映画館がやってきた! 映画鑑賞記

エリザベス

■DATA 第71回アカデミー賞受賞
監督:シェカール・カプール,脚本:マイケル・ハースト
キャスト: ケイト・ブランシェット(エリザベス),ジョセフ・ファインズ(ロバート・ダドリー), ジェフリー・ラッシュ(ウォルシンガム),リチャード・アッテンボロー(ウィリアム・セシル)

Story

 16世紀。英国王「ヘンリー8世」とアン・ブーリンの間に二番目の娘として生まれたエリザベス (ケイト・ブランシェット)は、腹違いの姉「メアリー女王」(キャシー・バーク)の政権 安定のために捉えられ、あわや断頭台に送られると言う危機に巻き込まれる。
 しかしなんとか生き延び、メアリー女王病死の後、女王として即位する。
 このとき、国内は新教、旧教の対立が激化し、国庫は空っぽで軍隊は弾薬一つもなく、 フランス、スペイン、スコットランドなどの国々は英国支配を狙って、暗躍しており、 女王自体の命も常に暗殺の危機にさらされていた。まさに、沈み書けた船の船長を任さ れたような状態である。
 一番の側近ウィリアム・セシル(リチャード・アッテンボロー)は「結婚して跡継ぎを 儲けることが、政情安定の鍵」として、結婚を勧めるが、弱体な英国にとって、諸外国 の王侯貴族と結婚するのはその国に支配される可能性があり、国内の相手であっても、 また、権力争いの種になることは必死だった。
 唯一心を許すことが出来るのは、古くからの友人のロバート・ダドリー(ジョセフ・ ファインズ)だけだったが、これが世間ではとんと役に立たない色男で、揚げ句に すでに密かに結婚していたことが発覚し、女王はついに誰とも結婚しないことを決意する。
 巧みな弁舌で宗教対立を回避し、諜報、暗殺に長けた側近ウォルシンガム (ジェフリー・ラッシュ)の助けを得て、敵対する国内外の重要人物を次々と逮捕、 処刑、暗殺し、英国支配の基礎を固め、その後の英国の黄金時代を築いたエリザベスの 若き日の物語。

感想

 16世紀イギリスと、周辺国の事情、宗教対立etc.が複雑に絡み合った時代の話ゆえ、 登場人物の多さ、関係の複雑さはかなりのもの。私は事前にシナリオ本を読んだが、 姉王の政権を狙うエリザベスが、暗殺の種を絶つためにロンドン塔に捉えられ、 あわや処刑の危機に追い込まれる冒頭のシーンなどは、映画ではもの凄く刈り込まれ ており、エリザベスがどれほど死の恐怖にさらされていたのかが、伝わってこない。
 また、冒頭の火あぶり刑のシーンも唐突で「宗教弾圧の激しさ」を表すには説明不足 だと思う。こういう説明不足は全編に渡っており、ヨーロッパの人間や、当時の歴史に 興味があって少しは知識のある人が見るのと、単に「アカデミーショー受賞作だから」 と見に行った日本人の間では、甚だしい理解のギャップが有ると思われる。
 これは、日本人だからのハンデであり、心底楽しみたいなら、自分で克服するしかない。
 映像は、天井が高い宮廷でほとんど真下を見下ろすアングルでのシーンが目を引く。
 このアングルは新鮮だが、使いすぎは鼻につくという感じ、さらに、私は映画館の かなり前の席で見たため、「見下ろしの映像を見上げる」という気持ち悪い状況に なって三半規管がイヤイヤをしていた(^^;;
 衣装の豪華さは当然といったところ。DVDで発売されたらゆっくり見たい。
 キャストの豪華さも見事。
 エリザベス(ケイト・ブランシェット)が、本人によく似ているというのもなかなかだが、 愛人のロバート・ダドリー(ジョセフ・ファインズ)の優柔不断な色男振りも見事、ついでに 「恋に落ちたシェイクスピア」のイメージも強いので、なんとなく詩の一つも囁きそうで 悪くない。他に主役級ではウォルシンガムのジェフリー・ラッシュが、忠実な、だが 何を考えているかわからない不気味さ、を良く表していて好演。
 ノーフォーク卿(クリストファー・エクルストン)も誰が見ても悪役で分かりやすく、 メアリー・オブ・ギーズ(ファニー・アルダン)も悪いおばさんらしい。
 ちょっと疑問だったのがスペイン大使、アルヴァロ(ジェームズ・フレイン)の扱いで、 色黒、髭もじゃ、髪もぶわぶわの天然パーマで、スペイン人を野蛮人風に書きすぎでは 無いかと気になる。確かに人でなしのスペイン王の使者ではあるが、文化程度は高かっ たはず。
 フランスのアンジュー公(ヴァンサン・カッセル)は、なかなか色男で、おばかで退廃的 なフランス文化というものを見事に振りまいていました(^^;;

 音楽は、ほとんどのシーンで本物のイギリス古楽を使用して、知っている音楽も多く、 合格点。演奏シーンがチラチラ見えるのも音楽好きには嬉しい。しかし、クライマックス で「モツレク」…というのは安易すぎ。確かに16世紀イギリスの音楽ではクライマックス には物足りないかも知れないけれど、だったら、気の利いた新作が欲しいところ。

 総合的には、陰謀渦巻く宮廷の中で強大な女王としての権威を打ち立てる過程の物語 として、重圧で豪華な映像で見応え有りだが、シナリオ本からカットされてしまった ディーテイルはなんとも惜しい。
 上映時間124分が、もう1時間あったら、予備知識無しで手放しでのめり込める 作品になったのではないかという気にさせる。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!