『戦場の精神史 〜武士道という幻影』

佐伯 真一 著
NHK出版・NHKブックス


「武士道」というと、フェアプレイ、克己勉励、深い精神性などが普通は思い起こされるが、それは基本的には明治以降に創作された幻影にすぎない(例えば、「葉隠」は江戸時代は殆ど人に知られていない少数派であったこと、新渡戸稲造は日本文化の知識に乏しく西洋の騎士道からの類推で「武士道」を記したことなどの事実が明かされる)ことを、中世の戦記物文学などを中心に様々な資料を駆使して説得力をもって示した書物。

実は、夫唱婦随の「伝統的家族」、「風景」、(現在見られる)「歌舞伎・能」など、日本の「伝統」と看做されているものの多くは明治時代の創作物であるが、「武士道」についてもそうしたことを示してくれてたいへん面白い。特に、教育基本法や憲法「改正」などで、若者文化や現代の(多少なりとも)「民主主義的」な傾向を否定する際に持ち出される「日本古来の伝統」重視論を批判するためには読んでおくべき書物と言える。


元に戻る