[2-Geki]  2劇通信・幕の内タケ第13号 2001年(平成13年)1月1日
作・演出 音間哲に聞く
  『コメディじゃなきゃ、意味がない』





音間哲(おとまてつ)。

今回作の作者及び演出家です。本公演初登場ということで、フレッシュな人材かと思えば、 実は2劇歴11年のベテラン。 作・演出家として若くから、小公演やプロデュース公演、 さらには他劇団への台本提供で経験を積んできた、頼れる才能です。

彼の紹介を兼ね、その来歴と演劇観、 そして今回作「人あたりのいい部屋」への野心に中山邦彦が迫りました。

[イラスト・音間]

― まず、劇作家音間哲の原風景から。いわゆる芝居との出会いは?

音間 小学生の時。役者としてね。2劇じゃついぞないけれど、いきなり主役。

― わかった。その巨体を利して「裸の王様」だっ!

音間 全然ちがう。社会派、シリアス劇。地域伝承の偉人伝。

― かっ、考えられない。

音間 愛媛県の松前町というところで育ったんだけど、 その昔、義農作兵衛さんという人がいて、飢饉のなか自分だけは翌年のもみ種に手をつけず、 村を救ったという話。

― 英雄なわけだ。

音間 そう、もう直球ズドンの。どういう訳か、作兵衛役に指名されちゃって、 学校の講堂で公演。ヤンヤの喝采だったね。 当然、ちょんまげ頭にスポットライトも浴びちゃって、舞台というものに目覚めたのかな。

― なるほど、そんな過去があったのね。で、書く方は?

音間 処女作は小学4年の時。書いたらいきなり教室で話題になって、 クラスの書棚に納品されちゃった。それで目覚めて連作しちゃいました。

― 学童の心を捉えたわけだ。で、どんな内容。

音間 教室がある日宇宙に飛び出す話。火星人が授業に出たりして、もうハチャメチャ。 第2弾が、教室がある日タイムスリップするの。 父兄参観の日、子供らはみんなちょんまげや日本髪。それでもうハチャメチャ。

― な、なるほど。

音間 まだあるよ。第3作は、教室がある日マッチ箱大になるの。 クラスメートはアリさん状態。着想は良かったんだけど、オチまで辿り着けなくて悔しかった。 ま、この辺から創作好きは始まってますね。

― なかなかいい作風じゃない。空想性が強くって。それに出発点が「教室」 で、今作が「部屋」と、なんだかつながりもあるよね。

音間 好きなのかなぁ、部屋ものが。 押入れから、得体の知れないものがドバドバ出てくるのも好きだね。 ドラえもんのポケットのようにね。それにね、考えると一貫してコメディなわけ。 そうじゃないと意味ないくらいに思ってる。




― 聞いたけど、高校時代に賞もらったって?

音間 ウッ、恥ずかしい。兵庫県の創作脚本賞をば。

― 多感な頃だもんなあ。正義とか友情とか書いたんでしょ。 じゃ、披露してもらいましょう、その恥ずかしいタイトル。

音間 「海の匂いは、血の香り」

― フンフン。恋と自我の発露に行き詰まった主人公が、 岬で恋仇の親友にナイフを突き立てたって展開でしょ。 さしもの音間クンも思春期は、しばしコメディを離れ、私小説的サスペンスに挑んだわけだ。

音間 いや、これもSFタッチのコメディ。 物語の焦点は、海岸に置かれた謎の小瓶。 いろんな人が入れ替わり出てきて、最後にそれを開ける。 すると、瓶の中の生命が増殖して、地球全体が海になるって話。




― はあー、なら一貫している。 その後、2劇に入り、作演出を5作品ほどやってきたわけだけども、 今回初の本公演に迎えられた背景には、 前作(「Sleepless sleeper」2000年4月 於ウイングフィールド)での成果があるよね。

音間 成果? そ、そうかな。自分じゃ、そこでの手応えよりも、 次へつながるバネみたいなものをもらったように思う。

― あら、柄にもなく神妙じゃない。じゃあ、そのバネとは?

音間 オムニバス形式で、5五つほど物語を書いたけど、 書くには書けるしドラマとして立ち上げる自信はついたよね。 でも、本当の意味でお客さんのなかに「残る作品」にするには、 まだまだ足りないんじゃないかって、思った。

― じゃあ、今回作はそのテーマへ向けた挑戦でもあるわけね。

音間 ウン。芝居でなきゃできないことを自分の中で問い直す、 その作業が大事だと痛感してマスッ。

― で、今作、掲げちゃうテーマとは?

音間 「デジタル化社会の人間関係」かな。 機器や手段の上では携帯電話やパソコンが代表しているけど、ここ数年、 人と人を結ぶコミュニケーションの道具としても否応なしの広がりを見せてるよね。 便利で正確、それで良しなんだけど、 浮かれて使っているのがロボットでなく生身の人間であることに少し怖さを感じるわけ。 だって、本来あいまいさを必要とする人間関係の中に、 とても正直鋭利なゼロイチ的価値観、いわばデジタルウイルスが染み入って来るんだから。 それを元に生じる、アレ変だぞって現象は、自分もそうだし多くの人も感じ始めていて、 そんな光景を立ち上げてみようかなと。

― ウ、ウーン。私も、携帯持ち始めて、逆に孤独になった。 だって、嫁さん子供からしか、かかって来ない。そ、それもデジタル病なわけね。

音間 違うってそれは。 それと、デジタル化社会と強く関係しないけど「ひきこもり」にも興味がある。 そうした人って、周囲にある実空間との関係がどんどん薄くなる中で、 突拍子もないものが見えてくるんじゃないかと。 うまく言えないんだけど、「二つの世界が、同時に同じ場所にある」って状況、 これを上手く舞台でできれば、なかなか刺激的でしょ。

― 聞いてると、今回は冷たくて寂しい感じの舞台に、なりそうな・・・・。

音間 大丈夫。さっきも言ったように、アタシャね、コメディしか書いたことないの。 テーマ、見かけはクールでも、お客さんに笑っていただき、最後にジンとしていただく。 それがなきゃ、書く意味ないから。フォ、フォ、フォッ・・・。



音間哲を古くから知る私は、最後に少し怖くなった。だって、フォッてバルタン星人でしょ。 筋金入りのウルトラ怪獣通で鳴らす彼、物語「人あたりのいい部屋」に怪獣を無理やり投入し、 得意技のSF展開で解決を図る予言に聞こえたからだ。 翌日、稽古場を覗くと安心した。 音間にとって、フォッとは、ただ単なる自信の雄叫びだったのである。



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