映画館がやってきた! 映画鑑賞記

アポロ13

■DATA
監督:ロン=ハワード
キャスト:トム=ハンクス/エド=ハリス

Story

 アポロ13号。月に向かう軌道上で予期せぬ爆発事故によって、酸素も電力もギリギリの 状態に追い込まれる。
 窮地に陥ったアポロと、クルーの生還のために戦うNASAのスタッフの姿を描く。

感想

 NASAの管制室、あるいはApollo13の船内に居合わせたかのような抜群の臨場感。 そして、本物の無重力、スピード感、人間ドラマ。

 基本的にノンフィクションなわけですが、下手な味付けはさけて ドキュメンタリータッチに迫っているのが、見るものを引き込むように思います。  最後は無事帰還する話と分かっていても、とにかく緊張の連続。

 まさに男の戦いのドラマ。くり返し見たい作品です(^^)

●ドラマ
 …といっても、ノンフィクションなんですが。
 月まであとわずかの距離に迫りながら突然の爆発事故に見舞われたアポロ13。
 失われる、水、酸素、電力etc.
 無事地球に帰ってくるためには、それらの残量が地球への期間に必要な時間 持ちこたえることが出来るか、技術と知力をかけた戦いが繰り広げられます。

 つぎつぎとアポロ13を襲うトラブルと、それを解決していく乗組員と管制官、 科学者、バックアップチームの人間ドラマ。
 本物の記録を見ているような臨場感がドラマを支えます。

 それが本当にあったことだという背景を除いても、おそらくこの作品の 劇的魅力は少しも損なわれないでしょう。
 爆発によってほとんど失われる電力。それをなんとか帰還まで持たせるために 船のコンピューターは停止させられます。これは、大気圏突入の瞬間まで使うこ とが出来ない。
 そういう状況の中で、軌道修正のために手動でロケットを噴射してしまうシーン も緊張するし、管制室で軌道計算する管制官の手元にはなんと「計算尺」
 時代ですねぇ…

 再突入のためのコンピューターの電力に余裕がないために、なんとか最低の 電力で再突入プログラムを起動させるシーケンスを見つけようと奮闘する バックアップチームの姿も印象的。再突入のため、それまで霜が凍り付いていた 船内の温度が上昇し「電気回路がショートしたらお終いだ」と祈りながら 起動していく様子も緊張します。
 そして、再突入の通信謝絶状態が予定の時間を過ぎても回復しない。
 ノンフィクションだから、絶対助かると分かっているのに、どうして あんなに盛り上がってしまうのでしょう(^^)

 あいだに表現されている、家族の不安や、直前に風疹の疑いで交代させられる 正チームの一人(ゲイリー=シニーズ)の押し殺した悔しさと、救出作戦での見事 な働き、沈着冷静なフライトディレクター(エド=ハリス)が、時々爆発してみせ る司令官ぶりなど、人間的仕草は芝居臭くならずにドラマをもり立てています。

 この作品を見ていて感じたのは、自分もこの事件と同じ時代に生きていたのだ なという感慨と、出来れば本物のニュースで彼らを見守りたかったと言うことで しょう。
(全世界中継される中、日本では、中継されなかったそうで)

 人類が初めて月に降り立った深夜、私はまだ夜更かしを許されない程度のほん の子供でしたが、それでも、ちょっとだけTVを見て異様な熱気を感じたものです。
 そして、初めてスペースシャトルが飛んだのは、高校三年生の頃。 (徹夜でTVの前に釘付けでした)
 我々の年代はまさに、宇宙の冒険時代に生まれ、育ったという感慨があります。

 アポロ13の頃は打ち上げはTV中継もされないほど、当たり前のようになって しまっていたというのが、設定ですが、それでもまだまだ月に行くのは本物の 冒険であった時代の私たちの気持ちを裏切らない、迫真の出来映えだと思いま した。
(最近はコーラの景品で宇宙に行ける時代になったようですが(^^))

 蛇足ですが、これを見て『オネアミスの翼』の発射シーンなどはなかなか良く できていたなぁと思いました。どちらも、宇宙開発のロマンが色濃い作品ですが、 同じ匂いがします(^^)

●サウンド
 5.1chは、わりと強調感のない音場だと思いました。周囲の環境音が自然に 取り巻く感じで、巷のSFX映画のような音源移動を強調する演出は無し。これは これで結構なことだと思います。
 ただ、打ち上げの轟音というのは、もっとハイレベルで轟いても良いのでは ないかと思いました。実況中継の人間の声が聞き難くならない音量に止めたの かも知れません。
(全体にボリュームを上げればいい話かも…)

●SFX
 発射台を撮影したシーンなどで、空中でカメラが移動して引いていく場面など、 「あ、ここはCGね」と分かってしまうのは、物理的に不可能な視点移動が伴うた め。
 タイタニックなどでも船首に立つ二人からぐっとカメラが引いて煙突の煙の中 を抜けてタイタニックの全景へ…という視点移動がありましたが、やっぱり、 不自然な感じがするので、よほどの必然性がないのなら避けた方が無難だと思い ます。(タイタニックには演出上の必然を感じますが)

 で、そのわざとらしいカメラもありましたが、この作品の無重力の表現は凄い。
 アビスが本物の水の中でやっているのも凄いけれど、アポロ13は、まさか本物 の宇宙空間でやっているわけ無いのだけれど、いったいどうやって撮影したのか?
 小物が宙を舞うだけならばなんでもCGIで書けそうだけれど、役者は…??

 …と思ったら、実は本物の無重力で撮影していたのですね(あらびっくり!)
 仕掛けは、KC-135というNASAが宇宙飛行士訓練用に保有している大型機で、 こいつは、高度7,000m〜10,000mを行ったりきたりして、その頂点で約20秒間の 無重力状態を作り出す、空飛ぶジェットコースターみたいなものなのですね。

 ともあれ、この本物の無重力が映画のノンフィクションらしさを支えて、この 作品を成功させる大きな力になっていると思います。(98.9.23)


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!