映画館がやってきた! | 映画鑑賞記 |
1412年。ジャンヌ・ダルクはフランスの田舎、ドンレミ村で生まれる。 のどかな農村で天真爛漫に育ち不思議な天の声を聴いた少女の村を、 13歳のある日イギリス軍が襲い、隠れ場所をジャンヌに譲った姉は、 ジャンヌの目の前で殺される。告悔を聴いた神父は、復讐が平和を もたらさないことを説いて聴かせるが、ジャンヌの心に平穏はなく、 この事件をきっかけに彼女は異様な情熱で神に帰依することを誓う。 17歳になったジヤンヌは「フランスを解放し、王太子シャルルを王位につけよ」 という神の声を聴き、彼の元を尋ねる。ためらう王太子に義母ヨランドは、 すでに伝説を背景に民衆の支持を集め始めているこの娘を利用して、膠着した 戦局を打破することを薦める。 1429年。兵を得たジャンヌは、少女の指揮を快く思わない兵士達と衝突するが、 白馬にまたがり敵の砦に突撃し、劇的な勝利を呼ぶ。兵士達の信頼を得た ジャンヌは快進撃を続け、ついにはランスを奪還し シャルルの戴冠式が行われるが、味方の損害もまた凄まじく、ジャンヌは 恐怖と迷いを感じる。 さらにパリ奪回に兵を薦めるジャンヌに対して、王は増援の兵を送らない。 ジャンヌの人気が邪魔になることを恐れた一派のたくらみで、ジャンヌは イギリスと通じているブルゴーニュ派に売られる。 民衆からジャンヌ釈放のための身代金が寄せられるが、王はこれを握りつぶし、 ジャンヌの裁判は全てイギリスの筋書で進む。 異端審問にかけられたジャンヌは、牢の中で自分の良心と向き合い 激しい問答を重ねる。 お告げは本当に神の声であったか。復讐のための 流血ではなかったか。自分は神の印の中に自分の見たいものを見ていただけで はないのか。 火刑か、それとも異端を認めるか…。ついにジャンヌは自分の聴いたものが 神の声などではなかったことを認める署名をするが、イギリスの執拗な ワナによって再び捉えられ、ついにジャンヌは火刑台の上で赤い炎に包まれる。 1431年、ルーアンのことであった。 |
成長して神からお告げをもらい王太子シャルルの目の前に現れるジャンヌの
目には妖しい光が宿っている。動作の全てに、前に前に突き進む狂おしい力が
こもっており、鬼気迫るといった感じ。
城の中には、すでにフランス領土の半分をイギリスに占領され敗色濃厚な
国の疲れ果てた暗さが漂っており、王太子シャルルの
「絶対戦に勝て無さそうなダメ王子」の雰囲気はあまりにもはまりすぎだし、
結局良くわからない黒幕の義母ヨランダ(フェイ・ダナウェイ)の怪しげで
悪そうな容貌も強烈なインパクト。
中盤の見所は何と言っても戦闘シーンだが、1500人の歩兵を実際に配置し
コンピューター映像を使っていないという画面はまさに、血しぶきの香り。
騎馬戦をロングで押さえたショットは黒澤を思わせて熱くなるものが
あるが、肉弾戦の混沌の中に踏み込んだカメラがまた凄くて、あんな
混戦では、いくら映画とはいえ、さぞかし怪我人も出たのではないかと思
わせる。
そして、戦闘の悲惨さをまともに描く死体の山。取り乱すジャンヌに
ちらりと見える只の女の子の顔と、それでも敵を倒すと宣言する狂気との交錯。
戦闘シーンのリアルさも凄かったが、後半の裁判シーンとジャンヌの
良心との対話もスピード感のある編集で畳みかけるよう。
映像の見所は中盤だが、聖少女としてのジャンヌを一人の人間として描き
直すという視点からは、これこそが見所だろう。
復讐の狂気と、良心の葛藤。中世キリスト教会の権威とこけおどし、
フランスの人間とイギリスの人間の駆け引き、様々なやり取りがぎっしり
詰まっているが、ここを面白く見せているのは、脚本と共にスピーディーな
場面展開を繰り広げる編集の力も大きいと思う。
史実通り、ジャンヌの火刑で物語は幕を閉じる。
こういう内容だから「楽しい!」という感じではないが、2時間37分の
長尺で、時間を忘れさせる迫力とドラマがあった。ジャンヌとはいったい
何であったか、思いを巡らせたくなる。
最近「歴史物」の映画が多いが、それらの中でも一級の出来映えだと思う。 男装のジャンヌ以外ほとんど女性がおらず、華やかさがないことは映画一般の 楽しみからすれば残念だが、ミラのアップになった容貌には不思議な造形美が あり、この人がジャンヌダルクを演じたのは素晴らしいことだったと思う。
文:唐澤 清彦 | 映画館がやってきた! |