追っかけ日記 - Fly me to München

last modified at 1998.10.30

初出 : 同人誌 Cecilia No.11 (1996.02)

[01.16] [PROGRAMME]

3度目の・・・という諺が有りますが、ついに聖地Münchenを訪れました(^_^)v

勿論、1986年の来日以来、漠然とは「何時か聖地へ」という思いは有りました。
でも、現実味を帯びて「行くぞ」と思ったのは、1995年04月の演奏会が、最初だった様に思います。
丁度その前年、来日好演が中止となり、もう日本に来てはくれないんだろうなぁと思って居たのですが、この演奏会でStravinskyのPulcinella Suiteが予定されて居ることを知り、居ても立っても居られなくなった訳です。
この時は、02月の段階で、医師の薦めにより曲目変更というnewsが入り、実際には何も行動を起こす前に諦める事となりました。
1995年04月の演奏会の後、イタリア好演中に骨折し、再起不能の可能性も有るとのnewsを受け取り、後悔すると共に、次回もし機会が有るのなら、曲目が何であろうと行かねばならぬと思ったのですが・・・

で、1995年07月には、順調に回復し次シーズンには復活するらしい、しかもopeningはブル9と聞いて、これは行かねばならぬと思ったのですが。
ところが・・・石橋を叩いて渡らない性格なもので、実際にチケットの手配を依頼したのが遅かったのか、チケット確保出来ず、敢え無く飛行機とホテルをキャンセルしてしまいました(>_<)
ところが1995年09月中旬、またまた倒れてしまいまして、少なくとも1995年年内の復帰は無理、医師は引退を勧告したとのnewsが飛び込んで来ました。
一度も本拠地で聴くこと無く終わってしまうのかと、またまた後悔(>_<)

年末も近付くと、どうも本人は振る気らしいとのnewsが・・・ここで何時もの性格が裏目に出て、振る事が確実視されてからチケット捕獲に走ったのでした。
あっさり「Münchner Phil.ですか? 今一番取り辛いんですよね」で、あっけなく「完売です」の返事でした。
こうなりゃ自棄糞・・・と言う訳で、1週間ホテルで不貞寝してやる!と叫んだのでありました(^_^;)

チケットの確保が出来なかったので、全好演期間滞在し、どれか一日でも・・・という作戦を取らざるを得ない。 という訳で、01.11成田発 01.17München発ということになりました。 それが、まぁ色々有りまして(^^;)、

  1. 1996.01.12 20:00- ミュンヘンフィル友の会(?)と支援者の為の特別演奏会
  2. 1996.01.14 11:00- 定期演奏会
  3. 1996.01.15 20:00- 定期演奏会
  4. 1996.01.16 20:00- Theatergemeindekonzert (* 都民劇場の様なもの? *)

と、今回予定して居た全好演を聴くことが出来ました(^_^)v

紙面の都合上、いきなり最終日後半の日記からお付き合い下さい (_._;)

1996.01.16 (Tue)
夕刻、GasteigのInformationに行き、「今晩の当日券、発売される予定は有りますか?」と訪ねると、「残念ですが有りません」とのこと。 判っては居たが、それでも呆然として居ると、「開場の頃に来てズーヘしてごらんなさい。 運が良ければ誰か譲ってくれるわよ(^_^)」と優しいお言葉。
「僕も、運が良いことを望んで居ます。 有難う。」(* あぁ直訳調(^^;) *)

という訳で、ホテルに戻り、A5 sizeのメモ用紙に「Suche Karte」と書いた(^_^;)
準備が出来たんで取り敢えず一眠り。

Gasteigに戻ると・・・行列が出来ているではないか。
あのおばーちゃん、嘘ついたの?と思いつつ、行列に参加する。 やがて、開場。
青い制服のおねーさんが何か叫んで居る・・・当然聞き取れない(>_<)・・・が、単語一つも聞き取れなかったのだけれど、当日券が無いことだけは判った!

行列は無視して、早速ズーヘ開始。
10 min過ぎた頃、おばちゃんが近づいて来た。
「Theatergemeindekonzertの券買わん?」
をぉ、ラッキ! 「幾らなら売ってくれるの?」と交渉開始しようとすると、「あ、でもこれ今日のじゃ無いけど良い?」「へ?」

良く見ると来月の演奏会では無いか(^^;) ちょっとムッとしつつも、買う前に今日の券では無い事を言ってくれたのだから悪気は無かったに違いないと思い「有難う、でも要らない。」と断る。

「Suche Karte」と書いた紙を見せてたどたどしく話し掛けるのだが・・・
「Nicht!」という単語を何度聞いたことか(^_^;)

やがて、すぐ隣に居たおばーちゃんが見事掴まえたらしい。 が、価格交渉が不成立になったのかしらん、僕とは反対側の若者に権利を譲った様子。
そりゃ無いよ、おばーちゃん。 さっきまで会話して居た仲じゃ無いの。
(* って、単に「若いの、寒いねぇ」「えぇ、寒いですね」だけですが(^^;) *)

ズーヘ開始後、40 min程経過・・・開演まで後20 min。
はっきり言って寒い、心も寒い。 「4日の内、3日も聴いたんだから1日位聴けなくたって良いじゃない」「もうホテルに帰って寝ようよ」と悪魔のささやきしか聞こえてこない・・・のだけれど、足が動かない。

