映画館がやってきた! 映画鑑賞記

梟の城

■DATA (1999年/日本)監督:篠田正浩,原作:司馬遼太郎
キャスト:中井貴一(葛籠重蔵),鶴田真由(小萩),葉月里緒菜(木さる),上川隆也(風間五平)

Story

 信長に伊賀の里を根絶やしにされ雌伏していた忍者、葛籠重蔵(中井貴一) の元に「秀吉暗殺」の命が下る。
 依頼主の代理人として現れながら、敵か味方かわからぬくノ一「小萩」(鶴田真由) に、愛情と命の危機を同時に感じながら、重蔵は仲間達と京の街の治安を乱し 大公暗殺の準備を進めるが、そこに影の世界をいとい、立身出世を夢見て 伊賀から公儀の隠密に寝返った昔の仲間、風間五平(上川隆也)が立ちふさがる。 裏切り者とは言え昔の仲間。冷酷になり切れぬ重蔵は、苦しい戦いを強いられる。
 しかし、太閤に世継ぎが出来たことで暗殺計画は白紙になり、これを知る者の 抹殺が始まる。
 差し向けられた甲賀の敵、摩利支天洞玄との戦いで重蔵は瀕死の傷を負い、 小萩の元に逃げ延びる。献身的な看病、生きる意味を問う日々の中で二人の 愛情は確かな物になって行く。
 追っ手から逃れて共に暮らそうと願う小萩。しかし、回復した重蔵は自らの 生きる意味を賭けて秀吉暗殺に赴く。「生きていたなら必ず戻る」と言い残して。

感想

[1999.12.6 ヴァージンシネマズ市川コルトンプラザno.3/THX]
 「愛するのか殺すのか」というのが、予告編のコピーだったが、まさに そういう内容。司馬遼太郎の原作でもそうだが「秀吉暗殺=天下が動く」 という一般的な図式は、ここでは「忍者は 特定の組織に忠義を尽くすことはなく、天下国家のことは考えない」という 論理のために成り立たず、この大仕事もひたすら重蔵個人の問題として 描かれている。むしろ「結果、世の行く末」に思いしてしまう重蔵こそが 異端として書かれる。
 謎の女「小萩」、裏切り者「五平」に対しても、技は伊賀きっての忍者で ありながら冷酷な暗殺者になれぬ重蔵の弱さに、中井貴一の微妙な線の細さが 似合っている。
 冒頭の『信長の伊賀の里の大虐殺』シーンは炎と爆発の嵐だが、 重蔵が京都に潜んでからは、忍び対忍びの戦い故、地味な肉弾戦の連続。
 かの白土三平も「忍び同士の戦いは一般人には梢が騒いだかのようにしか 見えない刹那に決するもの」と書き、また原作にも「忍びの 技は逃げるためにある」と在るとおり、本来の忍者の戦いは地味な物。
 ハリウッド映画"RONIN"のように「スパイが市街で銃撃戦」なんて あり得ないシチュエーションは無い。闇の中に刀を打ち合う音のみ。
 それが『娯楽映画』的にはマイナスでは在ろうけれど、CIAの軍事教官 を務める日本人(毛利元貞)に指導を仰いだと言うとおり、音もなく人を殺す忍者の リアリティーはこれまでに無いレベル。手裏剣も、とんぼ返りも、高い塀も ひとっ飛びも、ショーアップされた忍者の技は一つもない。
 そして、戦いの目的も最後にはあらゆる組織から捨てられ、重蔵個人の 生きる意味を探すためになる。これまた地味。

 この映画は忍びとして生まれた重蔵が人として生きるために 苦しみ、不器用ながら愛を勝ち得るまでの過程を描いた『恋愛映画』 なのだな。
 ハリウッド映画のような爽快感はないけれど、司馬遼太郎の 歴史小説の世界の深み、大河感覚には手応えがあった。

 音楽「湯浅譲治」はNHK大河小説の音楽も沢山書いており、まあそういう 感じだが、時代劇に良く合う。甲賀者との対決の後ろに流れる怖い音楽 は恐らく「タン・ドゥン」でしょう。
 夜のシーンが多いけれど、ハリウッド的に記号化してやたら 「夜=青い照明」を当てるということが無く、月明かりの青白い光と 蝋燭の赤い光で撮影されていたのが印象的。邦画らしい。
 THX劇場のドルビーデジタル(もしかしたらdts)音声で鑑賞したが、 全体のまとまり感はもうひと頑張りのシーンがあちこちにあった。 しかし、移動感、定位感はたいした物で、サラウンドの 面白みが満喫できた。
 「忍者の気配を殺した気配」なんてものが音で表現されているので、 いい加減な音響の劇場で見たらちょっと味わえない演出がなされて 居るとも言える。

●映画館について
 コルトンプラザ市川のNo.3スクリーンはTHXではあるが、 同館のプレミア・スクリーンよりちょっと非力で、若干の振動音 (ハム音っぽいが電気音かどうか不明)が漏れていた。
 「梟の城」はまるで無音の中に遠くから虫の音が聞こえてきたり、 衣擦れの音があったりと、耳をすますシーンが多いだけに、より いっそうの努力を願いたい。
 約130席。7列22人掛け。B,C列の間に通路。ベストは「C-11席」
 チケット販売窓口の係員が、イマイチ不慣れな感じなのが歯がゆい。 全席指定なのだから、もっとスムーズに良い席の相談に乗って欲しい 物である。
 せめてチケット売場に座席表を掲示すべきだろう。
 映画の予告編を流しているTVが小さくて、しかも無音。最低50インチ に小さくても良いから音を付けて欲しい。だいたい、静かすぎると ロビーがブキミ。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!