映画館がやってきた! | 映画鑑賞記 |
東西冷戦時代。アメリカはソビエトの核の不意打ちに備え、昼夜を問わず
50メガトンの核兵器を搭載した34機のB52を飛ばしていた。 ある日彼らに実戦命令『攻撃R作戦』の暗号通信が入るが、命令は 妄想にとりつかれたアメリカ空軍、リッパー将軍による独断で発信 された物だった。 R作戦の巧妙な仕掛けによって命令取り消しはリッパー将軍の暗号通信 以外では不可能だが、将軍は基地の無線を封鎖、自決してしまい、攻撃を 中止する方法が無い。 大統領はソ連にホットラインで呼びかけ、核爆弾が投下される前に 迎撃してくれるように頼むが、ソ連にはなんと核攻撃に対する自働 報復装置『皆殺し装置』が設置されていることが分かる。もし一発でも 発射されたなら、100年間に渡って地球を全て覆い尽くす核の冬が訪れ、 しかもこの装置は誰にも解除できないと言う。 もはや、祈るしかないペンタゴンの面々。だが、全ての背後には、 ドイツ人核科学者「ストレンジラブ」の狂気があった。 |
この作品には狂った軍人が大勢出てくる。
まずは最初に引き金を引いたリッパー将軍は「我々の貴い体液を守るため」
などと口走り、攻撃機の機長は攻撃命令を聞いたとたんヘルメットを脱ぎ捨て
カウボーイハットをかぶり、気分は西部の英雄だ。
ペンタゴンのタージントン将軍はこの攻撃を止める立場にあるが、心の
底ではソ連大嫌いで「やっちまったほうが気持ちいい」と考えているフシ
がある。
最後に登場するドイツ人博士「ストレンジラブ」は、しゃべり出すと
思わず右手を上げて「総統!」と叫んでしまいそうになる発作を抱えて
いて、皆殺し装置の作動を機に、炭坑の地下を利用したシェルターに
優良人種だけを集めたハーレムを作ることを進言する。
94分という程良い時間で舞台装置にはあまりお金を掛けず、
いくつもの軍人、政治的指導者、科学者etc.
の狂気をさっくりと描写し、われわれが今、狂った世界に住んで
いるんだなあと思わせる、笑えるようで笑えないブラック・コメディー。
1999年の今、世紀の変わり目を目前にしても『この映画に描かれた
本質は対して変わっていないのではないか』という現実こそが、
ブラックなのだ。
文:唐澤 清彦 | 映画館がやってきた! |