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当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。
A 蛇口(お湯) B 蛇口(水)
録音地 ………… 都内銭湯
A 混んできたねえ
B おう、そうだな
A 寒い日が続くから、暖まってほしいね
B 俺さ、つくづく思うんだけど
A 突然どうしたの
B 男湯つまんねえよ
A そう?
B 女湯に代えてもらえないかな
A 今さらダメだよ。埋め込まれてるんだから
B それはわかってるけどさ
A 女湯に行っても、おばちゃんばっかりだって
B そうか
A もうなんか、すごいらしいよ
B すごいって?
A まあ、見ても楽しくない体がいっぱいで
B ふうん。あ、おい
A 何?
B ひねられてるぞ
A あ。この人、僕からひねっていいのかなあ
B たぶん、水と間違えてんだろ
A やけどするね
B 熱くて叫んでるぞ
A うん
B おまえの赤い印が消えかけてるのが原因だな
A そうだね
B おい、もうちょっとお湯出せよ
A あれ? 力を弱めすぎたかな
B こら、出しすぎだ
A しまった
B また叫んでるぞ
A ごめんごめん
B 頼むよ。コンビネーションなんだから
A ちょっと調子悪くって
B 俺も一緒に怒られるだろ
A 少し考え事してたから
B どうかしたのか
A あのさ、あのおじいちゃん最近来ないよね
B ああ、あの三島のじじいか
A 体の具合でも悪いのかな
B 風呂の入りすぎじゃないか
A そう?
B いつも「極楽極楽」って言ってたから、いよいよ死んだかも
A ところで、誰が言い出したんだろうね。極楽って
B 謎だな
A うん
B ケロリンの洗面器も、かなり謎だが
A 風呂と頭痛薬って関係あるのかな
B たぶんないね。風呂と富士山だってあまり関係ないだろ
A あと、コーヒー牛乳ね
B それはおいしいから別にいいんじゃないか
A あ、噂したら来たよ。おじいちゃん
B おい、シャワーにされたぞ
A ごめんごめん。うっかりしてた
B おまえはどんくさいなあ。もっと機敏に反応しろよ
A 気をつけるよ。…あ!
B どうした
A 石鹸が!
B 石鹸?
A あそこに落ちてる
B それがどうした
A おじいちゃんが危ない
B 踏んで転ぶって? 大丈夫だよ
A だめだよ。あの歩幅だと、ちょうど踏むよ
B 1、2、3…。ほんとだ
A 僕たちでがんばって、あの石鹸を流そう
B 水の勢いで? 無理だって。やめとけ
A だって、おじいちゃんが
B ほっとけよ
A いいよ。もう頼まない。僕一人でもなんとかするから
B おい、やめろって
A 流れろ流れろ
B おまえはお湯なんだから、まずいって
A 流れろ流れろ
B おい、シャワーがいきなり熱くなって叫んでるぞ
A 流れろ流れろ
B しょうがない、俺も手伝うよ
A もう少しだ
B どうだい
A よし、うまくいった
B じじいは助かったけど…
A ん?
B 頭から熱湯かぶったこの男がもがいてるぞ
A あ
B どうする?
A うなじが赤いね
B おまえのせいだろうが
A 緊急事態だったから
B 水の出番だな
A ごめんね
B 自分が温度の調節を失敗したと思ってるんだろうな
A 悪いことしたなあ
B あ、俺たちに懲りて隣に移った
A 今度は間違えないようにしてほしいね
B よし、ちゃんと水をセレクトしたようだ
A あ
B あ
A いきなりシャワーが…
B 頭から水かぶって叫んでるぞ
A 何かこの人にも原因があるような気がしてきた(以下無音)
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発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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