その16
2001.11.11
Satori日記
バッハに帰れ!
今日は「音楽の館」設立20周年記念シリーズVol.3であり、通算では、133回音楽の館定期サロンコンサートを主催しました。先月の定期ではドイツリートの現在世界最高歌手の名声を得たD・ヘンシェルが歌うシューベルト「冬の旅」の感動も記憶に新しのですが、今回はベルギーから一時帰国された三和睦子さんの演奏でチェンバロを楽しみました。
ロマン派の歌曲と対照的な、バロックのチェンバロは新たな発見と再認識をさせる感動を私にもたらしてくれました。その事を特に音楽を学ぶ学生に伝えたくメッセージを送ることにします。
同じ鍵盤楽器であるが弦をハンマーで強弱をつけて叩ける(あいまいな表現ができる)ピアノと違って、チェンバロは、弦を爪で引掻いて発音するので、楽器の構造上あいまいな発音は出来ません。ですから、あいまいな発音が得意なガンバ属やヴァイオリン属の弦楽器は、バロック時代よりアンサンブルに於いて、チェンバロとバスの通奏低音のテンポやリズムを頼りに演奏されてきました。
今日のチェンバロ独奏は、ヴェッグマン、バード、クープラン、バッハ、スカルラッティー、と言ったイギリス、フランス、ドイツ、スペインなど各国の曲の華麗さや美しさ、美和さんの曲の解釈や演奏法どれも本当に素晴らしかったのですが、コントラバスの私にとってもっとも興味深く感じたのは、彼女が演奏するチェンバロのやはり躍動する揺ぎ無いリズム感でした。
バロック音楽の要はルネッサンス時代からバロック時代の宮廷ダンス音楽のリズムが大きな要因になっています。チェンバロが刻むリズムは軽快で明快。そしてあいまいさが無いから、小さな音量でも心地よい連続した興奮をもたらすのです。
現在の電気で増幅する大音響のロックやレゲエ、テクノよりもある意味ではエネルギッシュな躍動感さえ伝わてきたのです。
厳格な規則ある中で進む自由な和声コード進行、そして奏者に任される重要な通奏低音と、華麗で折り目正しい正確なリズム感や躍動感はまさに音楽の要です。
バッハに帰れ(基礎に帰れ)と音楽教育でよく言われます。現在の音楽教育の中で、曲を作り上げる曲想や旋律の練習を云々する前に、頑固たるリズム感と、平均率に分けられた完璧な音程と和声を、一定の制約の中で表現する自由な音楽性を養うバロック音楽から始めることは必要不可欠と改めて感じたサロンコンサートでした。
そんな、清楚で潔白、優雅で華麗だけど、あいまいなごまかしの無い安心感を与える美和さんの奏でるチェンバロの調べは、忙しい日々に振り回される現在社会に生きる我々を、実に心地よく、本日の秋の空の様に澄み渡り、我々の心を癒してくれました。
音楽を志し練習に励む学生諸君から、忙しい現在に生きる社会人の皆様に、たまはバロック音楽を楽しんでみてください!と私は声を大に申し上げます。何故なら、バロック音楽に心身が浄化され、諸物の根源に帰る素敵な影響が自分に芽生えるからなのです。
そして、同じ聴くなら、ラジカセやウォークマンでなく、ここ「音楽の館」で私が皆さんに厳選してご紹介する世界最高峰の円熟した音楽家による、本物の芸術を是非聴いて、本当の本物のみがもたらす恵の感動を体感してください!