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 当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


 A スキー板  B スノーボード

 録音地 ………… 某スキー場


A  あなたに冬の主役は渡さないわ
B  おばさんは引っ込んでりゃいいのよ
A  お、おばさんですって?
B  ええ、そうよ
A  もう一回言ってごらんなさい
B  一回でいいの?
A  んま〜、礼儀を知らない子!
B  ふん
A  かわいくないったら、ありゃしない
B  だいたいスキーなんて古いわよ
A  そんなことありません
B  あるわよ
A  ありません
B  あるわよ
A  ありません!
B  ふん
A  何よ何よ何なのよ。あとからやってきて大きな顔しないでよ
B  しょうがないでしょ。人気あるんだからさ
A  んま〜、憎たらしい!
B  そっちこそ、早くどこか行ったら?
A  あのね、ここはスキー場なのよ
B  わかってるわよ
A  スキーがスキー場以外にどこへ行くっていうのよ
B  もうね、私の方が人気あるんだから
A  あら、どこにそんな証拠があるの
B  5年前のこと覚えてる?
A  え、ええ、覚えてるわ
B  あの時、すごい冷たい態度取ってくれたわよね
A  それはその…
B  あなたたちはすべっちゃダメだって
A  それは、スキーヤーたちとあなたが混ざると危険だったから
B  心配してるのはスキーヤーの方でしょ
A  そんなことないわ
B  それが今はどう? スノボパークオープンよ?
A  いや、だから
B  土日も祝日も滑降可能よ?
A  そ、そうね
B  オホホホホホホホホホホホホ
A  悪かったわよ
B  今や、私なくしてスキー場の繁栄はないわ
A  そ、そうよね
B  だいたいね、スキーはおしゃれじゃないのよ
A  そうかしら
B  ブーツもハードで曲げにくいし
A  そうだけど
B  ガチャガチャとジャマくさいし
A  そうかしら
B  板が2枚にストックも2本あるでしょ
A  ええ、まあね
B  転んだときなんて、もう最悪
A  そう?
B  板とストックがバラバラに飛び散って
A  ああ、そういうこと
B  どこに何があるのかわかりゃしない
A  そんなすごい転び方しなくても
B  私なんて、私一人いればいいんだから
A  いいえ、生きるってことは、みんなで支え合うことよ
B  その考え方が古くさいのよ
A  んま〜!
B  だいたい何よ。今どき「板」って…
A  いいじゃないの
B  サーフィンボードとかウェイクボードとか、いけてるのはみんな「ボード」なの!
A  く、くやしい
B  板なんて、洗濯板とか羽子板ぐらいよ
A  フリーターってのもあるわよ
B  それは板でもなんでもないでしょ
A  リピーターは?
B  意味わかって言ってんの?
A  わかるわけないじゃない
B  とにかく、もうあなたの時代じゃないわ
A  いいわよいいわよ。出てくわよ
B  あ、そう
A  スキー場なんかスノボだらけになればいいのよ
B  望むところだわ
A  ゲレンデの隅の方で、みんなして座り込んでりゃいいのよ
B  よけいなお世話よ
A  バカみたいにくるくる回ってりゃいいのよ
B  バカみたいとは何よ
A  だって普通にすべればいいのに、くるくるくるくる…
B  それがいいんでしょうが
A  それに何なの、あのハーフパイプって
B  ハーフパイプのどこが悪いのよ
A  同じところを振り子みたいに。やってて楽しいの?
B  あれは技を競うの。芸術なの
A  技を競うならモーグルの方が美しいわ
B  複合よりはマシでしょ
A  何が悪いのよ
B  スキー履いて走って、バカじゃないの?
A  あれはスキーのトライアスロンなの!
B  ああ、そうですかそうですか
A  んま〜!
B  痛い! 何すんのよ
A  もう怒ったわ
B  エッジを立てないで
A  くやしかったらスノーボードでK点越えてみなさいよ!
B  横向きであんなに飛んだら死ぬじゃないの
A  ああ、どうぞ死になさい
B  言ったわね!(以下無音)




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 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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