追っかけ日記 - ミケ! -

last modified at 1998.10.30

初出 : Niftyserve一般会議室への書込みや当時のメール・ログを基に新規書下ろし (1998.03)

[10.15] [10.16] [PROGRAMME]
1992秋に来日すると発表があり、発売日を心待ちにして居たのだが、何故か、何時まで待っても発売日の発表が無い。 梅雨の頃、金額も含めて、発売の予告が有ったはず。 それが、何故か延期になり、何が起きて居るのか、判らずにオロオロして居た。
# ここまでの話、記憶だけで書いて居るので、時系列に嘘があるかもしれない。

1992.08.27
ミケランジェリと共演!との発表。 念願のミケを聴けるのは嬉しいが、チケット争奪戦を思うと気が重い。 価格も当初の発表から大幅アップ。
S\32,000 A\28,000 B\22,000 C\17,000 D\10,000!!

1992.09.12
親指にre-dialボタン、中指にフック・・・話中音や「只今、この回線は大変込み合って居ります」のアナウンスを聞きながら、交互に押し続ける事、20分。
繋がった途端に、手は震えるわ、汗は出るわ、涙は出るわ、呼吸が速くなるわ・・・で、無事両日共にチケット入手(^_^)

1992.10.15
一曲目は「ローマの謝肉祭」。 知って居る曲のはずなんだけれど、初めて聴く様な気がしてならない(^_^;) 悪く言えば、微視的「過ぎ」る演奏。
ピアノの音の緊迫感はあったけど、ちょっとこじんまりし過ぎていた様な気はする。
# この不満は、この後のチャイ5で解消されましたけど

それにしても、異様なBerliozでした・・・序奏の後、ググッと速度を落とすもので、序奏の慣性で主題を期待して居た全身がつんのめりそうになる。 この急制動で、何か時間軸が歪んでしまう様な気がする。 時間軸の格子が歪むことに依って、その隙間から主題が染み出して来る様な面白さが、変な日本語だけど、気色悪い位に面白い。
これが他の演奏だと、只の序奏が、只平然と、当然の様に、只の主題に繋がるだけなんですが・・・って、世の中全てがこういう演奏ばかりなら疲れてしまいますけど。

2曲目は、Schumannのピアノ協奏曲。
もっと調和した演奏になるかと思ったんですが・・・
テンポとしては、ミケはもう少し走りたかったんだけど、チェリに引き釣られてしまった(^_^;)・・・という印象。

只、チェリもミケも、きちんと自身の作ろうとして居る音楽を貫き通そうとして居た様には感じました。 チェリとミケが一歩も譲らずに、お互いが、お互いの音楽を主張して居る様は、正に「喧嘩」でした。 「喧嘩」して居る二人と、その間でオロオロして居るオケが見えたのが、聴き手としては面白かった。
先日、イタリアのミケランジェリ・ファンとメールでお話した際に、この僕の感想を伝えたら、「イタリア語の"concerto"の語源は"cum" + "certare"で、"with" + "to fight"なんだよ」という返事を貰いまして・・・日本語の"協" + "奏" + "曲"とは大分趣が異なるんだなぁと思うと共に、あの時聴いたのが"真の"協奏曲だったのかと思った訳ですが。

偏見かもしれないけれど、世間一般の、協奏曲って、絶対的な独奏者と、それに服従する伴奏者達という構成が多い・・・勿論、独奏者の華を愉しむには、これも悪く無いんだけど。
で、更に偏見を重ねると、逆に、チェリの協奏曲の場合、単なる独奏楽器付きの「交響曲」にしか聴こえない演奏が多かった様に思います。 そういう「独奏者」の中で、ミケランジェリは希有の存在だったのだなぁと。

初めて生で聴くミケでしたが、ピアノという楽器が、ここまで多彩な音の種類を持った楽器だったとは知らなかった。 指1本1本が全て違う音を使い分けて居る様に聴こえる。

只、ミス・タッチも多く、完全無欠の音とは言い難かった。 「ちょっと不調かな? もしかして翌日はキャンセル? だとすると、明日の券しか買えなかったAさんやHさんに自慢出来るなぁ(^◇^;)」なんてことを考えて居りました(^_^;)

なもので、「音」としての完成度には疑問を感じたのだけれど、「音楽」としては非常に面白かった。

3曲目はチャイ5。 今回の好演、最大の収穫でした(^_^)v
2nd mov.、特に冒頭と最後。 本当に呼吸が出来なくなる程の緊張感。 客席全体が息を止めていたんじゃないだろうか。
ああいう密度の濃いピアノの音は、やっぱり録音では無理ですよねぇ・・・改めてチェリのピアノの音の「力強さ」を感じました。

一方4th mov.。 先ほどとは逆に、フォルテの力強さを堪能しました。 特に低音弦。 ゴリゴリと弾きまくっておりました。 金管低音群の割る音よりも、音量があったかもしれない(^_^;)
そのせいでしょうか、vc.topのKlugの弓は(* 1st mov.が終わった時点でもう切れてましたけど、更に *)ボロボロ。 vc.2プルト表の弓も4th mov.が終わる頃には数本切れてました。
そういえば、コンマスの弦も1st mov.途中で切れてましたね。 よくあるクイズの正解とは異なり(^_^;)、演奏中にコンマス自ら張り替えてました。
まぁ、弦が切れたり、弓が解れたり・・・ってぇのはプロの場合、賛辞にはならないんだろうなぁ(^_^;)
でも、プロが、そこまでやる程の熱演だった。
金管もロシアオケの様な迫力で、バリバリ鳴らしていたし・・・4th mov.終わり頃には、すっかり逆上せて、幽体離脱(^_^;)しておりました。

