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電気回路の基礎知識

- 電気の基礎の基礎 -

 電気回路の基礎の基礎の中でもAV機器使いこなしに直接関わる基礎知識だけを まとめてメモ。

はじめに

 オーディオは感性ですが、オーディオ機器は「物理の法則」にしたがって動きます。
 オーディオ機器から良い音を引き出すための方法には、評論家の数ほどといっても 良いほど諸説ありますが、たとえば、配線に使う銅の純度を上げることと、太い配線を 使うこととどちらが効果があるのか、というような問題は簡単な電気回路の知識が あれば容易に判断できることです。
 怪しげなアクセサリー類の動作も、それが働いたとして、どの程度の影響があるのか、 悪影響は無いのか、0.001倍の効果を1000倍くらいに誇大広告しているようなことは 無いのか、回路の知識があれば推測できる物は色々あります。
 正しい判断のために、少しだけ勉強しましょう。

電圧

電圧は電位差
 任意の二点間の電位差を「電圧」と呼ぶ。
 大地は0Vでは無い。送電線が大地を基準にしているだけ。電池で動く機械は 電池の0Vを基準にする。これと大地が同じ電位かどうかは無関係。
 オーディオ機器の0Vは、セットの中で完結していれば良く、大地との電位差 より「変動しないこと」が重要。
機器間の電位差は、コンデンサーで直流をカットすることでキャンセル
 音の入り口から出口まで完全に直流分をカットしないとすると、スピーカーに 機器間の電位差による直流が出て壊れることもある。
 そのため、各機器は入力部分で直流成分を絶ち、各機器の基準とする0Vを 中心にした交流波形を再生する。
アースと0V
 オーディオ機器は、「機器のグランドラインを基準にして動作する」ので、 地面との電位差は無関係。たとえば、地面にアースして地面の電位が変動 したら悪影響が出る。(雷、ご近所のモーター類etc.)
 極端な場合、たとえば9V電池(006P)一本で動いている機器は、内部では 電源電圧の半分の4.5Vを中心とした波形を描いて動いているのであって、 アース電位がどうのこうのという神話とは無縁に動く。
db 倍率
+60 1000
+40 100
+20 10
+15 5.6
+10 3.2
+ 6 2.0
+ 3 1.4
+ 0 1.0
- 3 0.7
- 6 0.5
-10 0.3
-15 0.18
-20 0.1
-40 0.01
-60 0.001
交流電圧の単位
 普通のVはVr.m.s
 100Vの交流は283Vp-p … 交流の部品の耐圧はVp-pで考える。

デシベル(=20 log)
 倍率とデシベルの換算は、計算しなくても、右の表を覚えれば簡単。

■補助単位
 下記の表に、補助単位の早見を示す。
名称記号乗数
テラ
ギガ
メガ
キロ

ミリ
マイクロ
ナノ
ピコ
T
G
M
k

m
μ
n
p
1012
109
106
103
100
10-3
10-6
10-9
10-12

オームの法則

V=IR
 I=V/R 抵抗が減る(or電圧を上げる)と電流が増える。
P=IV(Pは電力(W))
 P=V^2/R,P=I^2*R
 V=sqr(RP),I=sqr(P/R)

抵抗

 抵抗の足し算が出来ない人はいないと思うけれど、並列つなぎは忘れている人も多いかも。
 スピーカーのインピーダンス計算も、これと同じ。
■抵抗の直列繋ぎ R=R1+R2
■抵抗の並列繋ぎ R=(1/(1/R1)+(1/R2))
電源の内部抵抗
 電源には「内部抵抗」があり、例えショートしても無限の電流は流れない。
 乾電池は、高価な製品ほど内部抵抗が低くたくさん電流を流せる。
 充電池は一般に乾電池より内部抵抗が低い。
 内部抵抗R1,負荷抵抗R2,とすると、V=I*(R1+R2)
例:(100vの電源で10オームの内部抵抗がある電源に抵抗を繋ぐと…)
 100=i(10+90)=100i,i=1
 100=i(10+10)=20i , i=5 (→抵抗を1/9にしても、内部抵抗のために5倍の電流しか流れない)

■スピーカーケーブル(導線)の抵抗
R=ρl/a
R: 抵抗(Ω)
ρ: 体積抵抗率(Ωm) 銅は 1.89*10-8, 銀は 1.78*10-8 銅 : 銀 = 1 : 0.94
l: 導体の長さ(m)
a: 導体の断面積(m2)

 この式から、実際の銅のスピーカーケーブルの抵抗を計算してみたのが下記。
長さ10m,直径0.1mmで、0.24Ω
長さ10m,直径3.16mmで、0.00024Ω
 低抵抗の素材として銀を使用することと、銅の断面積を10%大きくすることは電気的に等価 であるし、銅の純度の差は恐らく電気的には果てしなく無に等しい違いしかないのは想像できる だろう。つまり「導線は素材より太さ」である。

