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 当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


 A マンガ  B 国語辞典

 録音地 ………… 都内書店


A  また立ち読みだ
B  そうだね
A  まったく、いつもいつも
B  ねえ
A  ん?
B  立ち読みされるってどんな感じ?
A  されたことないの
B  ないね
A  ああ、重いもんな
B  辞典だからね
A  どんな感じといわれてもなあ
B  そこをなんとか
A  こう、ふわっと持ち上げられて
B  ふむふむ
A  それだけ
B  それだけ?
A  うん
B  本当にそれだけ?
A  しつこいな。本当にそれだけだよ
B  何か隠してるんじゃないの
A  嘘だと思ったら立ち読みされてみなよ
B  それができないから頼んでるんじゃないか
A  気持ちはわかるけど
B  国語辞典立ち読みする人、なかなかいないぞ
A  そうだろうね
B  君とは書いてあることが違いすぎる
A  ヒーローが活躍したりしないの
B  ヒーローの意味は書いてあるけど
A  あ、そう
B  勇者。英雄。また、作品中の男の主人公のこと
A  読まなくていいよ。わかってるから
B  君のはどんなマンガなの
A  主人公は女性なんだけど
B  へえ。それで
A  それでまあ、恋に落ちたり
B  ほう
A  落ちなかったり
B  恋ばっかりか
A  少女マンガだもん。しょうがないだろ
B  なんかこう、すごい展開はないの
A  すごい展開ねえ
B  舞台はどこ?
A  学園だよ
B  共学?
A  いや、女子校
B  高校生?
A  いや、中学生だ
B  それでもう恋に落ちてんのかよ
A  最近は早熟なんだよ
B  それに中学で女子校って
A  いいだろ、マンガなんだから
B  で、先生と禁断の恋に落ちたりするの
A  落ちないよ
B  何だよ、落ちればいいのに
A  えらくドラマティックな方へ話を持って行くなあ
B  辞典だからさ、そういうのに憧れるわけよ
A  ああ、なるほど
B  意外性とは正反対の本だからね
A  そりゃそうだ
B  例えばヒーローの欄に「疲労とは無関係」とか書いてみたいけど
A  見た人、怒るかも
B  なあ、どんな話か教えてよ
A  主人公は転校してきたらしい
B  うんうん
A  そしたらそこのクラスはもう、血みどろの争いが繰り広げられていたんだ
B  何だ、すごい展開あるんじゃん
A  掃除当番とか誰もやらなくて
B  まあ、あまりやりたいことじゃないな
A  しまいに学校はゴミで埋まるわけ
B  そんなに?
A  もちろん近所の人も捨てに来たりして
B  もちろんって
A  そして主人公がついに立ち上がった!
B  もっと早く立ち上がったらいいのに
A  …という物語だ
B  ちっとも恋に落ちてないじゃないか
A  その合間合間にちゃんと落ちてるの
B  そこからどうなるんだよ
A  それはわからない
B  どうして
A  だって僕、7巻だもん
B  途中か
A  僕も気になってるんだけどね
B  そうだね
A  週刊で出てるマンガの方に聞いてくれ
B  ねえ。それ、人気あるの?
A  7巻まで続いてるってことは、それなりにあったんじゃないの
B  何かピントのぼやけたストーリーだなあ。悪いけど
A  人気マンガをむりやり続けちゃったみたい
B  ああ、なるほど
A  6巻まではすごく面白いらしいよ
B  あ、そうなの
A  だって売れ行きが全然違うもん
B  だから立ち読みが多いのか
A  実はそうなんだ
B  その6巻まではどういう話なの
A  主人公は女力士なんだって
B  まるっきり違う話じゃん(以下無音)




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 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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