映画館がやってきた!
映画鑑賞記
A.I.
■DATA (2001年/米 原題)
スタッフ:
監督:S.スピルバーグ
キャスト:
Story
世界で初めて「愛」をインプットされた子供ロボット。
母親に捨てられ、愛を探すたびに出かける。
感想
[2002.3.8] 鑑賞(DVD) ★☆
巷では叩かれているが、まあ「キューブリックの遺稿」ということで押さえてみた。 旬をすぎたスピルバーグが制作しているところに不安を感じながら。
率直に言って、映像的にとてもかっこいいシーンも多いのだけれど、
AI
という キーワードから連想するSF的視点から見ると欠点だらけで近未来的な素材を扱いながら 中身は完全に
おとぎ話
で、サイエンスな整合性は完全に無視しているのが残念 だ。
おとぎ話を作りたいのは結構だが、最低限のリアリティー、辻褄が有った方が 世界に奥行きが出るのは当然のことだ。
SF&ファンタジー的に何がいけないのかを指摘したい。
腹も減らさず資源も消費しないロボット… これ、無限エネルギーで 動いているようにしか見えない。しまいには2000年間稼働し続けている。 もちろん「ドラえもん」がどんな原理で動いているのか気にする人はいないけれど、 リアルな映画を作るほどこういう事は気になる。
姿形が人間と変わらないロボットの必然性… 天変地異の食糧危機の中で 経済活動を支えるロボットたち。高度な知性は必要だが人間と同じ姿は不要だ。
「人造人間を作りたい」という欲望と、これが社会に普及するかという問題は 別で、「人類に先が見えている状況下」での人の姿をした優秀すぎる奴隷は、 憎しみの対象になるべくしてなった。
この設定は後に描写される「反ロボット宗教」の設定には必要だが、 今の時代に映画にするには今更な設定だ。
感情を持つロボットとロボット三原則…
全ての映画にアシモフのロボット三原則が適用されているわけではないが、 人間とロボットの共存を描写する時、避けては通れない問題だ。
デイビッドの場合、「完全な神経回路のシミュレーター」 を開発したために感情までも再現可能になるが、同時に非論理的な行動 の数々を見ると、子供の理不尽なところばかりを再現してしまったようだ。
それはそれとして「息子を道連れにプールに落ちる」などの事故は 「超自我回路」でプロテクトして欲しい。
高度な自動機械の誤動作を防ぐために、シンプルで故障しにくい保護回路を 用意するのはどんな機械でも当たり前のこと。その機能があってもデイビッドが 追い出される流れは十分成立するし、子供の心と超自我の衝突はストーリーに 深みをもたらすだろう。
思考するロボットにとって超自我回路は、あるいは「神の声」と定義されて も良いだろう。つまり
"汝殺す無かれ"
だ。
殺人現場を見て逃げるロボット。これも「ロボット三原則」が存在しない 世界を暗示している。
デイビッドの「逸脱」は、プロトタイプ故、あるいは映画の嘘として許容する としても、従来型のロボットに人間との安全な共存の仕組みが組み込まれて いないのは異常だ。彼らの記憶回路には「証拠能力がない」ということにもなる。
どんな間抜けなメーカーでも、殺人防止回路くらい付けるし、記憶の改竄防止機能も 必要だろう。それが無いロボットが勝手に行動している社会なんて考えられない。
この設定では従来型メカにもかなりの「人間的自由度」があることになって デイビッドだけが特別という存在が曖昧になるし、ジャンクフェアでのロボットの 無力な従順さと矛盾している。
何でも有りのファンタジーの中にも「その世界の一貫性」が有るべきだし、 そうでないのは「ご都合主義」だ。筋の通った部分がきちんと有るから、 ファンタジーが引き立つのであり、ただのホラ話は見たくない。
妻の過剰反応… もらってきたばかりのロボットに「子供の代用品なんて認めない」と良いながらデイビッドのかわいさにメロメロ。
Aibo
を見せられて本物の「犬でなきゃいや」という人が返品もせずにずっと 家に置くだろうか?
食事… 食べないデイビッドの前に空の食器が並べてあるのってなんだか変。気まずい。 けたたましく笑うのも迷惑。
まばたきしないなんて… ロボットの演技上まばたきをしないことになっているが、限りなく人間にそっくりなロボットを作ったのに「まばたきしない」ってことは無いだろう。そのくらいの機能は真っ先につけるだろ?
(妻が「抱っこ人形だって目を閉じる」と言ってました)
刷り込みの儀式… なんで母親だけが「愛のインプット」を実行するかな?おかげでデイビッドは父親を認識しないんだよ。いいの?
いたずらが過ぎる… ママの真似をして香水をつける、しかも瓶ごとってのは迷惑だよね。製品が勝手に作動して使用者に迷惑を与えたら裁判になるね。
おもちゃを壊さない分別はあるのに矛盾している。
ママは死ぬの?… なんの脈絡もなく人の死を見たこともないのにどうして 「ママは死ぬの?」なんて質問をした?
メシ喰って故障… 不良品。ほうれん草が回路をべとべとにしてダウン。自分で故障を誘発するとはロボット三原則が組み込まれていない。それに「口と内部回路」が直結しているのが根本的に間違っているのじゃ?
