映画館がやってきた! 映画鑑賞記

ハムレット

■DATA (1996年作品、1999.9鑑賞)
監督:ケネス・ブラナー、キャスト:K.ブラナー/ケイト・ウィンスレット

Story

 時代設定を中世から19世紀に移して、シェイクスピアの戯曲を完全映画化した、4時間3分の超大作。

 舞台はデンマーク。先王が無くなって早4ヶ月。実弟が王位を継ぎ、先王の妃を 自らの妃とし、戴冠式を執り行っている。
 そこに、いまだ喪に服し、妃の貞節の無さに批判と疑いを持つ王子ハムレット (ケネス・ブラナー)が黒装束で登場。うっとおしい北欧の冬、喪服の青年、 華やかだがどこか寒々しい宮殿。いきなり文学文学な世界爆発である。
 …その夜、無くなった先王ハムレットの亡霊が現れ息子のハムレットに告げる。
『私は毒殺された。その男は今王冠を頂いている。私から命ばかりか、王位も、妃も奪い取ったのだ』
 ハムレットの復讐劇はやがて未曾有の悲劇へと突き進む。

感想

 エリザベス、恋に落ちたシェークスピアetc.と、最近イギリスものに注目しており、 ケイト・ウィンスレットが出演していて、全然知らなかった…。 そんなわけでレンタルしてみた作品。
 96年製作(監督:ケネス・ブラナー)の映画で、なにしろ4時間3分の超大作なので 国内では大々的な ロードショーもなかったようだが、大変面白い。面白いが、延々セリフで一度 では頭に入らないので、レンタルでは物足りない。何度も見たいので、ぜひDVDで 発売して欲しいと思う一本。(ビデオはTVサイズというのも辛い)

 中に蒸気機関車が出てくるのが???と思ったら時代設定は19世紀に 書き直されているのだそうだ(つまり産業革命まっただ中)。宮廷に有色人種が 出入りしているのも19世紀だから?
 ちょっと落ち着かない気がするのだが、映画界もこういう時代だから仕方ないか…?

 先王の亡霊登場シーンなどは、映画ならではの迫力だが、シェイクスピア独特 のセリフ回しのため「映画で見る演劇」というスタンスで見る方が違和感がない。
 カメラワークにしても、(目が回るほど)360度回り込みが多用されているが、 恐らく、舞台の緊張感を引き出すために長回しをしたくて、登場人物のアップを 繋いでいく代わりに、回り込んでいるのではないかと見える。

 話はハムレットそのものであるので、映画としてどうかと言うことに絞れば、 役者については、ケネス・ブラナー(ハムレット)、ケイト・ウィンスレット (オフィーリア)の存在感の確かさが飛び抜けており、好演だと思う。半面、 ロビン・ウィリアムスなどの有名俳優がちょい役で何人も出ているようだが、 それほどの印象は残らず、それは無駄遣いのような気がする。
 ケネスは、若き王子を演じるには年が行っているのではないかという意見も あるようだが、まわりの「ご学友」と年齢が揃っているので、これはこれで 違和感はない。特に最後の葬送のシーンで棺の中に横たわる彼は 『偉大な王になるであったろう人を失った…』という立派さがにじみ出ていて 物語の格が上がったと言っても良いほど重厚だ。
 ケイトのオフィーリアは、恋と絶望に狂って死んで行くには逞しいという 気もするが、しかし、いかにも儚げな女性が狂うより、ケイトの健康的な笑顔が 却って狂気の無惨さを引き立てているように思えるので、これはなかなか素晴ら しいキャスティングではないかと思える。兄に向かって空想の花を摘んでみせる シーンの狂気は魅せる。

 話のメリハリについては、基本的にはシェイクスピアに忠実に、だが、 「生きるべきか死ぬべきか…」や「オフィーリアの死」などの有名シーンは もっともり立てて観客サービスしても良かったのではないかと思う。
 例えばオフィーリアの死などは、これをテーマに描かれた絵画もあり、 我々の心にはそれなりのイメージが有る。しかし映画では一瞬の挿入映像 しかない。これをオフィーリアの死を告げる長い語りで、役者を写さずに、 淡々と水底のオフィーリアを見せる絵にしても良いんじゃないか…、そこが 硬派に「舞台の映画化」を進めるか、観客にサービスするか、考え方の違い かなという気がする。
 まあ、ハリウッドでキャメロンが撮ったら、ケイトはたっぷり水に沈められ ただろう(^^;
 何もかもセリフで押していくこの「アンチ映画的手法」から、ケネスの 「シェークスピア映画」という別のジャンルの表現だと考えても良いような 気がする。
 それでも、ラストの御前試合で王家滅亡のシーンは、映画でなければ出来ない スピーディーでスリリングな映像と展開で、4時間の長丁場に疲れてきた 観客の目を覚まして引き締めてく、素晴らしいと思う。

 ともあれ、役者が良いのか、シェイクスピアが偉いのか。「今世紀最後の 大長編映画」(確かに)は、繰り返し見たい作品の一つとして心に残った。

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!