映画館がやってきた! ドラマ鑑賞記

真夜中の雨

■DATA (2002.10.10-/TBS木10)平均視聴率 13.6%
キャスト:
 織田裕二,松雪泰子,阿部寛,石黒賢
スタッフ:

■関連URL


 21年前の事故で家族を失った織田,松雪が偶然(のように)出会い、大病院の 権力闘争に巻き込まれつつ、過去の事故の真相を探る。
 初回から毎回のように「あと1,2回で最終回か…」と思わせるような山場を作って、 しかも毎回のどんでん返しで驚かせる。
 かっこいい映像とハイテンポな脚本で一週間が待ち遠しい作品になった。織田の主題歌もマル。

Story&感想

■第1話 [2002.10.10]

(一週遅れで鑑賞(^^;;)

 テクニカルな方の医療ドラマと、おきまりの権力闘争。それと、各登場人物には いろいろ過去がありそうだな。
 松雪泰子は刑事だが、幼児期のトラウマで水が怖いんだな。日テレの 「サイコドクター」に見てもらうと良いな(^^)
 それで、松雪は強盗殺人反の逮捕で単独行動中、至近距離から犯人の胸を撃って しまい、病院に運ばれた犯人を織田が手術する。極悪非道の殺人犯の命を助ける ことの葛藤...とはいっても、医師が患者を救うのに全力を傾けるのは当たり前で、 織田君は『踊る大捜査線』でも「俺たちの仕事は逮捕すること、裁く権利は無い」 とか言っていたような(^^)
 ラスト付近で織田君が松雪に言う台詞に
 「外科医は切って剥がして縫い合わせるだけ。ハートは必要ない」
というのが出てくる通り、腕自慢で非情な、対人関係の築けないタイプの 人間として描かれており、ある一面では鼻持ちなら無い嫌な奴であるが、 彼にも過去にトラウマとなるような出来事を抱えており、何かの目的のため に冷徹な仮面をかぶっている…というように描写されている。
 大学病院から、個人病院に移ったのは、人間関係に煩わさされず、能力に見合った 高給を得るためで、ちょっと「ブラックジャック」的な人物でも有る。
 対する阿部ちゃんの役どころは、院長の長男で、ニューヨーク帰りのバリバリの エリート外科医。第一話ではほとんど出番が無いけれど、 「病院を世襲制にするつもりは無い」と言うビジネスライクな院長の発言で、 織田と激しく主役の座を争うライバルになりそうな予感。
 病院側には他に、権力志向の院長と、その配下にヘッドハンティングを担当し 院長の手先として動く事務長(石黒賢)がいる。
 しばらくの間は、織田・松雪の距離が縮まる経過を描きつつ、権力闘争を 描くのだろうが、第一話で「才能は有るけれど猛烈に嫌な奴」という設定の 織田君が一話ごとに過去が明らかにされて、ラストには物凄く良い奴だって ことが分かる…という流れになるんだろうなぁ…。

・総合評価 … なかなか面白そう。
 複雑な過去を持つ人間が、分かりやすい図式で係りあうという、 王道ドラマか。それもまた良し。
 同じトラウマを持った人間物でも、春の「空から降る一億の星」みたいに、 ややこしい過去を持った人物が ある人は全然謎のまま死んでしまったり、またある人は、本人以外全員が 秘密に気が付いているのに、本人だけが分かっておらず「あんた馬鹿?」 と言いたくなる様な、そして、徹底的に行き当たりばったりで必然性に 乏しいドラマも有るわけで。
 それに対して、「真夜中の雨」は自覚のある大人が筋の通る行動を してくれそうで期待したいな。

■第2話 [2002.10.20]