人に危害を与えるのが心配… 不良品だ。いくら「愛を発生する新型回路」だからといって、人に危害を加える行動を抑制できないのでは商品にならない。
そもそも、「新製品のモニター」として会社から貸与されたメカなんだから、 不具合があったら即会社に報告しなきゃだわ。
息子を道連れにプールにどぼん… 不良品。人に危害を加えるとは。
さっきはほうれん草で故障したのに、プールで(口が開いていて)水を飲んでも平気な のは矛盾しているしね。
ママが言っている。おとぎ話は本物じゃないのよって… なのにピノキオに固執するデイビッドは人の言うことを聞かないやつ。
彼の設定年齢は11歳。
11歳の子供が、現実とおとぎ話の区別が付かないかな?人間より理性が劣る。
ジャンクをあさるロボットたち…
この世界は、陸地も資源も枯渇してそうとうまずい状況のはず。ならば、 山林に資源ごみの不法投棄なんて有り得ない。はぐれロボットがうろうろ しているのも不自然だ。
ロボット破壊ショーの矛盾
人間だけの社会を作るためなら、ジャンクの野良メカを破壊する意味は無い。
やるなら、ロボット製造メーカーを襲撃するとか必要でしょう。野良メカを 破壊して盛り上がっている連中はアホウだ。
デイビッドは開発者の息子のコピーだった… 鉄腕アトムと一緒ね。 なぜ開発者が自分で育てなかったのだろう。
ドクターノウ… なんとなくお茶の水博士
海に沈んだマンハッタンの廃墟がなぜ営業中なのだろう…?
デイビッド二号破壊… ロボットによるロボット殺し。あ〜やっちまったよ。
夢を追う能力を持ったのだ… 夢と言うより妄想。
あんなデイビッドを量産…
研究室にMacのスピーカーが… これオマージュってやつなのかな
身投げは無理… プールに沈んで故障しなかったのに、なんのために身投げした?
ブルーフェアリーの像… 脳が故障している。11歳にもなってなぜ気が付かない、作り物に
氷河期と水位… 温暖化で水位が上昇して海に飲まれたマンハッタン。氷河期には当然どんどん水位が下がって、現代の水位よりずっと下がっているはずですが。
髪の毛から記憶の再生… いくらおとぎ話でも納得行かない
結局この映画の中で愛を持つロボット「デイビッド」は頭が壊れている。
SFはすっぱりあきらめて完全なおとぎ話と見ても、はじめからあれほど の欠陥を抱えていて試作品が発狂して帰ってきても量産しようと言う科学者も狂って いる。
スピルバーグは「観客はデイビッドを最初の幸せな世界に帰してあげたいと願う」 と言っているけれど、そうは思えない。
とにかくデイビッドが怖い、うざい、気持ち悪い。それでこの映画で一番感情移 入できるキャラクターが熊ロボットの「テディ」。彼のけなげさがこの映画を最低 映画まで落ちるのを救っている。
テディは「ピノキオ」に登場するコオロギの役目を担っているが、脳味噌空っぽの ピノキオよりコオロギが頭がいいのは納得行くけれど、最新型の人工頭脳を搭載した ロボットがおもちゃのテディよりバカってのはどうだろう?
そして、バカなのに目をつぶるとしてもイライラさせられるのはデイビッドが 「少しも成長しない」ことだ。この「永遠の子供」という設定が不幸の始まり。
aiboであれタマゴッチであれ、
育成系
というのは育つからこそ成り立って いる。どこまで行っても成長しないデイビッドは主人公として愛される基本を欠いて いる。鉄腕アトムだって「成長しない」故に天馬博士に捨てられた。たまごっちは、 成長しきると自ら旅立つ。
ラストで「ママ」をクローン再生して愛を得ようとするのも、かなり「ホラー」 っぽい。記憶まで再生されると言うのはファンタジーとしてもお笑いの領域に入る が、可能だとしても再生される側の人権というのは、きっと無いのだな。まったく 恐ろしい話で…。
彼が「本当の人間の子供になる」ということは、悲しみを受け入れることかも しれない。つまり永遠の子供から少し成長するということだ。
ママには寿命があり、この世に永遠は無い。愛は一方的に求めるものではない。 それに気付いた時デイビッドの体はメカのままでも、心は少し人間に近づく。
…そんなラストのほうがずっと感動的だと思う。
ママのクローンと永眠するより、未来のロボットとともに生きて人間の記憶を 伝えて欲しい。それが人生だよデイビッド。
スピルバーグもだめだ
ハリウッドの脚本で一番嫌いなのが「主人公を殺して盛り上げる」
これは前にも言っているけれど、死に感情が刺激されるのは、しもネタで 笑わせるのと同じレベルの能無しだ。
『A.I.』も私のラスト以外にもデイビッドを生かしたままの終わり方は いくらでもあるはず。廃棄メカだって殺しすぎ。あんなに殺すなら最初から ホラー映画で作れば?
■特典ディスク鑑賞
本編ディスクに12分、特典ディスクに約90分のおまけが付いているが、イマイチ 面白くない。役者やスタッフ、特撮のスペシャリストたちへのインタビューが 主だが「本編を見れば判ること」が多いし、ネタの重複も多い。だってスタッフ 全員がまず、「キューブリックとスピルバーグの秘密のプロジェクトに声を掛けられてね…」 というところから話し始めるからいいかげん飽きるよ。
私が今回期待したのは、キューブリックのオリジナル・ストーリーボード、それをs スピルバーグがどのように手をつけていったか、というところ。
メイキングの中でほんの少しだけスピルバーグ本人が手をつけた部分について 言及しているが、キューブリックの名前を挙げて映画を公開するなら、それは とても大切な情報のはずなんだがな。
特撮が凄いんです。というネタは、観客にとってはもう「リアルで当たり前」 なのでどうでもいい話になりつつある。そういうこと。29800円のソフトに多くを 望みすぎなのかな?
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文:唐澤 清彦
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