映画館がやってきた! 映画鑑賞記

クロスファイア

■DATA(2000/日本)
監督:金子修介,撮影:高間賢治
キャスト:矢田亜希子,桃井かおり

Story

 「青木淳子」は、意志の力で火を放つことのできる能力(パイロキネシス)を持つが故に 子供の頃から母の教えを守って人から離れて生きてきた。
 だが、感情を押し殺して生きてきた彼女が唯一淡い想い寄せる同僚「多田一樹」の妹が 連続女子高生殺人事件の犠牲者になったことから、 「少年の人権」を盾に逃れようとする犯人を追いつめるため、その能力を使って戦う 決意をする。
 しかし、あと一歩の所であれほど犯人を憎んでいた多田は淳子を止める。
 再び異能者の孤独の世界に舞い戻り、たった一人で戦う決意をした淳子の前に 突然第2、第3の超能力者が現れる。そして、犯人の背後には謎の組織が存在 することが明らかになり、壮絶な戦いが始まる。

感想

[2000.6.14 VC市川 #1]
★★☆ TVの特集でちらっと画面を見て「お、なんかこれはガメラかも」と、思ったのが その炎の表現。後から監督が金子修介と知って納得。
 キネ旬の特集で原作者(宮部みゆき)と監督の対談が載っており、原作者が 監督に最初に合ったとき「青木淳子はガメラですから」と言ったとか(^^;
 正義のために火を放つのだけれど、巻き込まれて死んでいく人もいるって所が、 共通点らしいが、ともあれこの映画の中の炎の描写はガメラ3を越えて美しい。 炎のバリアの揺らめきとか、火柱となって燃える人間とか、内容的には恐ろしい はずのシーンも、残虐と言うより炎の持つ美しさの方が圧倒的だ。とにかく この炎は必見。
 ストーリー的には、凶悪な少年犯罪の増加という現実と、少年法の壁の問題。これを追いかける 刑事たちの悩み。現実に対して「必殺物」的な立場の超能力者。異能者故の苦しみ。 そういう物が良く描けていると思うし、主人公の「矢田亜希子」も良いし、 刑事役の「桃井かおり」がまた凄く良い。
 ラスト、悲惨ではあるが余韻があり、小さな希望の灯がともるような 終わり方も「涙の押し売りのような単純な悲劇」には大反対の私の基準で 言えば、なかなか良い話だったと言える。

 何はともあれ、今年必見の映画の一つと言って間違いない。
 ついつい原作本まで買い込んでしまって大出費である(^^;

原作について

 映画は短編の燔祭(はんさい)とクロスファイア(上下)の内容を再構成してラストの 変更はじめ色々と変更は多いが、一番の違いは原作の主人公(青木淳子)は、映画以上に ためらい無く大勢の人を殺しまくっていること。ここまでやると、何がどう正義なのか よく分からなくなるくらい。
 だからこそ原作と映画のラストの終わり方の違いも必然になるのかも知れない。
 原作は、短編一つと上下巻の長編を二時間にまとめるという必要から大胆な ストーリーや設定の変更がなされているが、長編を原作とする映画にありがちな 単純なつまみ食いシナリオにならず、主人公の心を中心に良く書き込まれていて、 改めてシナリオの巧みさにも感心してしまった。

原作読んで映画に思う

 原作を読むと映画とは相当違う部分が多いのは良いとして、すこし残念に 思ったことをいくつか。
 「謎の組織ガーディアン」のことが、原作ではそれなりに何を目的とする どんな組織かということが書かれていたが、映画の中では一段と謎度が高い。
 もう少し、敵の組織が見えないと達成感が割り引かれるような、大物を相手にした 気がしないような。
 もう一つは「ガーディアンの実体の描写」。 原作では純粋に「法律で裁けない悪人を始末する為の私設警察」という存在だが、 映画ではけちな資金稼ぎをやっているのが情けない。悪人も金が絡むと存在感が 縮小する(^^;
 まあ、原作を知らなければ、最後で少し「せこいぞ、ガーディアン」と 口走るだけですむような気がするけれど(^^;
 ほとんど大感激だった特撮の中で唯一物足りなく感じたのは 「タンクローリーの炎を押し返す淳子」のシーン。
 本質的に目に見えないパワーの放射なので、議論が分かれるだろうが、 もっと力強く有って欲しかった。重い物を押すときには当然重心が下がる はずで、ものが超能力とはいえ、見る方は物理的な力強さを欲するのだなあ。

