2001年4月号


 当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


 A 胃薬  B 湿布

 録音地 ………… 某高校保健室


A  もうちょっとそっちに行けよ
B  これ以上はムリだ
A  鼻がツーンとする
B  少しぐらい我慢しろ
A  おまえのは特別だ
B  救急箱が狭いんだよ
A  いや、おまえがでかいんだ
B  切って使うタイプなんで
A  上から覆いかぶさるな
B  どうもすいませんね
A  ああ、もっと広いところに行きたい
B  おれもそう思う
A  庭で日光浴してみたいな
B  救急箱の中は、暗くて寒いからね
A  あと、くさいし
B  そんなこと言うなよ
A  でもさ
B  おまえだって、独特のニオイじゃないか
A  あまり他人に迷惑はかけてないよ
B  おれのニオイは個性だ
A  そうか?
B  これがないと、きっと寂しいぞ
A  そうかな
B  効き目が実感できるだろ
A  周りの人に気づかれるのは困るんじゃないか
B  無臭性の仲間もいるけど、おれはイヤだね
A  あ、そう
B  そこまでして人に好かれたいか、って感じ
A  すごいポリシーだな
B  あれ、誰か来たぞ
A  生徒たちの声がするね
B  箱が開いた
A  どうやらケガしてるな
B  またヨードチンキの出番か
A  売れっ子だな、ヨードチンキ
B  とにかくヨードチンキだからな
A  ケガといえばヨードチンキだ
B  まあ、当てにされても困るけど
A  すり傷に湿布はちょっとな
B  傷口が膿んじゃうよ
A  それに痛そう
B  治るものも治らないね
A  でも、おまえはいいな
B  そう?
A  体育や部活がある限り、活躍できるもん
B  ああ
A  俺は就職先を間違えた
B  え、どういうこと?
A  学校の保健室じゃ、出番が少なすぎる
B  なるほど
A  みんなあまり食べ過ぎたりしないだろ
B  そうだなあ
A  飲み過ぎたりもしないし
B  高校生だからね
A  家庭の常備薬がよかった
B  常備薬ね
A  ご主人がサラリーマンで
B  それは忙しそうだなあ
A  奥さんが体を心配してさ
B  あなた、お体は大丈夫?
A  ちょっと胃が痛いかな
B  はい、湿布
A  おい
B  何?
A  どうしてそこでおまえが出てくるんだ
B  お役に立ちたくて
A  胃が痛いって言っただろ
B  怒るなよ
A  みんながもっと食べ過ぎりゃいいのにな
B  気持ちはわかるけど
A  薬って難しいよ
B  難しいね
A  使われないと不満だし
B  うん
A  あまり使われると心配だし
B  うん
A  あれ、どこへ行くの
B  急に呼ばれた
A  さっきの子、すり傷だけじゃないのか
B  打撲もしてるみたいだね
A  ひどいな
B  ああ、切られる〜
A  おかえり
B  ただいま
A  スリムになったな
B  わかる?
A  これで救急箱にうまく収まるよ
B  まあね
A  あれ、また行っちゃうの
B  1カ所じゃないみたい
A  その子、病院に行った方がいいぞ
B  ああ、切られる〜
A  おかえり
B  ただいま
A  やせたな…
B  真っ二つだ
A  しかも切り口がずいぶん曲がってるぞ
B  うわ、みっともない(以下無音)




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 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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