 第1話は戸倉(織田君)が大学病院を移ってきて、敏腕なところを示す話だったが、第2話では、 病院内の人間関係の複雑さが次々と明らかになり、また、織田君と女刑事(松雪泰子)の 二人がそれぞれに辛い過去を持っている事が明らかにされる。
 泉田病院では心筋梗塞でかなり絶望的な患者を、世話になっている病院の老医師にまわす話 でもめる。老医師は久しぶりにメスを振るいたがっていて「失敗しても仕方ない」という 患者を回せば誰の責任にもならないという思惑。
 しかし、戸倉と俊介(阿部寛)はそんな院長たちの思惑に反発し、ここで最善の手術を 尽くすことを提案する。
 第一話ではバリバリのライバルになりそうだった若い二人が、政治を優先する経営陣に 反発して意見を同じくする意外性。もちろん、二人がライバル関係であることに違いは ないので、かなり複雑な三つ巴が作られることになった。
 そのうえ、事務長の安東(石黒賢)は、自分がスカウトした優秀な医者の力を使って 病院経営の実権を乗っ取ろうとしているなんてことまで明らかにされる。
 戸倉は患者に手術のリスクについて告げるが、率直に難しさに付いて説明しながら、 暖かく患者を勇気付け、他のシーンでは見せた事のない優しさを見せる。この優しさと 日常の荒々しさの落差が彼の複雑な心情を印象付ける。
 実はこの患者は女刑事の警察の恩師だった。ということで、またも松雪が絡む。
 水への恐怖からまたも捜査中に失敗した松雪は、そのことを聞いた織田に 「医者なら何とかして」というが、彼は  「あなたの傷は外科医には治せません」とそっけなく告げる。
 戸倉の心の影が気になる由紀子(松雪)は、彼のことを調べて回り、子供の頃に 両親を亡くし複雑な家庭環境で育ったことが分かる。
 突然患者の容態が悪化し、院長はあくまで転院を指示するが、由紀子は院長に 圧力をかけ、戸倉と俊介が執刀することになる。
 手術は成功したかに見えたが、突然心停止し、必死の努力にもかかわらず 患者は死ぬ。
 二人は院長のもとを訪れ、今回の件を謝罪するが、院長は「患者が死んだこと は忘れろ。だがもっと謙虚になれ」と言う。この台詞は命令のようでもあるが 先輩からの助言のようにも聞こえて微妙な感じがする。
 駐車場の戸倉に感謝の言葉をかける由紀子だが、戸倉の過去について調べた ことを激怒した彼は、彼女を乗せて夜の波止場の岸壁ぎりぎりに着け、いぢめるが、 由紀子は「ただ子供の頃におぼれた事が原因ではなく、そのとき家族全員が死んだ」 のだと告白する。
 戸倉は「俺の両親は目の前で殺されたんだ!」と衝撃の告白をした。

 この「新たな事実が明らかになって次週に続く」という構成は良い。
 1,2話連続で、登場人物の背景がどんどん明らかになって、しかも意外性の連続。
 1話で「こういう関係か」と思わされた部分も2話では実はもっと複雑な利害が底に 流れて単純でない事がわかり、深くなっていく。
 複雑な人物造型と、織田君もそれに答えて微妙な演技ができるし、松雪泰子の 端整な美しさもしっくりはまってる。
 膨大な要素と背景の広がりを感じさせる脚本と、展開が速く無駄なカットが ない演出。それでいて適度な笑いもあり、医局や院長の次男とのシーンでは 適度に息が抜ける。
 なんだか、「心に傷を持った生い立ちの二人」を扱った作品であっても、 この前の『空から降る一億の星』なんかとは全然違う。あれは大風呂敷広げて 話は全然進まないし、辻褄は合ってないし、気が狂ってるし、子供の作り話 みたいだ。
 話がガンガン進んで、どんどん深くなって、こういう作品を待っていたよ。 次回が楽しみだ(^^)

■第3話 [2002.10.26]

 21年も眠り続けた植物人間患者の治療方針をめぐる織田君と院長の思惑の対立 から始まって、そこにからむ巨額の入院費用の送金の謎…。と思ったら一転、 その患者が織田君が両親を無くした事件とかかわりが有りそうだという事がわかり これを松雪に調べてもらう。
 「院長命令」で患者に手を出すことを禁じられた織田だが、両親の敵と確信した 彼は深夜の病室に忍び込み、患者に謎の点滴を注入する。果たして彼が注入した 薬は何か
 織田に頼まれた調査で、松雪は患者が自分の父であることを知り病室に駆け込む。
 21年前の事故、二人はその時出合っていたのだった。

 疑惑百出。凄いことになってきた。
 …とにかく2話では「二人とも両親を亡くしていた」という所までわかっていたが、 なんとそれは同じ事故で、一人の患者をきっかけに二人の過去の接点が明らかになる という大仕掛け。
 しかし、患者は偽名で入院しており、織田も、松雪も家族がいないらしいのに その患者には毎月200万円もの入院費が振り込まれており、そのお金の出所は 一切謎。しかも、院長は「植物状態のまま積極的な治療をしないように」と 依頼されているらしい。
 これはまた、背後に陰謀がありそうな雲行きである。
 妻曰く「あと二週くらいで終わりそうな展開だ…」というくらい、じゃんじゃん 話が進む。ということは、11回ドラマの9話分を3回。通常の3倍速のドラマと いうことか。
 前回までの謎が明らかにされるペースと、新たな謎の生まれる配分が絶妙でいい。 しかも、素早いテンポから生まれる緊迫感。
 鑑賞直後に「早く続きを!」と叫んでしまうドラマは久しぶりだ。
 期待しているので、提示した謎にはきちんと答えを用意して欲しい。
 主人公を無理心中させて終わらせないで欲しい。
 心の傷と向き合い、格闘して、生き抜く力強さを見せつけて欲しい。つまり、最近の フジの北川脚本とは正反対のストーリーが希望だ。

