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　当編集部と提携関係にある（有）橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


　Ａ　ホッチキス　　Ｂ　クリップ

　録音地　…………　都内事務所

Ａ　　やっぱり、その方がお互いのためだ
Ｂ　　そうだよね
Ａ　　僕だって限界があるし
Ｂ　　しっかり役割分担しようよ
Ａ　　そうしよう
Ｂ　　何枚ぐらいならいける？
Ａ　　そうだなあ、正確にはわからないけど
Ｂ　　だいたいでいいよ
Ａ　　20枚ぐらいまでなら
Ｂ　　うん、妥当な線だね
Ａ　　もちろん問題は、使う方が判断を間違えないかってことだな
Ｂ　　ああ、そうだね
Ａ　　あまりぶ厚い資料に打ち込まれると困る
Ｂ　　そういう時は助けを呼んで
Ａ　　でもいいよな、君たちは
Ｂ　　そう？
Ａ　　だって、取りはずす時にも嫌がられないし
Ｂ　　資料の再コピーって、多いからな
Ａ　　僕なんか、面倒くさいと思われてさ
Ｂ　　まあ、そう言うなよ
Ａ　　あの瞬間は落ち込むね
Ｂ　　そうかい
Ａ　　いったい自分は、今まで何のためにがんばっていたのか…
Ｂ　　そこまで落ち込むの
Ａ　　楽にはずせてうらやましいよ
Ｂ　　ま、まあね
Ａ　　紙も傷めないし、針もムダにならない
Ｂ　　でも、小さいクリップには悩みがあるみたいだよ
Ａ　　あるの
Ｂ　　はずされて放っておかれると、危ないらしい
Ａ　　どうして
Ｂ　　いろんなところに紛れこんじゃって
Ａ　　そういうことか
Ｂ　　机の後ろに落ちたって、わざわざ誰も拾わないし
Ａ　　まあ、そうだな
Ｂ　　仲間が多すぎて、あまり大事にされてない
Ａ　　それも寂しいな
Ｂ　　会社のいろいろな所で置き去りにされてるしね
Ａ　　ああ、使ってない机の中とか
Ｂ　　ただつながれたり
Ａ　　つながれる？
Ｂ　　こう、数珠つなぎに
Ａ　　言われてみれば、たまにそうなってるな。あれは好きでやってるんじゃないのか
Ｂ　　ううん、全然。だって使われにくいじゃん
Ａ　　つまり誰かのひまつぶしの犠牲か
Ｂ　　あ、仕事だよ
Ａ　　何枚ぐらいの資料だ？
Ｂ　　10枚そこそこだろう
Ａ　　それなら問題ないな
Ｂ　　いったい何の資料だい
Ａ　　よく見えなかったけど
Ｂ　　何のためにがんばったのか、と言やあさ
Ａ　　ん？
Ｂ　　どうでもいい資料ってたまにない？
Ａ　　ああ、あるある
Ｂ　　僕、そういうのに使われると落ち込むなあ
Ａ　　ははあ
Ｂ　　自分は何やってるんだろうって
Ａ　　会議で余った資料もいやだよな
Ｂ　　ムダ働きだね
Ａ　　今まで束ねた中で、一番どうでもいいものって何だ？
Ｂ　　僕はそうだなあ、資料じゃないけど課長の領収書かな
Ａ　　人によっては大事じゃん
Ｂ　　それがさ、どう考えても経費で落とせないやつばっかり
Ａ　　へえ
Ｂ　　あの人、なかなか捨てないんだよ。そういうの
Ａ　　意味ないなあ
Ｂ　　あ、また仕事だよ
Ａ　　何枚ぐらいの資料だ？
Ｂ　　少し多いように見える
Ａ　　え
Ｂ　　やばい、下手すりゃ40枚あるぞ
Ａ　　クリップにしてくれよ
Ｂ　　いや、もちろんそうしてあげたいけど
Ａ　　どうした
Ｂ　　そっちに手が伸びた
Ａ　　うわ、これは厚すぎる
Ｂ　　大丈夫か
Ａ　　ア、アゴが
Ｂ　　まだ諦めないみたい
Ａ　　いててててて
Ｂ　　ここに大きいクリップあるのになあ
Ａ　　もっとアピールしてくれ
Ｂ　　してるよ
Ａ　　このままではアゴが砕ける
Ｂ　　まだ諦めないみたい
Ａ　　いてててててててててってっててて
Ｂ　　ここに大きいクリップあるのになあ
Ａ　　もっとアピールしてくれ
Ｂ　　してるよ
Ａ　　このままではアゴが砕ける
Ｂ　　まだ諦めないみたい
Ａ　　いてててててててててってっててってててててててて
Ｂ　　ここに大きいクリップあるのになあ
Ａ　　おまえ、この状況を楽しんでるだろ
Ｂ　　わかる？
Ａ　　わかるよ
Ｂ　　いや、どうしても止められなくって（以下無音）

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