映画館がやってきた! 映画鑑賞記

HANA-BI

Story

 切れ者刑事(たけし)が、事件中に犯人の銃で仲間を失ったり、半身不随に なったりという経験を経て、刑事を辞職し、病気で余命幾ばくもない妻(岸本加世子)を 連れて旅に出る。
 だが、殉職した仲間の刑事の奥さんへの送金や、妻の入院費用が かさんだため、暴力団に多額の借金をしており、これにけりを付けるために銀行強盗を する。だから、妻との旅は片道切符の逃避行だった…。

感想

 初めての北野作品の鑑賞。ベネツィアで金獅子賞だかを取ったというこの作品は、 北野作品として7作目だそうで、監督業にも手慣れてきた所か。
(最初に彼が監督をしたのは「予定していた監督が降りてしまったから」 というのだから、世の中なにが幸運をもたらすのかわからない。)
 とにかくセリフが少なくて暗い。それもさることながら、どんどんシーンが飛ぶ。 回想シーンがフラッシュバックする。(辞職した後は)悪い奴らは容赦なく殺して行くが 病気の妻との旅は、無言の中に愛情を感じさせる。
 北野映画は暴力シーンが何かと取りざたされるが、無言でばきばき殴り倒したり、 頭を打ち抜いたりするから怖いのであって、ハリウッド映画は画面の外でとばっちり を食って大勢吹っ飛んでいるのだろうな〜という気がする。生身の暴力のインパクト というのか…。しかし、個人的には逆に「一撃で血反吐を吐いて崩れ落ちる」という 圧倒的な強さの中に「記号化された暴力」とでもいうような、乾いたものを感じる のだ。
 無言の中に、人生の意味を考え直せざるを得なくなった男の苦しさと狂気が現れてい るし、妻への愛情も、何しろ無言なので分かりにくいながらも、徐々に観客に伝わって くる。
 意外なほど娯楽映画ではないのだけれど、語りすぎない、映画だから出来る表現 というのが、不思議なほどあり、海外で評価されたのも偶然ではないと感じた。 監督としての素人っぽさもまだあるのかも知れないが、力のある映画だ。 (1999.6.30 鑑賞)

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!