■第4話 [2002.11.3]

 病院に乱入した、逃亡犯の口から織田君の生い立ちが語られる。結構下積みが 長かったらしい。

 寝たきり患者が、過去の事件の鍵を握っていることで、まだまだ医療ドラマと 刑事ドラマは並存するようだ。
 ダビングのため第二回をちらっと見たら、真っ暗な寝たきり患者の部屋に 事務長の彼女である看護婦が侵入してにやりとするカットが一つ入っていたり して、なんだか怪しい…。

■第5話 [2002.11.10]

 事故に関係した謎の男を追ってみれば、手がかりを掴む女性(母の知り合い)は 動脈瘤が破裂寸前 で今にも死にそう。これと、泉田病院の売り上げを伸ばさないと経営が危ないための 宣伝を狙った公開オペの企画が利害一致で、都倉医師が手術して一命を取りとめる。
 そのお礼に患者の娘からもらった写真に写っていたのは…院長…。

 視聴者も薄々気が付いていたことと思うが、やっぱり謎の男は院長だったらしい。
 いや、…と見せかけてまた別の人かもしれないけれど。
 しかし、「公開オペから、謎の男が写った写真を手に入れ、院長と対面するまで」の くだりの緊迫感は凄かった。
 外は雷鳴とどろく豪雨。薄明かりの中で見る写真。ゆっくりたどる視線。 顔が写真を持つ指で陰になっているのを、持ち替えた瞬間に女刑事の顔に切り替わり 驚愕の目。
 そこに都倉医師が現れ、またまた同じ写真のシーケンス、みっちり。
 ついに顔が見える。 雷鳴、雷鳴、写真と稲妻の切り替え、ズーム、ズーム。そこに移っていた人物は…
 ここまで、たっぷりしつこく演出されて緊迫感が持続するんだから、大したモノかも。 息を詰めて見守る感覚って最近のドラマではなかなか無いし。凄いぞ。次回も期待だ。

織田君の瞳孔
 HDDからD-VHSに保存するためにもう一度「真夜中の雨」を見ていたら、 ラストの写真に驚くシーンで織田君の瞳孔の大きさがぐりぐり変化していた。
 びっくりしたときに「目を白黒させる」という言い回しがあるが、 芝居で瞳孔の大きさを変えられるんだろうか…
 確かに瞳孔は感情に反応するらしいが、それを意のままにコントロールできる なら、凄い奴だな。(妻が言うには、稲光の明滅に瞬間的に反応しているのでは ないかと言うのだが…)

■第6話 [2002.11.15]

 院長先生は都倉(織田)の実の父だということがDNA鑑定で分かってしまった。
 「この病院のために多くを犠牲にしてきた」という院長の言葉に、都倉は 母の事故死もまた、この病院の犠牲の一つであり、自分も捨てられた子供だ という思いを胸に刻む。
 都倉は、経営建て直しで必死な石黒を巻き込み、一千万を用意させ、 院長が頭が上がらない唯一の相手、大学病院の教授に現金の力で、病院人事に 圧力をかけさせ、第二外科の責任者のポストを作らせ自分が座ろうとする。
 これは、都倉の病院乗っ取りの第一歩なのか。

 …そういうわけで、毎回見逃せない展開が続く。
 今週は「院長が母の仇で、都倉医師は院長が最も大切にする病院の乗っ 取りを決意する」という話だが、二人が実の親子だというのが確定しても まだまだ「あの夜の事件の真相」が確定していないのだから、今見えている 状況が全て真実とは限らないだろう。むしろ、まだまだどんでん返しと 悲劇が待ち受けていそうな予感である。
 院長は、都倉が息子であることを気が付いているのか無いのか、画面からは 微妙なところ。戸倉自身はしきりにそれを匂わす発言を繰り返すことで、 子供時代からの父への思いを埋めようとしているように見えるが、院長からは 冷たい言葉しか引き出せない。
 二人のすれ違いがなかなか痛い。
 できれば、第三者の犯人が登場して、親子は和解するという めでたいラストを見たいものだが…

■第7話 [2002.11.22]

