映画館がやってきた! 映画鑑賞記

アビス(THE ABYSS)

■DATA
監督:J.キャメロン
キャスト:E.ハリス/M.E.マストラントニオ

Story

 海軍の機密を積んだ潜水艦が謎の沈没をする。事故現場近くの石油掘削基地のチームは、 捜査に協力するが、謎の異生物に出会う。
 平和を愛する彼らは海の底でずっと地球人を観察していたのだった…。

感想

 タイタニックで盛り上がっているところにタイミング良く投入された、 キャメロン監督の海洋SF、アビスのDVD。発売前日にゲットして鑑賞しました。

 ストーリーは先刻承知の方が多いでしょうが、この盤には60分もある メイキング・ビデオが特典として付いてくることが、さすが、DVDです。

 鑑賞して感じたのは、海溝の底に棲むエイリアンの操る海水ロボット(水の 分子を自由に操って、海水そのものを「しもべ」として使うというような設定) の映像が、ターミネーター2の液体金属サイボーグT1000の基礎になっていたり、 深海油田掘削基地を襲う怒濤の海水が、タイタニックの沈没シーンを彷彿させる とか、後に続く作品に生かされた原点がいくつもあったということ。
 キャメロン監督の中では大ヒットとは行かなかった作品ですが、タダでは転ば ないという感じがします。

 メイキングも含めて一番感心したのが「ほとんど特撮が無い」ってことです。  現在なら命に関わるほど過酷なシーンはCGIで済ますのでしょうが、アビスは 「建設中で放棄された原子炉施設」を流用した大プールの中で、ひたすら本物の 水中撮影による本物の映像を撮っている。
 役者も命がけだし、監督は毎日水の中で12時間以上暮らしている。
 その、監督の海洋おたくぶりが全編から溢れているし、これほどの海に対する 思い入れがあったからこそ、タイタニックにも繋がったのだと、自然に理解する ことが出来ました。

 ストーリーは前半は、深海底の密室の中で繰り広げられるサスペンスで、 核弾頭を手にした狂った海兵隊員と、共同作業する油田作業員との駆け引きに、 巨大な水圧の恐怖がかぶさって、緊張感抜群。
 そして、未知の生命体とのコンタクトがこの映画がSFで有ることをチラチラと 見せるのですが、海溝に向かって放たれた核弾頭を回収に向かう主人公が、 水圧に耐えるために、海軍が開発した「呼吸可能な液体」で肺を満たす特殊な 潜水服で潜るシーンで、ぐっとSFマインドをくすぐってくれます。

 呼吸可能な液体自体は、手術の輸血の補助のために開発されたもので実在して おり、潜水に使われた実績こそ無いものの、ネズミをその液体に沈めても呼吸 可能で死なないというデモは、昔々私もTVで見たことがあります。
 今見るとどちらかと「エヴァンゲリオン」のエントリープラグを満たすLCLを 思い浮かべる人の方が多いでしょうが、あのスタッフもアビスは見ていたかも知 れませんね。
(ただし、呼吸は出来ても発音は無理。エヴァは喋っているけれど)

 ここからのシーンが「未知との遭遇」になるわけですが、核兵器で破滅しそう な人類を戒めるために全世界を津波で滅ぼそうとしていた深海のエイリアンが、 主人公が自分の命を懸けて、海溝に放たれた核弾頭を回収に向かった姿に心を動 かされ、死にそうな主人公を救い、人類そのものを見直して、津波を止めてくれ る…。
 という、実に明快な筋書き。
 単純だけれど、実に見せる場所が多い。

 最後に深海からエイリアンの母船が石油掘削基地ごと海面に送り届けてくれる シーンで、
 「減圧していないのに平気だ」
 「これもエイリアンの不思議な科学の力なのね?」
 と、マニアから突っ込みが来そうな穴を、取りあえず説明するカットを入れる など海洋マニア・キャメロンの良心が感じられます(^^)
 ともあれ、ストーリー、演出、特撮、全て素晴らしい第一級の作品でした。
 重苦しい深海の密室の中で展開されるストーリーだけに、一般ウケしなかった のかと思いますが、たとえタイタニック人気のオマケでも、これを機に大勢が 見ると良いなぁと思います。

141分の本編に対して170分の完全版もあるそうです。これもいつかは見たい ですね。(98.9.17)


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!