映画館がやってきた! 映画鑑賞記

王は踊る

■DATA (2000年/ベルギー・フランス・ドイツ合作 原題 Le Roi danse)
スタッフ:
字幕:古田由紀子/吹替:杉森いちご
キャスト:

Story

 ルイ14世時代、国王のために3,000曲もの音楽を捧げたリュリ。彼の周囲に渦巻く 愛と陰謀を描く。

感想

[2002.5.3] DVD ★☆
 ルイ14世時代、17世紀を描いた作品というと他に、  などを見たことがあるが、ルイ14世は長生きしたこともあって歴史上のエピソード に事欠かない(と妻が言っておる)。
 本作はルイ14世の少年時代から中年期まで幅広い時代にまたがり、宮廷作曲家として 雇われた若きリュリが死ぬまでのエピソードが「王権の権威と調和の象徴」としての 音楽とダンスを巡って繰り広げられる。
 ルイの少年期に頭角を現すリュリ。22歳で政治の実権を握るルイ。その裏側で蠢く 権力闘争に音楽家も巻き込まれ、モリエールとリュリの二人が作り上げた舞台が教会 批判を咎められて上演中止になったりと、芸術家の不安定な基盤も描かれる。
 リュリは結婚はするが、ルイに全てを捧げて家庭はお留守。しかし男色禁止の厳し い掟のために、満たされず屈折する。
 リュリとモリエールは宮廷のイベント全てを取り仕切るまでになるが、モリエールの 晩年にはリュリの裏切りで全ての権利はリュリに独り占めにされる。
 さらに「バレエ」にナレーションを付けて王を讃えていたフランスに、オペラという 形式が入り込み、バレエと融合し全てを歌で表現する「フランス式オペラ」の成立まで が描かれる。
 そういう幾多のエピソードが「杖で足をついて死ぬ」リュリの死の床での回想という 形式でまとめられている。
 ちょいと爛れたフランス宮廷での生活が克明に描かれて興味深い反面、長年にわたる 多数のエピソードを詰め込んだためにドラマとしては表面的で未消化な感じもする。 歴史マニア向けの作品という感じだ。
 音楽と楽士達の使っている楽器は最近の作品では当たり前のことになりつつあるが、 きちんと時代を再現していて古楽マニアには興味深い。この作品で初めて目にしたのは リュリが常に背負っている超小型ヴァイオリン「ポシェット」という楽器。
 なんとなく「武士の刀」という感じで格好いい。
 肝心の「バロックダンス」が、当時踊られていたものを再現した物だというのも 大きな売り物。その割には踊りのシーンが少ない映画ではあるが、ルイの王者らしい 力強い踊りというのは「ダンスで人々を魅了し支配した」という言葉に偽り無しと 思わせる力がある。

 『女優マルキーズ』は「モリエール」の死の前後数年を集中的に取り上げているが、 モリエールはマルキーズの方が味のある渋い中年で、王は踊るの方では完全な道化 親父。「リュリ」に至っては下膨れしたオヤジで、王は踊るのリュリがむちゃくちゃ 美男なのとはずいぶん違う。史実は如何に(^^;;
 ルイ14世も王は踊るのルイ(ブノワ・マジメル)がもの凄い美男なのはともかく、 マルキーズのルイの方が設定が年上な事を考えればこちらも悪くはない。史実のルイも 美男だったということか。もちろん「仮面の男」のディカプリオもいい男だ。
 リュリの最晩年のエピソードに「だが王は踊らなかった」という台詞がある。 これだけじゃなんのことか分からないが、『マルキーズ』の中に興の乗った王が 舞台に上がりマルキーズの手を取って踊るシーンがあり、二つの映画を見て初めて これらのシーンの真意が分かる。
 セットでどうぞ、という感じ。王は踊るは「美男編」マルキーズは「美女編」と 言うことで。

Le Roi danse: 曲目一覧(2001.3.15) 

ジャン=バティスト・リュリ(1632-1687) 

テ・デウム(器楽合奏)
ジャック・コルディエ(生年不明、1580から活躍〜1655以前没)
ラ・ボカンヌ・プリミティヴ
ラ・ボカンヌ・コンプリケ
ジャン=バティスト・リュリ
「ファエトン」より<踊る惑星群>(プロローグ)
「夜のバレ」より序曲
「快楽のバレ」よりサラバンド
「夜のバレ」より<国王が昇る太陽を演じる>
「セルセ」より
トロンペット・マリーヌを奏する水夫たちのエール
踊る奴隷と猿たちのエール
スカラムーシュ役のエール
博士たち、フリヴラン、ポリシネルたちのエール
踊る奴隷たちのエール
「平和の田園詩」より<皇太子妃のエール>
「アルシディアーヌのバレ」より
リトゥルネルとイレール嬢のエール
序曲
「愛の勝利」より序曲
「ペルセ」より<地獄の神々のアントレ>(第3幕第10場)
「町人貴族」より
トルコ人の儀式のための行進曲
<ジュルダン>
スカラムーシュ、フリヴラン、アルルカンのシャコンヌ
ミシェル・ランベール(1610-1677)
<私の恋人の影が>(エール・ド・クール)
ジャン=バティスト・リュリ
「愛の勝利」より<夜のプレリュード>
ロベール・カンベール(生年不明、1627から活躍〜1677)
「ポモーヌ」より
<この果樹園で一緒に生きていこう>(第1幕第1場)
<いったい何だ、私の目よ>(第2幕第4場)
ジャン=バティスト・リュリ
「アルミード」より<この場所を見れば見るほど>(第2幕第3場)
器楽・ヴァイオリン・ソロ:フロリアン・ドイテル
「アティス」より<眠り>、<眠れ、みんな眠れ>(第3幕第4場)
 器楽・ヴァイオリン・ソロ:フロリアン・ドイテル
「アルミード」より
パッサカリア(第5幕)
プレリュード(第2幕第5場」
<スペインのフォリア>
「気前のよい恋人たち」より<アポロンのアントレ>
オリジナル・サウンドトラックより (ユニバーサルミュージック 関根敏子訳) 

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!