日は大変なお客様が来る」という噂が立ち、 禄郎はその人を迎えに行っているらしい。
 何組か、お客が来るたびにスタッフはざわめくが、禄郎が 連れてきたのはなんと千石だった。
 びびって逃げ出しそうになる稲毛だが、千石はみんなの 成長を味わうことになる。
 …うれしいうれしい、ハッピーエンドが待っている。
 とても充実感のあるラスト。毎回違った趣向で楽しませてくれて すべてが一つに収束する。やはり三谷ドラマの最高傑作という 世間の評価に間違いは無さそうだ。
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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!