映画館がやってきた! 映画鑑賞記

グリーンデステニー

■DATA (2000年/アメリカ,中国)
監督アン・リー
  キャスト:チョウ・ユンファ/ミシェル・ヨー/チャン・ツィイー/チャン・チェン)

Story

 物語は主人公のリームーバイ(チョウ・ユンファ)が武侠を引退しようと、 北京のティエ氏(ラン・シャン)に名剣「碧名剣」を献上する。
 女弟子のユー・シューリン(ヨー)は剣を預かり無事届けるが、その夜 何者かによって剣は盗まれてしまう。
 実はその盗賊は長官の娘イェン(チャン・ツィイー)で、表向きはこれから親の決めた許嫁の所に嫁ぐという 良家の子女だが、実は何年か前に西域の砂漠で盗賊(馬賊)に盗まれた櫛を追いかけ て盗賊の頭と戦い家族とはぐれるうちに彼と愛し合う…というロマンスを秘めており、 しかも彼女は8歳の頃から、長官の家に使用人として紛れ込んでいた女盗賊に 武術の奥義を伝えられており、しかも、その女盗賊はリームーバイの師匠の 仇だという。

感想

[2001.8.29](DVD) ★☆
 監督の「アン・リー」ってあの文芸映画「いつか晴れた日に」の監督なのね。
 これは、産業革命時代の女性の自立の物語。そしてグリーンデステニーも、 『武術版・いつか晴れた日に』だってスタッフが言うんだから間違いない。確かに そうも見えるね。

 結局剣を盗み出したのは「強いられた結婚から逃れて武侠として自由に生きたい。 そして彼と結ばれたい」というイェンの恋心。
 盗賊と名家の娘という家に縛られた若い二人のラブストーリーの一方で、かつて 親友を失ったリーと親友の婚約者であったシューリンの、操や義理に阻まれた恋心も 大きな流れになって、結ばれない二つ恋の物語が展開される。
 大人の恋の話は「歯がゆいぞ、もっと素直になれよ〜」と声を掛けたくなるが、 まぁ大人故の渋い恋愛なのは共感できる。
 問題なのは若いイェンで、剣を盗んだり戻したり、盗賊の元に走ったり親元に戻ったり、 女盗賊との仲も不安定だし、シューリンと結んだ姉妹の契りも撤回して壮絶な剣戟、 そして結婚行列に走り込んできた盗賊の恋人を見ての家出の先々での破壊の限りと、 やることなすこと破天荒。彼女の一貫性の無さが作品そのものをもかき回している 気がするのだがどうだろう?
 もちろん、彼女の立ち回る先ではバリバリとアクションが展開する。
 彼女の回りは見せ場の山が築かれる。

 チョウ・ユンファの動きは幾らトレーニングしたと言っても、限界はあるが、 ミッシェル・ヨーとチャン・ツィイーの二人のアクション、立ち回りは本物だ。 見とれる価値がある。

■しびれるぞ、碧銘剣
 「碧銘剣」というのは、薄刃で鞘から抜くと「ぷるるるん」と震えるほど。 ちょうど鋸の歯のようなしなり具合。
 映画の中では剣を抜くとその震えに呼応して「ひゅ〜ん」と澄みきった音が 鳴る。この演出がなかなかグッとくるのですね。外観以上にあの音が存在感を 主張していてここぞと言うところでひきしまるのだなぁ。

■ワイヤーアクションの賞味期限は切れた
 立ち回りの一方で、この作品は「ひらりひらりと屋根の上を飛び回ったり竹林を浮揚したり、 水の上を走ったり」と、武術家と言うよりは「仙人か超能力者か」というアクション が多く、ワイヤーアクションとしては先端技術を駆使しているのだろうが、宮崎アニメ の飛行感を知っている我々としては、どう見ても吊っているように見えるあのアクション はどっちらけ。今更TVでウルトラマンの飛行機の吊りを見てしまったような気恥ずかしさ を感じる。
 本来は放物線を画いて飛んでいくはずの物体が、どう見ても振り子の動きだから、 ぶら下がっているようにしか見えないのは当然だと思う。
 垂直の壁を走るシーンも多いが、もともと不可能事であることを置いても、 動きに力感が無い。走っているのではなく走らされているように見える。
 そういうわけで、『マトリックス』では衝撃的だったワイヤーアクションだが、 単純に量的な拡大を指向するのはもう限界ではないかと思う。
 壁走り、屋根走りとも、ルパンやコナンを見て演出の研究をした方が良い。
 「反重力を使いこなす仙人」という設定であっても、浮揚中に振り子運動が ちらついては興ざめだろう。

 …そういうわけで、本作のワイヤーの使い方には否定的な私だが、ツィイーの 剣の素晴らしさはやっぱり誉めるべきだと思う。
 色々な不満はあるのだけれどとにかくツィイーの不思議な魅力は たいしたものだし、チョウ・ユンファもタイの王様より武道の師匠は似合って いるような気がする。武侠版『いつか晴れた日に』としては主人公の行動は 幼すぎるけれど、娯楽作としては満足できた。  ちなみに、チャン・ツィイーは『初恋のきた道』がデビュー作。
 あまりにも良かったので脚本を直して、脇役からどんどん主役扱いになった ので、チョウ・ユンファが「ちょっと…」と言ったとか言わないとか…という 話があるらしい。
 スタントがやっている場所も多々あるらしいが、ほとんど分からないのも 良くできている。ミッシェル・ヨーはかなり自分でやっているらしいが、 怪我もしたそうな。まぁとにかくアクションも良いが、力のある目をしている というのがポイントでしょう。

■DVD
 DVDの特典には「無名だが本当の主人公」であるツィイーの紹介が無い。 一体DVDの制作スタッフは中身を見て作っているのか?特典映像の仲でも彼女を発掘 したことが本作の成功の鍵だったというようなことを言っているのに、DVDには 何一つ情報がない。DVDの特典は酷い手抜きだと思う。ゆるせん!

 オマケのCD-ROMには、予告編とキャスト・スタッフ、ほぼ公式HPと同じ 内容が収められているが、マクロメディアフラッシュの最新版を入れないと PCがハングアップするし、動いても死ぬほど重くて、内容も中途半端。 全然有り難くない。DVD本体にきっちりと特典を作り込めばこんなものは 不要なのに!

■etc.
 最近のワイヤー使いすぎ映画の反動か、ジェット・リーの新作では 「ワイヤーを使っていない」というのが売り文句なのは良いことだと思う。 本物の肉体を駆使できる役者を、カラクリでスポイルしてはいけないです。

 ツィイーは現在『ラッシュアワー2』のボスターの隅に「東洋最強の美女」 みたいなコピーで映っているけれど、出で立ちが「パンツスーツ」なの。 すげ〜似合っていなくて悲しい。街でOLを見ても思うけれど東洋人女性に パンツスーツが似合うひとはごく僅かだと思うけれど…


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!