「今晩は。 まだ取れて無いんですか?」と日本語で話し掛ける声。 初日に知り合った邦人留学生だった。 「Rosenheimer駅の方までズーヘが出てますよ。 もっと、前に行かなきゃ駄目ですよ。」と助言を得て居ると・・・髭の老人が、何事か話し掛けて、何かを僕に手渡した。
「えっ! やったじゃないですか。 ただで譲ってくれるって!」と彼が通訳してくれなければ、何が起きたのか未だに判らなかったに違いない。
「えっ! 本当!? えっ!」と、ただ興奮して日本語で叫んで居る内に、かの老人は消えて居た。 「Danke Schön」でも「Thank you very much」でも良い、何故即座にお礼の言葉が言えなかったのか・・・反省。

彼とは、「じゃ、また(^_^)」ということで、僕はニコチンの補給が最優先(^^;)
Philharmonieは、1階以外禁煙(>_<)である。 不便極まりない。 という訳で、当日券売り場の近くの灰皿で一服。 当日券売り場に並んで居る面子には見覚えが有る・・・やはり、行列して居たら買えなかったのだ。
偶には、僕も正しい判断をすることが有るらしい(^_^)v

「あら? あんた、さっきまでズーヘして居なかった?」と有閑マダム風の声。
流石にズーヘする東洋人は珍しいのか(^_^;)
「えぇ、でも手に入りました(^_^)」とポケットからチケットを見せる。
「良かったわね(^_^) 余って居たんだけど、既に譲ってしまった後だったの。 で、何処から来たの?」
「日本からです。」と答えると「あたしも、ミュンヘン・フィルと一緒に日本に行ったことが有るわ。 1986年でしょ、1990年でしょ・・・」
うぅむ、おばさんを侮ってはいけない(^_^;)

開演が近づいたので、客席へ移動する。 僕の席は何処なんだ・・・と、見ると隣はチケットを譲ってくれた髭の老紳士ではないか。
良かった(^_^) お礼を言うことが出来た(^_^)

聞けば、奥さんが病気で来る事が出来なかったとのこと。 「風邪ですか?」と訪ねたが違うとのこと。 これ以上訪ねる語学力は無い(^^;)
「何処から来たのかね?」「日本からです」「ほぉ 飛行機で何時間位掛かるのかい?」「Amsterdamまで12時間、AmsterdamからMünchenまで1時間少々です」「何時までMünchenに居るのかね?」「明日朝Münchenを発ちます」などと中学校の英語の教科書の例文にでも出て来そうな会話(^^;)をして居る内に、いよいよ開演。

最初は、Mozartのピアノ協奏曲#9。 独奏は、Perahia, Murray。
Perahiaの音は、音の粒立ちがはっきりして、コロコロと質感の有る音の塊が軽快に転がる様な音が、彼の持ち味で有る印象を受けました。 ところが、これまでの3日間は、ピアノの音の粒立ちは綺麗だったのだけれど、軽快に転がり切れずに戸惑って居たという印象でした。 ピアノが完全に主導権を握ることも出来ず、チェリも全てを支配しようとせず、どっちつかずの音楽になって居た様な・・・
この日のMozartは、奇跡でした。 何が起きたのかは判りませんが、この日のPerahiaは自在に振舞うことが出来た様に思います。 チェリも彼のサポートに廻り、軽やかに流れて行くPerahiaの音が全体を支配して居ました。
チェリ・ファンとしては、逆にチェリが音学を完全に支配してと思わずには居られなかったのですが。

Perahia自身、嬉しかったんでしょうね。 Chopinの・・・何て曲名だったっけ? アンコールを弾いてくれたのは、この日だけでした。

アンコールが終わると休憩。 僕としては、この老紳士に是非一杯奢りたい。
珈琲でも如何ですか?と、席を立つ。 オレンジ・ジュースが良いと言うので、オレンジ・ジュースで乾杯(^_^)

休憩後は、ベト3。 これには圧倒されました (^_^)v
ベートーヴェンなんて全然期待して居なかったんだけどなぁ(^_^;)
いやぁ〜、ベト3ってブル5だったんですねぇ(^_^)
Eb↑Bb↓Bb↑Ebという4つの音の支配をいやという程、見せ付けられました。
それ以外の音は、装飾音に過ぎない。 だから、フーガとしての構造がはっきりと見えてくる。 特に4th mov.が強烈でした。

終演後に、今回知り合った邦人留学生と、点心を食いながら話したのですが、プローベでもこの4つの音の濃淡を特にしつこく演って居たそうです。 僕が、ブルックナ、ブルックナとしきりに言うので苦笑いされてしまいましたが・・・
まぁ彼も言って居たけど、普通の感覚ではバッハと言うべきなんでしょうな(^_^;)

ベト3が終わり、長い拍手が終わると、再び老紳士と握手。
「明日帰るんだったな 安全な旅を」「有難うございます(_._)」

1階の灰皿で一服しつつ余韻に浸って居ると、邦人留学生の姿有り。
「いやぁ 今日のMozartは良かったですね(^_^)」
「ベト3、1st - 3rd mov.は今日が一番良かった」なんて話をし始めると、尽きなさそうなんで、何処かに行きませんかということになる。


PROGRAMME
1996.01.12 20:00- : the Gasteig Arts Centre, Munich
(* Sonderkonzert fuer die "Freunde und Foerderer der Muenchner Philharmoniker" *)
1996.01.14 11:00- : the Gasteig Arts Centre, Munich
(* 4 Abonnementkonzert Reihe M *)
1996.01.15 20:00- : the Gasteig Arts Centre, Munich
(* 4 Abonnementkonzert Reihe E *)
1996.01.16 20:00- : the Gasteig Arts Centre, Munich
(* 3 Theatergemeindekonzert *)
Mozart, WA : Piano Concerto No.9 in Eb major, K 271
Celibidache, S / pf. : Perahia, M; Munich Phil.
Beethoven, Lv : Symphony No.3 in Eb major, op.55, "Eroica"
Celibidache, S / Munich Phil.

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