映画館がやってきた! 映画鑑賞記

マスク・オブ・ゾロ

■DATA (日本劇場(有楽町),SDDS,1998.10.22)
監督:スピルバーグ/M.キャンベル,キャスト:A.バンデラス/A.ホプキンズ/キャサリン・ゼタ・ジョーンズ

Story

 20年前、農民に圧制を強いていたカリフォルニア知事モンテロは、母国 スペインへの召還命令を受けるが、最後に、農民の英雄、宿敵ゾロ(ディエゴ =アンソニー・ホプキンズ)をおびき出し、投獄する。
 ディエゴは、妻を失い、幼い娘はモンテロに連れ去られ、彼の子として育てら れる。

 そして20年後。モンテロはカリフォルニアを手に入れるために戻ってくる。
 ディエゴは長年閉じこめられていた牢を抜け出し、ナイフを手にモンテロに近 づくが、傍らに成長した娘「エレナ(=キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)」の姿を見 て、その場での復讐を思いとどまる。
 ディエゴは、モンテロの軍の隊長「キャプテン・ラブ」に兄を殺されて酒場で 酔いつぶれているアレハンドロ(=アントニオ・バンデラス)を見いだし、彼を第二 のゾロとして育る。
 剣(フェンシング)、戦う心、紳士としての気品。全てを若きゾロに託すディエゴ。
 二人は、スペインの貴族に変装してモンテロに近づき、彼の野望を探り当てた。
 アレハンドロは、宿敵ラブを倒せるのか?
 ディエゴは、モンテロから娘を取り戻せるのか?

感想

 この映画を見に行く前にちょうど「アランドロンのゾロ」が放送されたので、
何となく見比べると面白いかなと思っていたのですが、ゾロ映画に背景以外は
これと言った決まりはないようですね。

 ホプキンス(旧ゾロ)とバンデラス(新ゾロ)の二人のゾロが登場するのですが、
年は取っても気品に満ちたホプキンスに比べ、盗賊上がりで旧ゾロに拾われ訓練
されるバンデラスの新ゾロは、それゃもお小汚い小僧。
 敵の屋敷のパーティーに堂々と紛れ込むために「気品を身につけろ」みたいな
ことを旧ゾロに指示されて特訓&変装するわけですが、パーティーで
「汗くさいのは嫌いで…」とか言ってのける割にどうも「ぎらぎらに獣的」なの
は…、演出かも知れないけれど、スマートで格好いいバンデラスを見てみたかっ
た客にとっては、もひとつ納得のいかない所ではなかったかと思います。
 ま、タイプを分けるならエビータのバンデラスか、デスペラードのバンデラス
かってことですね。

 冒頭の旧ゾロの現役時代の活躍シーンは、アランドロンのゾロにもあった爽快
で格好いいシーケンスです。文句無しに気持ちいい。
 これにくらべると新ゾロ、バンデラスには爽快なチャンバラはあまり無い。
 いちばん見せるのは、旧ゾロの娘とのチャンバラでしょう。予告編でもくり返
し見せてくれましたが、やっぱり素晴らしい。ゾロが主導権を握っているようで
いて、ずばっと切り込まれたりするとわくわくしてしまいますね。

 新ゾロはどうも、もう一つ格好良さを抑制されている気がします。
 馬泥棒シーンは新ゾロのデビュー戦で、腕前イマイチ、強運で乗り切るが、
どうも、愛馬と目を付けた馬には馬鹿にされて、ちっともまともに乗れない。
(馬が笑うってのは、ひょっとしたらCGI効果かしらん?)
 馬に笑われるのはジョークとしても、この格好良くなさ加減は、ひょっとした
ら続編への布石では…と勘ぐりたくなるほどであります。

 もう一つの問題は、悪役の悪さが明瞭でない所か。
 農民に対する厳しい圧制を敷く「体制側の象徴」というのが、ゾロの戦う相手
だと思うのですが、さらってきた農民を使っているとはいえ、
「金で支配権を買おうとする」という悪役は、ちょっと憎しみの入り方が浅く
ないでしょうか? ずる賢い小物に見えてしまいます。

 吹き替え無しだというフェンシングの技はなかなか見物で、素晴らしいと思い
ましたが、最後の決戦に至るとどうも散漫になったような気もします。
 長すぎるんですな。

 色々考えるに、ゾロが二人。敵も提督と、親衛隊長の二人で、戦いの視点が
散ってしまい、悪者も黒幕と部下の二つに散ってしまい、最後の山場に引き
つける力が分散してしまったのではないかと思います。
 ホプキンスの旧ゾロの死を最後まで引っ張らずに、適当なところで新ゾロに
全てを背負わせるという流れにすれば、ぐっと引き締まったのでは?
 さらに、ホプキンスの「大人の格好良さ」と、バンデラスの新人ゾロとしての
格の違いを書き込むあまりに、バンデラスを生かし切れなかったところが、
爽快さが得られない原因になっていると思います。

 とはいえ、最後の鉱山大爆発のシーンの火薬の量というのは異常なまでの物で
正直、圧倒されました(^^;;

 全体的にとても面白かったですが、「もっと面白くなるんじゃないのか?」
という勝手な期待感が騒いでしまった…というのが、この作品に対する私の評価
です。

●DVD版の感想

 まず、美しいピクチャーレーベル仕様。映画の内容には全然関係ないです
が、こういうものは何だかうれしいものです。(初回限定だとか)
 それから、期待していたとおり、音響はとても良かった。
 映画館のぼやけた音響では味わえない、シャープな移動感、包囲感がばっちり
楽しめます。
 殺陣のシーンなどで、様式美的に盛り上げるフラメンコのリズム。なかなか
良いんじゃないかと思います。

 なんだか、映画館で見たのより印象が良い。
 エレナの知的な美しさ、旧ゾロ(ホプキンス)の気品、新ゾロ(バンデラス)の
野性味溢れる魅力。そして、エレナと新ゾロのロマンスの駆け引きの妙や、
吹き替え無しのフェンシングの技のキレ。
 そんなものが、よく見えて楽しめた。

 ストーリー的には、随所に強引と思われる運びや、型にはまりすぎの所があり、
B級テイストがにじみ出ているのが残念だが、役者の魅力が良く出ているという
点で、存分に楽しめる作品だと思う。

■関連URL

[戻る | 目次]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!