 都倉が仕切る第二外科の業績はうなぎのぼりで、病院的には経営安定に大ヒットというところだが、 長男との確執は深まる。人間関係と経営の間で揺れる院長の立場は複雑だ。
 技を競うように二人の手術シーンが映し出されるが、やはり技術では都倉医師のほうが 上を行っているということは明らかだ。
 事務長と都倉は次の手として、診療科目のリストラを迫り、院長の理想に揺さぶりを かける。
 そんな時、都倉は泉田の娘の誕生パーティーに招かれるが、彼女の誕生日は 都倉が事故に合い母が死んだその日だった。
 彼女の誕生の日、出張していた父(院長)はずぶぬれで駆けつけた…という昔話を聞いた 都倉は、ますます自分が捨てられたという思いを深くし、「なにか誕生祝のスピーチを」 と請われて自分の思い出を話しかけて止める。
 泉田の幸せな家族団らんと、自分の境遇…。激しい感情に苦しみつつ泉田家を後に した都倉に、水沢の父が覚醒しかかったという 電話が入り、彼は病院に向かうが、水沢父の覚醒はまだ遠く 「この日に、何かを言いたい思いが彼をそうさせたのではないか…」と水沢刑事は呟く。
 パーティーを終えた泉田の娘が、父の無礼をわびに病院の都倉を訪ねてくるが、 階段で足を滑らし転倒する。
 すぐに家族も集まってくるが、幸いにも怪我は足の骨折のみで頭を打っては居なかった。 処置を終えた都倉に向かって院長は 「私の大事な家族に指一本触れるな」と怒り、ついに都倉は、自分が院長の 息子であることを告白。
 院長は何か言おうとするが、あまりの出来事に心臓発作を起こして倒れてしまう。

 …医者の無養生とはこのこと
だが、今までも年がら年中ストレスと戦ってきたみたいだから、心臓に来ても 無理は無いかも。
 なかなか、見えることと真実の間に微妙なねじれがあるという状態は続いている。
 一見病院乗っ取りを企てていると思われている都倉だが、手段は厳しいが真剣に 病院再建に取り組んでいることは確かだ。権力志向の院長に「権力だけが幸せではない」 ということを訴えたいようにも見える。
 そもそも、院長を憎んでいそうな言動の一方で、泉田一家の団欒への強い羨望も感じさせるし 「自分も輪の中に入りたいそぶり」もある。
 都倉と水沢は院長が「カッパの男」だと思っているが、もう一ひねり有るだろう。
 今回何か言おうとして言えないまま倒れた院長の一言が恐らく「真実」なのだろうし、 未だ目覚めない「水沢の父」の頭の中にも恐らく凄い秘密が隠されているだろう。
 今推測できることは、「誕生日にずぶぬれで帰ってきた院長」は、合羽を着ていたなら そんなに濡れなかっただろうし、山梨から東京に帰ってくる間、濡れっ放しの分けないし、 かえってアリバイが出来たような流れではある。
 あの夜の院長の行動は、次回かその次に心臓手術を終えた院長の口から聞く事が できるとして、長男(阿部ちゃん)との兄弟の名乗りはまだ先か。そして真犯人は どんな思いがけない人物か。たとえあの男が院長であっても、正妻の娘が生まれる なんてだけの理由ではなく、都倉が思わず泣くような 驚愕の事実というのが隠されていたりしそうな気がする。
 院長が眺めている湖のジオラマにも深い意味がありそうだ。彼は彼であの事故を 忘れないためとか、検証して真犯人を探すために繰り返し事故を再現しているとか、 まだ語られていない真実があるだろう。
 残り4回もあってここまで盛り上げたからには、まだまだ読めない展開を 期待したい。

■第8話[2002.]

■第9話 [放送日]

 毎晩鳴り響く雷の謎が解けた。実はあの雷は都倉と水沢と院長、あの事件の関係者の 心の中にだけ鳴り響いているのだ。だから、毎晩雨。雷雨。
 だから、彼らの居ないところで雨は降らないし、あの雨に濡れる人も居ない。
 …それにしても、今回も急展開しまくりで「わ〜どうなってるんだ」と叫びたくなる ストーリーだった。

■第10話 [2002.]

ついに真犯人が明らかになる

 が、まだまだ最終回ではないのだ、これが。

■最終回 [2002.12.19]

 毎回どんでん返しの本作、最終回はどうなるのかと思ったら犯人は早々に捕まって、 本筋は「家族の再生」と「理想の病院像」の話になっていった。
 21年前の事故をめぐるサスペンスの視点から見てきたものにとっては、突然メインテーマが 転換して「うおっと」ではあったが、吹越満演ずる「はぐれ医師」もなかなか良い感じだし、 これまで色々あった父と子の和解、認め合う兄と弟、元気になった妹、実家に帰っていた 院長の妻の帰宅、石黒の改心と彼女の懐妊、水沢父の意識回復、そして病院の再建…と、 何もかもがめでたく収まって、気持の良い終わり方をしたのは良かった。
 都倉医師と水澤刑事の関係は、事件が終わってこれから恋が始まるという感じ だったな。
 9話くらいまでの「ジェットコースタな展開」の興奮とはずいぶん違った最終回だった けれど、ラストは病院再出発のパーティーで関係者全員顔見せがあり、舞台芝居の カーテンコールみたいな感じでソフト・ランディングな説得される幕引きであった。


[戻る | 目次]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!