映画館がやってきた! 映画鑑賞記

12人の優しい日本人

■DATA (1991/日本) 監督:中原 俊,脚本:三谷 幸喜

Story

 米映画『十二人の怒れる男』をヒントに、「もしも日本に陪審制度 があったら」という設定で、最初から最後まで会議室に集められた十二人の陪審員 のやりとりだけで進む、シチュエーション・コメディー。

 事件は「復縁を迫って会いに来た元夫と口論になった元妻が、人気のないバイパス 道路で走ってくるトラックに突き飛ばして殺した」という、新聞の三面記事にだけ 載るような、小さな殺人事件。
 若く美しい被告に、傍聴席は同情ムード。
 裁判の後、一室に集まった陪審たちはとりあえず決を採ってみる。結果は 「全員無罪」。
 ところが「なんかあっけなかったですね〜」と退室する陪審員たちに、 陪審2号が「本当にこれで良いのかな、理由が聞きたいな」と言い出したところから 事態は混迷を極める。
 「被告が若くて、お肌つやつやでも、人を殺せば罪になるんですよ。みなさん それで良いんですか?」…

感想

[2000.10.27] ★★☆
 『ラヂオの時間』の三谷 幸喜 脚本というので買ってみた。監督は中原 俊
 登場する陪審員の面々は次の12人。

 議論の下手な日本人。日本に陪審制度が有ったらどうなるか?
 12人のキャラクターが見事に「こういう人、いるよね」という日本人の 様々なパターンを揃えている。
 会社の会議ならいざ知らず、議論を経験したことのない人間が集まるとこうな る、という絶妙な展開で、なんとなく「町内会」とか「マンションの住民会議」 とか、そんな感じ。そして、たった一人の反対から議論は沸騰し、二転三転、 有罪、無罪の間を行ったり来たりする様はまさに、スリリング。
 とにかく、次々と新たな推理、仮定が浮かんでは消え、終盤、豊悦扮する 「自称弁護士」が次々と仮定をひっくり返して真実に急迫する下りのスピード感 は、会議のジェットコースター・ムービーと言っても良いような迫力だ。

 12人もいるけれど、全員面白いほど明確で個性的な性格が与えられていて 無駄な人が居ない。

 やはり、三谷脚本は面白い。
 「'91年、キネマ旬報日本映画ベストテン第7位、脚本賞受賞」という賞歴を 持つが、朗読しただけでもこの面白さは伝わるだろう。
 しかし、映画としての魅力もまた侮れない。
 舞台は最初から最後まで会議室の中。他にはせいぜい廊下ぐらいしか映らない。 しかし、発言者を追って次々と絶妙のタイミングとアングル、ロングとアップの 使い分けをして、一つとして同じアングルがないと感じさせるほど。これは、 なまじ広い空間を自由に使うことの出来る撮影より、よほど緻密な計算と徹底的な リハーサルを繰り返したことが見て取れるし、会話の内容に応じて引いたり、 思わず乗り出したり、という細かな移動を使った見せ方も、「観客の気持ち」に 絶妙に一致していて芸が細かい。
 会議のシーンだけで映画として二時間。しかし、窓の外に見える日差しや 鳥の鳴き声(いつの間にかカラスが鳴いていたり)でなんとなく延々と時間が 経過した雰囲気が出ている。
 音楽もほとんど無いのだが、会話が真っ白になった瞬間に、曲がふっと止まる など、「モーツァルトピアノソナタ15番」が絶妙のタイミングで流れる。
 とにかく脚本ばかりでなく映画として、撮影、編集、音楽etc.にも隙がないし、 役者もぴたりとはまっている。

■画質・音質

 パッケージとしては、画質はまずまず合格かな。"ローコン・ポジ"を使用して いるため、液晶プロジェクターだとちょっと厳しい(地味に見える)のだけれど、 黒つぶれ、白飛 び無く情報量は多い。片面一層、平均転送レートは 4Mbsp +/-2M というところで データが多いとは言えないけれど、圧縮による瑕疵は感じない。上手く配分して いるんでしょうな。
 音声は、モノラルの2ch収録、384kbps。
 こういう作品だからダイアログの明瞭度は重要だがその点、申し分ない。

 この作品には、マスター制作についての解説とスタッフリストもきっちり付い ており、これによれば、オリジナルネガをクリーニングし、ローコンポジで ニュープリントを起こし、デジタルベータカムでスクイーズ収録。ここまでが 「東京現像所」の仕事。
 キュー・テック・ポストプロダクション部という所で、傷などのデジタル修正、 エンコード、オーサリング、などをやり、全ての取りまとめがパイオニアという 形。
 製作スタッフの名前を出し、品質に誇りを持って製品化する。こういう姿勢が 業界全体に定着してくれれば、私たちはよりハッピーだと思う(^^)


 日本人だから納得度 ★★★★★

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!