コンデンサー

■コンデンサーの抵抗 Xc=1/(2πfC)
■容量 C=1/(2πfXc)
■コンデンサーの直列繋ぎ C=1((1/C1)+(1/C2))
■コンデンサーの並列繋ぎ C=C1+C2
コンデンサと抵抗でフィルタを作る
 カットオフ周波数fc=1/(2πCR) (HPF,LPFとも)
 カットオフ周波数は、-3dbのポイントを指す
 減衰特性は-6db/oct
 1マイクロF、1kΩで159Hz
電線は、LPFに似ている
 抵抗があり、+/-のあいだに容量がある。
 従って抵抗が少なく、容量の小さな電線ほど高い周波数を通す。
 → しかしオーディオ周波数帯で減衰するほど抵抗も容量も大きくは無い。
コンデンサーの耐圧を超えると爆発する
 耐圧はVp-pで計算すること。
 長年使用しなかった電解コンデンサーは耐圧が落ちている可能性がある。 (ビデオデッキのサービスコンセントを購入後5年以上経過した後、 初めて使ったら爆発した経験有り。危険です)
回路の中のコンデンサーの働き
 主にオペアンプ回路にごちゃごちゃ付いているコンデンサーの意味。

コイル

■誘導性リアクタンス XL=2πfL 周波数が高いほど抵抗が大きい
LC共振回路直列 fo だけ通る
LC共振回路並列 fo だけ通らない
fo=1/(2π*sqr(LC))
コイルは、オーディオ回路ではノイズを拾いやすいので使わない。オペアンプを使った回路で代用する。
丸めた電線はコイルに似ている  高い周波数の抵抗になる。…とはいえ、ボイスコイルの巻き線より緩いのだから オーディオ帯域での心配は必要なさそう。

インピーダンス

交流抵抗  インピーダンスは交流に対する抵抗のこと。
 インピーダンス=R+Xc+XL
インピーダンス・マッチング
 内部抵抗と負荷が同じ時、取り出せるパワーは最大になる。(マッチング)
 負荷のインピーダンスが高いと、電圧は出るが電流は流れない。(ロー出し・ハイ受け)
 負荷のインピーダンスが低いと、電流は流れるが電圧は出ない。(使わない)
(出力に現れる電圧Vは、理想電源Eを内部抵抗rと負荷Rで分圧した電圧 V=(R/(R+r))E )
インピーダンス・マッチングとノイズ
 ノイズの影響は信号とノイズの電力比で考える。
 インピーダンスマッチングした接続は電力伝送
 アンマッチは電圧伝送(電力が小さい)
 したがって、同じ電力のノイズを受けたとき、インピーダンス・マッチングした伝送の方が 影響が小さい。

極端にインピーダンスが違うと周波数特性が乱れる

ダンピングファクター(DF)
 アンプの出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの比を 「ダンピングファクター(DF)」と呼ぶ。
 例: スピーカー8Ω/アンプ0.08Ωのとき、DF=100
 電圧帰還をかけた通常のアナログアンプのDFは100以上が普通だが、無帰還アンプ では1〜10程度の値になっていると思われる(最近はメーカーからの公表が無い)
 DFは一般的に大きい方が良い。その理由は下記の二点である

 スピーカー開発者が聴いた音を再現するには、 開発に使用したアンプと同じDFのアンプで駆動するのが理想であると言える。
 帰還量を減らしたアンプが流行だが、単に帰還量を減らすだけではDFが低下し インピーダンス特性の複雑なスピーカーで「相性」が発生するリスクが高まることになる。
(当然のことながら「無帰還で優秀なアンプ」を作るために、メーカーは内部抵抗を減らす 努力をしているわけである。)

スピーカーのインピーダンス計算
6Ω100Wのアンプに1,4,6,8Ωのスピーカーを繋いだ場合の挙動を計算する。
1.大前提。アンプは電源電圧以上の出力は出せない
2.内部抵抗はr=1Ωと仮定(実在のアンプは数Ω〜0.01Ωくらいか)
3.アンプの電圧の最大値は、
 内部抵抗無しならV=sqr(RP) =sqr(600)→25.0(V)
 内部抵抗有りならV=sqr((R+r)P)=sqr(700)→26.5(V)
4.電流にも保証できる最大値がある。
 I=P/V=100/26.46=3.78(A)
 最大値を超えると、電圧降下が起きて波形が乱れるので、それ以上流せない。
5.定格より電流に余力があるアンプで様々な抵抗のスピーカーをドライブすると

