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 当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


 A 駐車禁止標識  B 一旦停止標識

 録音地 ………… 都内交差点


A  ドライブにはいい天気だけど
B  そうだね
A  ここの工事、いつになったら終わるんだ
B  さあ
A  もう5年ぐらいになるんじゃないか
B  そうだっけ
A  見ろよ。この渋滞
B  あきらかに工事のせいだね
A  ああ
B  何ができるんだったかな
A  地下鉄だ
B  また地下鉄?
A  そんなに掘らなくてもいいのに
B  そうだよね
A  道路の前に作っときゃよかったんだ
B  そりゃ無理だよ
A  うわ
B  どうした
A  向こうからすごいスピードのバイクが
B  本当だ
A  減速するかな
B  どうだろう
A  危ない
B  あ
A  あ
B  ぶつかった
A  こりゃひどいな
B  どっちが悪いと思う?
A  今のはバイクの方が悪いだろ
B  そうかなあ
A  だって一旦停止してないじゃん
B  車もちょっと悪くないか
A  そんなことないよ
B  前方不注意だよ
A  いや、一旦停止を怠ったバイクが悪い
B  車も悪いって
A  ま、バイクと君は同罪だな
B  何だよ、それ
A  まあいいけど
B  同罪ってどういうことだ
A  君のアピールが足らないよ
B  アピール?
A  もっとアピールしてれば、事故は起こらなかったはずだ
B  ぼくが悪いの?
A  バイクが止まらなかっただろ
B  それはあいつの運転マナーの問題だろうが
A  そこを何とかするのが君の力だ
B  ぼくはがんばってるよ
A  そうか?
B  「止まれ」って、こんなにでかく書いてあるんだぞ
A  見りゃわかるけど
B  これでもまだアピール足らないのか
A  書いてあるだけじゃなあ
B  だったらこっちも言わせてもらう
A  何だよ
B  君ががんばってりゃ、事故は未然に防げたぞ
A  どういうことだ
B  この路上駐車、何とかしろよ
A  それがどうした
B  視界が狭いから、こういう事故が起きるんだろ
A  アピールしてるよ
B  できてないよ。車だらけじゃないか
A  それはあのラーメン屋のせいだろ
B  そうだけど
A  ぼくは悪くない
B  アピール不足に変わりはないよ
A  だったらどうすればいい
B  そんなこと知るか
A  ぼくの力なんてこんなもんさ
B  あれ?
A  だから禁止標識なんていやだったんだ
B  いきなり落ち込むなよ
A  いつもみんなに煙たがられて
B  まあまあ
A  どうせ誰も守ってくれないし
B  そんなことないよ
A  一方通行に転職しようかな
B  あれもいやな仕事らしいよ
A  そうなの
B  向こうに行きたいのに、って舌打ちされたり
A  じゃ、工事中は?
B  あれは転勤が多くて大変だ
A  そうなの
B  あっちこっち動かされるから
A  落石注意は?
B  山の中で寂しいぞ
A  そうか
B  速度制限もむなしいらしい
A  だろうなあ
B  転回禁止も嫌われるぜ
A  やりたくないね
B  あ、一つおすすめがある
A  何?
B  左折可がいいよ
A  あ、あの一方通行の弟みたいなやつ?
B  そうそう
A  …顔を整形しなくちゃ
B  君、丸いからなあ(以下無音)




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 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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