映画館がやってきた! 映画鑑賞記

大怪獣東京に現る

■DATA(/日本) 監督:宮坂 武志,原案、脚本:NAKA雅MURA
音楽:鈴木大介,編集:中村雅

Story

 タイトルは「大怪獣東京に現る」だが、舞台は福島県三国町。登場人物の 「福井にツアーに来たバンド」のメンバーが「福井ってどこにあるのか知らなかった」 と歌っているくらい、ひっそりとした田舎町の人々が「大怪獣東京に現る」のニュース を見て右往左往するという映画だ。
 物語は、三国町を舞台に地元の人、ひとりひとりが非日常の出現にどう行動するのかをグランドホテル形式(???)で描く。
  • 桃井かおり(TVのワイドショー大好きな普通の主婦)(きみちゃん)
  • その夫(ガメラの本田博太郎)
  • 報道関係の方々
  • 桃井かおりの近所のアパートに住む友人主婦二人(西山由海、角替和枝)
  • 自分史執筆中の元反原子力活動家の老人。シリアス面からの語り手(大沢(高松英郎))
  • 第一次上陸で東京の恋人を亡くす水族館勤務の娘(大沢さんの孫、けい子)
  • 東京壊滅で目標を失って放浪する予備校生
  • 福井に地方公演に来たマイナーバンドのメンバー(奥野敦士)
  • 怪獣による現代文明の幕引きを主張して「ノストラばばあ」とあだ名されるカルト女(桜沢(吉行由実))
  • 宿直中にニュースを見て錯乱する高校の生物教師(田口トモロヲ)
  • ドリカムな高校生三人組(ちえ子、)
  • 子供が出来てしまって悩むカップル

感想

[2000.12.4] ★★
 桃井かおり主演の怪獣映画?!...というだけでかなり興味津々なのだが、 とにかく爆笑爆笑また爆笑の末にちょいホロリと、こんなに面白い映画とは思わな かった。
 登場人物それぞれの物語が並行して進んでいくが、桃井かおりが扮する 「普通のおばさん」のトリオを中心に、怪獣接近のニュース に各様に行動する、その一つ一つが良くできている。
 怪獣の姿はチラとも映らないが、東京湾から上陸した第一の怪獣は「トカゲ型」 福岡に上陸した第二の怪獣は「カメ型」これを東宝でもなく、大映でもなく「松竹」 が映画にしたのが面白い。
 何しろキャストも桃井かおりの夫役としてガメラの役人役で出演していた人 だったり工夫が見えるし、二大怪獣映画の細かなパロディーが豊富なのは勿論、 ハリウッド映画のパロディーも随所に散りばめられて、怪獣物好きほど笑えるだ ろう。怪獣たちにはまったく通常兵器が効かず、人間の攻撃が被害を拡大している という構図も定番。
 オリジナルのゴジラを意識した部分は多く見られ、それが パロディーであれ真面目な意図であれ、この映画が災害パニックものであり、 反原子力でありという重々しさをまとわせることになっている。カルト宗教や 切れる人々などの現代的な病みが表現されている一方で、怪獣そっちのけの 恋人たちや、産まれてくる子供への夢に没頭する小さな幸せ(逃避には見えない)が 描かれたり、とにかく描かれるパターンの豊富さが「絶望的状況の中で日常を逸脱 したり、あくまでそれを守り通そうとする人々」の見事なシミュレーションになっ ている。

 とにかく、怪獣の現れたシチュエーションこそがテーマなので特撮なんか一つも 無いと言っていいほど。音楽もどう聴いてもローランドのパソコン用音源そのまんまの 音がしていて、手早く打ち込みで作られた感じが見え見え。フィルムも、この解像度の 低さは…。などなど、そこここに感じさせられるのは、たぶん予算のかなりの 部分が桃井かおりのギャラなんじゃないかと思えるほどの低予算ぶりなのだが、 それが逆にシチュエーションの面白さや、ひとりひとりの行動の面白さを強調してい るようだ。
 音楽とSEは、安そうな音がしてはいるが「怪獣映画の基本」をびしっと押さえた もので、そこはかとなく二大怪獣にテーマ音楽を感じさせる微妙な曲になっている。 怪獣っぽい曲のあいまをゲームミュージック的なビート感のある曲が繋いでいるのも いい。
 最後にバンドの面々が演奏する「怪獣流し」の音楽〜エンディングも悲しくて やがて晴れやかなラストシーンに絶妙に合っている。

 このたくさんの小さなストーリーが、いかにも狭い街の中で同時進行している ように絶妙に組み立てられている脚本と、編集の見事さも特筆すべきポイント。

 ラストに至るまでの爆笑と人間模様の味わいの絶妙なバランスに比べると、 三国町の(一部の)人々の悲惨な終わりと、怪獣の末路にはちょっと悲しさを感じるの だが、こんなアイディアと異様なパワーを持った作品が出来たことを喜びたい。 二大怪獣を凌駕したとまでは言わないが、並べて鑑賞しても遜色無いと言って 過言ではないと、私は思う。



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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!