映画館がやってきた! 映画鑑賞記

博士の異常な愛情

■DATA (アメリカ/1963年/モノクロ/94分)
監督:S.キューブリック

Story

 東西冷戦時代。アメリカはソビエトの核の不意打ちに備え、昼夜を問わず 50メガトンの核兵器を搭載した34機のB52を飛ばしていた。
 ある日彼らに実戦命令『攻撃R作戦』の暗号通信が入るが、命令は 妄想にとりつかれたアメリカ空軍、リッパー将軍による独断で発信 された物だった。
 R作戦の巧妙な仕掛けによって命令取り消しはリッパー将軍の暗号通信 以外では不可能だが、将軍は基地の無線を封鎖、自決してしまい、攻撃を 中止する方法が無い。
 大統領はソ連にホットラインで呼びかけ、核爆弾が投下される前に 迎撃してくれるように頼むが、ソ連にはなんと核攻撃に対する自働 報復装置『皆殺し装置』が設置されていることが分かる。もし一発でも 発射されたなら、100年間に渡って地球を全て覆い尽くす核の冬が訪れ、 しかもこの装置は誰にも解除できないと言う。
 もはや、祈るしかないペンタゴンの面々。だが、全ての背後には、 ドイツ人核科学者「ストレンジラブ」の狂気があった。

感想

 冒頭のスローなジャズの調べに乗せて戦略爆撃機の空中給油シーンが 映し出されるのが、なんとなく自作2001年のパロディーっぽくて、この 作品はシャレなんだよと宣言しているようだ。

 この作品には狂った軍人が大勢出てくる。
 まずは最初に引き金を引いたリッパー将軍は「我々の貴い体液を守るため」 などと口走り、攻撃機の機長は攻撃命令を聞いたとたんヘルメットを脱ぎ捨て カウボーイハットをかぶり、気分は西部の英雄だ。
 ペンタゴンのタージントン将軍はこの攻撃を止める立場にあるが、心の 底ではソ連大嫌いで「やっちまったほうが気持ちいい」と考えているフシ がある。
 最後に登場するドイツ人博士「ストレンジラブ」は、しゃべり出すと 思わず右手を上げて「総統!」と叫んでしまいそうになる発作を抱えて いて、皆殺し装置の作動を機に、炭坑の地下を利用したシェルターに 優良人種だけを集めたハーレムを作ることを進言する。

 94分という程良い時間で舞台装置にはあまりお金を掛けず、 いくつもの軍人、政治的指導者、科学者etc. の狂気をさっくりと描写し、われわれが今、狂った世界に住んで いるんだなあと思わせる、笑えるようで笑えないブラック・コメディー。
 1999年の今、世紀の変わり目を目前にしても『この映画に描かれた 本質は対して変わっていないのではないか』という現実こそが、 ブラックなのだ。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!