V固定(電流に余力のあるアンプ)
R,R+r,I  ,P,(理想のP)
1 2 13.25 351 600
4 5  5.3  140 150
6 7  3.8  100 100
8 9  2.9   78  75
 ボリューム位置が同じ(V固定)ならばインピーダンスの低いスピーカーほど大きな音がする。
 しかし、アンプの内部抵抗のため、理想的な電源回路を持つアンプであっても、指定された インピーダンス以下のスピーカーでは、期待される出力より小さな出力になる。
 逆に見れば、
「低インピーダンススピーカーは同じ音量を得るのに必要な電流が余計に必要」
 アンプの内部抵抗は熱として消費されるので、スピーカーのインピーダンスが低いほど、 アンプ内部で熱になる比率が高くなる。(=アンプの負担になる)
6.定格出力で能力いっぱいのアンプ(電流に上限がある)で計算
P=100w,V=26.46,I=3.78固定(定格出力で能力いっぱいのアンプ)
R,R+r,I,  V,     P
1 2 3.78  7.56  29
4 5 3.78 19.00  72
6 7 3.78 26.46 100
8 9 2.9  26.46  75
 流せる電流に限度があるすると、電力の上限が下がる。
 インピーダンスが低いと、最大音量が稼げない。
 これらをまとめると、
「定格よりインピーダンスの低いスピーカーを繋いだ場合、 電源容量以内の音量(電力)なら鳴らすことは出来るが、アンプの内部抵抗のため 同じ音量で鳴らしても、アンプ内部でロスする電力が増える(発熱が増える)。
 また、可能な最大出力が低下するために、大音量になるほど、忠実度が低下する 恐れがある。

ケーブル

■某、同軸ケーブルの物理特性
3C2V5C2V
内部導体抵抗(Ω/100m) 10.53.6
外部導体抵抗(Ω/100m)1.90.8
静電容量(pF/m)6767
特性インピーダンス(Ω)7575
減衰量(dB/100m)4.82.7

 太いケーブルと細いケーブルの違いは、主に直流抵抗。
 オーディオ用同軸ケーブルは、高級品ほど静電容量の低い物を選ぶ傾向があるが、 その値は40〜150pF/mの間に分布している。

同軸ケーブルの静電容量と周波数特性
 「同軸ケーブルには静電容量があるから高域特性が劣化する」という話題について計算する。

高域減衰回路の方程式: fc = 1 / ( 2π C R ) (Hz)
fc: -3dbポイントの周波数。周波数が倍になるごとに-6db
C : ケーブルの静電容量
R : 出力インピーダンス(プリアンプ、CDPなど)
実際の数値を集めて計算してみる。
 上記の条件で「上限周波数(-3dbポイント)」は 約4MHz

 通常必要と考えられる「上限周波数」は、可聴帯域の二倍程度。約100kHzの帯域を持つ DVD-Audio/SACD等をフルに再生するとしても 200kHzあれば足りるので、このケースで伝送系には、約20倍の余裕が有ることになりる。
 仮に150pF/mの量販品を5m引っ張っても350kHzの帯域がある。
 従って、「周波数特性が問題になるようなケーブル」はこの世に無いと言っても良いだろう。

■パッシブ・コントローラの高域限界
 パッシブ・コントローラの出力インピーダンスは、ほとんどの市販品が10kΩである。
 上と同じケーブルで計算をすると、高域限界は約240kHzとなる。
   値はケーブルの長さに反比例するため、2.5mのケーブルを使用すると限界は100kHzを割り込み、 SACD等の全帯域を通すとは言い難くなる。

バランス伝送

アンバランス伝送 単芯シールド線
バランス伝送 2芯シールド線
信号と、極性の反転した信号を送り、受け側で反転合成することによって
ノイズをキャンセルする。
バランス・アンバランス変換で音質が低下する可能性はある。

交流の振る舞い

■表皮効果
δ=√(2/ωμσ)
δ:表皮の厚さ〜表面の電流値に対してちょうど自然対数の底eの逆数になる深度
ω:周波数(オーディオ的には20-20KHz。ビデオで30MHzまで)
μ:透磁率(銅、アルミは真空の透磁率μ0(4e-7*π(H/m))とほとんど同じ)
σ:導電率(銅、5.76e7(S/m))

 表皮効果が問題にされるのは、マイクロ波の領域で、オーディオ帯域では無視できる。
 周波数が1000倍だと表皮効果は30倍。
 銅のμσは7.23

■参考文献
・サウンドクリエイターのための電気実用講座(大塚明/洋泉社)
・オーディオ常識のウソ・マコト(千葉憲昭/講談社ブルーバックス)
・図解・わかる電気と電子(見城尚志/講談社ブルーバックス)
・電磁波とは何か(後藤尚久/講談社ブルーバックス)
・理科年表
物理定数表 - 最上電線
カナレのページ - カタログの中にケーブルに関する物理的な解説が多い
・StereoSound 2005/No.155

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!