DVDの感想

[2001.1.24 DVD]
 監督・助監督のコメンタリ、特撮の解説がオマケ。
 劇場で見た「炎の美しさ」を再現したくて画質調整にはまる。色温度が高い方が 炎が輝いて綺麗かなと。
 作品については映画館で見たとおりの感動が蘇った。
 バンバン人が燃えているのにあまり嫌悪感を全面に立てず、美しいと言って 良いくらいの燃え方なのはやはり凄い。出てくる役者の演技も矢田、桃井の二人 の存在感を始め、脇役までいい味だしている。物足りないのは唯一炎を押し返すSFXに 力感が無いことくらい。もっと腰を入れるか、さもなければ物理的な力は無いものと して冷ややかに表現するかどちらも有りかと思う。

 映画館で泣けて、原作を読んで泣けて、DVDで見て再び主人公の最後の戦いのシーン で泣いてしまった。
 監督のコメンタリーがなかなか面白くて素晴らしいと思うのだが、この泣けるシーン で監督は「脚本を書きながら泣いた」と言うし、助監督は撮影現場で 「衣装の焼き加減を細工しながら泣いた」と言うくらい、やっぱり悲しく美しく、 コメンタリを聞きながらまた泣けるし、感想文をタイプしながら「思い出し泣き」 出来てしまう(^^;;;
 激しいアクションものばっかり喜んで見ていると感情が硬化してくる気がするので、 たまには、心の防壁を開いて感情移入して泣いてみるのも良いのである。

 この映画はガメラのスタッフとゴジラのスタッフが集結して作ったというべき ポジションにあるらしく、役者も双方の最新作に出ている人たちが混じって出いる そうだ。
 特撮技術の点からも、デジタル映像を投入するよりも、実物の炎や雨、雪、蒸気 などを丹念に素材撮りしたものを合成する手法を使っているのでリアリティーが 高いし、怪獣もののようにスタジオでミニチュアを使うより、屋外で派手に爆破を 行うシーンが多いので、特撮を意識させない特撮が多い。
 犯行現場にはデジタルビデオを使ったドキュメンタリーっぽい映像が多用されて いるが、これは効果的。かなりカメラワークに凝っているのにも気が付いた。
 コメンタリには字幕としてロケ地が表示されるが、これも新鮮。
 どのように撮影したかという技術的な話と共に、火薬を多用する撮影の苦労話や、 実は会話シーンでカットの切り返しをすると二人は全然別のロケ地で撮影している とか、とにかく巻き戻して確認しながら丹念に見たくなるような興味深い話題が 満載。
 監督はガメラ三作のコメンタリも収録しているが、クロスファイアのコメンタリの 面白さはそちらも期待させる内容。
 特撮についての特典映像は、お話が主でもっともっと制作過程の素材を見せてくれると 面白くなるのにと思った。『ガメラ3』LD-BOXの特典みたいに圧倒されるほど詳細な特典が あると驚喜してしまうのだが。

ロケ地探訪

[2001.1.28]
出かけたついでに『クロスファイア』でロケ地になった隅田川のほとりを訪ねてみる。
 一番は謎のクレーンショットを実地に見てみたかったこと。
 桃井さんと若い刑事が隅田川の赤い橋の手すりの前で会話するシーンで、カメラは水上から 撮っているのにぐるっと回り込んで橋の上からの逆アングルになるという長回し。ここで背景に 国技館の屋根が見える。
 普通に見ていると回り込んで逆アングルになったら川が映るので 「あれ〜足場のないところにカメラが?」という意外性だが、道路の上から長〜いクレーンで 川の上にカメラを突き出し、それで回り込んだらしい。しかも、このショットの出だしが ローアングルなのでぜんぜんクレーンショットだという匂いがないのがテクニックだなぁと 思う。

 現場はものすごく人通りの少ない隅田川の遊歩道。両国側の岸なら、ジョギングの人や 船客、段ボールハウスの住人などでにぎわっているのだが、浅草橋側は接続する道が少なく 不便なためか全くひと気がない。
 映画のシーンのように内緒話するにはもってこいかも(^^;


■関連URL
クロスファイア"で検索したら2,400件も。原作ファンの層の厚さを感じる。

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!