映画館がやってきた! 映画鑑賞記

ジャッカルの日/THE DAY OF JACKAL

■DATA
監督:F.ジンネマン(1973年)
キャスト:E.フォックス

Story

 物語はフランス大統領ドゴール暗殺を依頼された謎の殺し屋『ジャッカル』と 暗殺を阻止すべくこれを追う刑事の頭脳戦。
 次々とジャッカルの謎を解いて迫る刑事たち。そして、正体をつかんだと思わ れた瞬間に姿を変え、名前を変え刑事の追跡をかわしていくジャッカル。
 果たして暗殺は成功するのか。

感想

 '98年夏公開の『ジャッカル』が、この映画からキャラクターを借用している とかで、マニアや評論家筋では

 「もとの『ジャッカルの日』の方が一万倍面白い」

などと言われているこの作品がDVDで発売されたのを機に見てみました。

 本作はそもそもフレデリックフォーサイスの原作ベストセラーの映画化と言う ことで、原作を読んでいるとまた違った感想を持つこともあるのかも知れません が、純粋に映画のみの感想を行きます。

★以下ネタバレ全開です★
 全体を見終わってまず感じたのは、「息詰まった…」
 とにかく追跡する刑事の捜査が理詰めで、着実に相手を追いつめていく。それ は間一髪で次々とジャッカルにかわされてしまうのですが、見ているうちに風采 のあがらない風貌の刑事がどんどん魅力的に見えてきます。

 しかし、ジャッカルの行動は見ているうちにどんどん破綻が目に付いてきます。
 名作としてほめる人が多いだけに、不満も沢山出てきました。

 そこで、『ジャッカルの10の不満』

●不満1 ジャッカルの風貌が平凡すぎる。
 確かにどこの誰かも判らない変装の名人という設定からすれば、平々凡々な 外見が仕事がしやすいのかも知れませんが、最後まで魅力が感じられないし、 狙撃手として銃の腕は確からしいけれど、修羅場で追いつめられたら絶対に逃げ られなさそうなひ弱さを感じます。
 中盤から手刀ひとつでばんばん人を殺していくので、そちらの方も凄いらしい のですが、とてもそうは見えない。

●不満2 暗殺側の連絡員が正直すぎる
 政府側が暗殺側の動きに目を付けて連絡員をとらえるまではいいとして、  「誰からの連絡を待っていたか」という質問の中で「ジャッカル」の名前を 漏らしてしまう。
 どうせ暗号名なのだから、適当な名前を答えておけば良いのでは?

●不満3 ジャッカルは何故本名が割れるようなコードネームを使っているのか
 過去の事件で知られている名前、
 チャールズ・カルスロップ
 の頭三文字ずつを使って CHA-CAL なんだそうですが、すべての捜査はここか ら始まったわけで…。

●不満4 女好き
 フランスに入国する際の国境近くのホテルで、マダム・モンペリエをナンパ。
 未亡人はコマシ易いと言うことなのかどうかよくわからないのですが、殺し屋 が仕事の最中に素人に手を出す必要がわからない。
 後に再登場するのですが、それは成り行きで、この時点で計画されていたとは 思えない。
 濃い関係を持つほど足がつきやすくなると思いますが??

●不満5 ジャッカル事故る
 ホテルからの逃亡。車を塗り直して、ナンバープレートも換えて…
 そこまで周到にしておきながら、峠道で事故って足がつく。
 謎の殺し屋がカーチェイスでもないのに事故るとは…

●不満6 無駄なモンペリエ夫人殺し
 事故の後逃げ込んだモンペリエ夫人邸。
 進んでかくまってくれると言うのだから最後までだまし続ければ良かったのに、 無闇に殺したばかりに、使用人に警察に連絡され、乗り換えた車がわれ、足がつく。

 殺し屋が、こんな無駄でずさんな殺しをやるなんて大幻滅でしょう。
 ここで『ジャッカル本人』の魅力はゼロになってしまいました。

●不満7 サウナの親切な客
 パリに入って、ホテルに止まると足がつくからサウナに向かうジャッカル。
 そこで、世話好きな地元民に声を掛けられ自宅で世話になることに…。
 しかし、都市生活者が、サウナで見かけたよそ者に自分から声を掛けて、自宅 に招くなんてことがあるでしょうか?これって、ずいぶんと都合が良すぎるのでは?
 あげくにジャッカルに殺されるなんて、かわいそうな人だ…。

** この件について、彼の地では「サウナに集まるのは同性愛者がパートナーを見つけるため」 なのだということをメールで教えていただきました。なるほど **
●不満8 暗殺者側の女スパイは、何故公衆電話から連絡しない?
 住み込んでいる大臣の家から連絡するから、盗聴されて足がつくのだ。

●不満9 ジャッカルの最後
 警備員に何ごとか聴いて、ジャッカルはあるビルの最上階だと断定する刑事。
 しかし、このシーンでのジャッカルの変装(老傷痍軍人)は誰にもばれていない はずだし、無数にいる警備員の一人に状況を聞いて、これだと断定する事が出来 る根拠が不明。
 ここまでひたすら理詰めで追ってきたのに、ここだけが直感。

●不満10 狙撃が下手なジャッカル
 車椅子の傷痍軍人に勲章を渡すドゴール。
 狙撃するジャッカル。

 狙われた相手が不意に動いて弾がはずれるのは定番だが、勲章を渡すシーンで 身をかがめたりするのは当然予測可能な動作ではないか?
 経験を積んだプロなら、敬礼の瞬間とか、確実に静止する瞬間を狙うのが当た り前だと思う。

 以上でした。ともあれ、全体の緊迫感の高さに、論理的破綻の多さの アンバランスが気になった作品でした。(1998.8.30)

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!