映画館がやってきた! | 映画鑑賞記 |
米映画『十二人の怒れる男』をヒントに、「もしも日本に陪審制度
があったら」という設定で、最初から最後まで会議室に集められた十二人の陪審員
のやりとりだけで進む、シチュエーション・コメディー。
事件は「復縁を迫って会いに来た元夫と口論になった元妻が、人気のないバイパス
道路で走ってくるトラックに突き飛ばして殺した」という、新聞の三面記事にだけ
載るような、小さな殺人事件。 |
議論の下手な日本人。日本に陪審制度が有ったらどうなるか?
12人のキャラクターが見事に「こういう人、いるよね」という日本人の
様々なパターンを揃えている。
会社の会議ならいざ知らず、議論を経験したことのない人間が集まるとこうな
る、という絶妙な展開で、なんとなく「町内会」とか「マンションの住民会議」
とか、そんな感じ。そして、たった一人の反対から議論は沸騰し、二転三転、
有罪、無罪の間を行ったり来たりする様はまさに、スリリング。
とにかく、次々と新たな推理、仮定が浮かんでは消え、終盤、豊悦扮する
「自称弁護士」が次々と仮定をひっくり返して真実に急迫する下りのスピード感
は、会議のジェットコースター・ムービーと言っても良いような迫力だ。
12人もいるけれど、全員面白いほど明確で個性的な性格が与えられていて 無駄な人が居ない。
やはり、三谷脚本は面白い。
「'91年、キネマ旬報日本映画ベストテン第7位、脚本賞受賞」という賞歴を
持つが、朗読しただけでもこの面白さは伝わるだろう。
しかし、映画としての魅力もまた侮れない。
舞台は最初から最後まで会議室の中。他にはせいぜい廊下ぐらいしか映らない。
しかし、発言者を追って次々と絶妙のタイミングとアングル、ロングとアップの
使い分けをして、一つとして同じアングルがないと感じさせるほど。これは、
なまじ広い空間を自由に使うことの出来る撮影より、よほど緻密な計算と徹底的な
リハーサルを繰り返したことが見て取れるし、会話の内容に応じて引いたり、
思わず乗り出したり、という細かな移動を使った見せ方も、「観客の気持ち」に
絶妙に一致していて芸が細かい。
会議のシーンだけで映画として二時間。しかし、窓の外に見える日差しや
鳥の鳴き声(いつの間にかカラスが鳴いていたり)でなんとなく延々と時間が
経過した雰囲気が出ている。
音楽もほとんど無いのだが、会話が真っ白になった瞬間に、曲がふっと止まる
など、「モーツァルトピアノソナタ15番」が絶妙のタイミングで流れる。
とにかく脚本ばかりでなく映画として、撮影、編集、音楽etc.にも隙がないし、
役者もぴたりとはまっている。
この作品には、マスター制作についての解説とスタッフリストもきっちり付い
ており、これによれば、オリジナルネガをクリーニングし、ローコンポジで
ニュープリントを起こし、デジタルベータカムでスクイーズ収録。ここまでが
「東京現像所」の仕事。
キュー・テック・ポストプロダクション部という所で、傷などのデジタル修正、
エンコード、オーサリング、などをやり、全ての取りまとめがパイオニアという
形。
製作スタッフの名前を出し、品質に誇りを持って製品化する。こういう姿勢が
業界全体に定着してくれれば、私たちはよりハッピーだと思う(^^)
文:唐澤 清彦 | 映画館がやってきた! |