この超好演の唯一最大の汚点は、「ブラボー」。
前半2曲では、大人しくしてたから安心してたのに・・・
あれで一気に現実に引き戻されてしまった(>_<)

65min超えていたのですが・・・長さは全く感じませんでした。 1st mov.で既に26min超えて居たのですから、他の楽章では普通のテンポだったのかな? 説得力の有る演奏だったから、1st mov.でもそんなに遅いとは思っていなかったんだけど。

そして、チェリの元気の良さには、安心しました。 下半身は相変わらずで、歩くのさえ辛そうでしたが、上半身は50歳台なんじゃないだろうか。
Hr.が吠える箇所では、カルロスも真っ青の、右腕大旋回(* 但しカルロスと違い、360度廻す毎に旋回の方向が逆転する(^_^)v *)まで見せてくれました(^_^)

後印象に残ったのは、ob.の音。 実に良い音でした。 甘く柔らかい・・・でも溶けてない。 2日目はちょっと(^_^;)でしたけど。

1992.10.19の朝日新聞の夕刊に、1992.10.15のチェリの評が載ってました。 評者は、間宮芳生。
チャイ5のあまりのスローテンポ(* だったとは、僕は思ってないけど(^_^;) *)に抵抗を示しつつも、
》作曲家のつぶやきを言えば、作品があんな風にやられたら、面白いけれど
》有り難めいわくだなあ。
まぁ、「僕には理解し兼ねるけど、凄かったことだけは認めるよ」という様な評かな(^_^;) (* ←贔屓目過ぎる?(^_^;) *)

終演後、花束を持った男の子を抱えたお父さんが、その子を舞台に載せてしまうハプニング(^_^;) 一瞬、会場内が、何事が起きたのか?と騒然としたのですが・・・チェリは喜んで居た様で、その子を抱きしめるは、キスはするはで、写真を撮って居たその子のお父さんも興奮状態。 尤も、その子は、訳の判らん爺さんにキスされるのが嫌だった様で、降りたがって居たのですが、チェリが離さず、一緒にオベーションを受けて居ました。
その夜、仲間内では「明日は、半ズボンを履いて、花束を持って行こう!」で盛り上がってしまいました(^_^;) 尤も、翌日半ズボンで来た奴は居なかったけど(^_^;)
# ちなみに、翌日は女の子・・・二番煎じの様な気がして、余りウケて居ませんでしたが(^_^;)

1992.10.16
さて2日目。
Berliozの方は、初日と大差ない様に思いました。 只、拍手が早すぎる。
よくあんな演奏聴いた直後に、拍手がすぐ出来るなぁ

Schumannの方は・・・前日、チェリとミケの対峙に、ちょっと綱渡り的な不安定さを感じていたのですが、この日はそれがやや協調気味に傾いた様で・・・相変わらず、緊迫感のあるSchumannでしたけど。
「Schumannのピアノ協奏曲の」演奏としてはこの日の方が良かったかもしれません。 只、指揮者と独奏者が真摯に闘って居る面白さという意味では、初日の崩壊寸前の演奏の方が断然面白かった。

休憩の後は、ベト5。
前回のブルックナでコンマスを独占していたGrobholzが、今回初めてコンマス席に座っておりました。 やっぱりこの方が出てくると、チューニングからしてオケの反応が違う様な気がする。
時々、チェリの指示とオケのタイミングが合わなくなったり(^_^;)してましたけど、強烈な演奏でした。 久しぶりにチェリの吠える声も聴けたし。
一つだけ挙げるなら、やはり3rd mov.終わりから4th mov.へ雪崩込んでいくところかなぁ・・・ あんなに長い時間、音量の加速度を一定に保ったクレッシェンドって、90年のブル4以来聴いたことがなかった。
終わった時、僕の足腰にガタがきてました(^_^;) 暫く立てなかった(^_^;)

確かに最盛期のチェリはもういない(;_;)んでしょうね。 でも、最盛期には聴くことが出来なかった味が出てきた様にも思います。
そういう意味でも、次回のブルックナは楽しみ楽しみ(^_^)

終わってみて思うのは・・・僅か2日、ほんの数時間だったのに・・・とんでもなく体力と気力を消耗した演奏会でした
# これが止められないのよねぃ(^_^)v
# 来年春、僕の体力が持つんだろうか(^_^;)


PROGRAMME
1992.10.15 : Hitomi Memorial Hall, Showa Women's College, Tokyo
(* Singapore, Thailand, Hong Kong, Taiwan ROC, and Japan tour (1992.10.01-10.16) *)
Berlioz, H : Le Carnaval Romain Overture, op.9
Celibidache, S / Munich Phil.
Schumann, R : Piano Concerto in A minor, op.54
Celibidache, S / pf. : Michelangeli, AB; Munich Phil.
Tchaikovsky, PI : Symphony No.5 in E minor, op.64
Celibidache, S / Munich Phil.

1992.10.16 : Hitomi Memorial Hall, Showa Women's College, Tokyo
(* Singapore, Thailand, Hong Kong, Taiwan ROC, and Japan tour (1992.10.01-10.16) *)
Berlioz, H : Le Carnaval Romain Overture, op.9
Celibidache, S / Munich Phil.
Schumann, R : Piano Concerto in A minor, op.54
Celibidache, S / pf. : Michelangeli, AB; Munich Phil.
Beethoven, Lv : Symphony No.5 in C minor, op.67
Celibidache, S / Munich Phil.

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