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 当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。


 A しょうゆ  B ソース

 録音地 ………… 郊外団地


A  今年も終わりか
B  そうだな
A  しかし何だね、1年はあっという間だね
B  ああ
A  どうしたの。気分でも悪いの
B  悪いのは気分じゃなくて、機嫌だよ
A  えらく怒ってるなあ
B  おまえはいいよな。いろいろ使い道があってさ
A  え、僕に怒ってるの?
B  そうだよ
A  僕、何かした?
B  一年中、隣にいるんだから気がつけよ
A  何だろう
B  いろいろ使い道があっていいな、って言ってんの
A  ああ、そういうこと
B  あ〜あ、揚げ物やってくれないかな
A  最近、食卓に並ばないね
B  ちょっと前、ご主人が体脂肪率の話してたろ?
A  ああ
B  あれからだよ。ここの奥さんが揚げ物作らなくなったの
A  そうか
B  おかげで俺は職なしだ
A  そんなにいじけないでよ
B  おまえは昨日も刺身に使われたもんな
A  ま、まあね
B  一昨日は納豆にちょっと垂らされて
A  そんなこと言ったってさ、味が違うんだからしょうがないでしょ
B  いいじゃないか、ソースでも
A  え?
B  たまにはソースで刺身食えよ
A  気持ち悪いよ
B  じゃあ餃子にラー油とソースだ
A  それも気持ち悪い
B  じゃあコーヒーにミルクとソース
A  それ、もともとしょうゆ使わないよ
B  俺が不満なのはね、少し味が薄いとするだろ
A  うん
B  そういう時さ、どうしていつもおまえが使われるんだ?
A  そりゃ、日本人の味覚に合ってるからだろ
B  とにかく不満だよ
A  ま、まあ元気出しなよ。ソースって、確か10円玉とか、きれいにできるんじゃなかった?
B  めしと関係ないだろ
A  …あのさあ、冷たいこと言うようだけど
B  なんだ
A  しょせん、ソースはイギリス生まれってことじゃないか?
B  何? 喧嘩売ってんのか
A  日本人としょうゆの歴史は古いんだぜ
B  俺だってな、西洋料理においてはおまえに負けないぞ
A  使われるの、とんかつの時ぐらいじゃん
B  う!
A  あと、目玉焼き
B  海老フライだってあるぞ
A  ここのご主人、タルタルソース好きだからな
B  あいつはソースじゃない
A  お好み焼きの時は、専用のソースを使うし
B  く…
A  そのうち、とんかつ用のソースも買ってくると思うよ
B  もう、やめた!
A  え?
B  俺、ソースやめる
A  やめてどうするの
B  もっと大きな男になって帰ってくる
A  それじゃ、ただのお徳用ソースじゃん
B  そういう意味じゃない。だいたい、俺は怒ってるんだ
A  何に
B  この間の事件だよ
A  事件?
B  ここの主人が、おまえと間違えて俺を手に取って
A  ああ、思い出した
B  あろうことか、冷や奴にかけたよな
A  かけたね。思いっきり
B  一口食べたあとのセリフ、覚えてるか?
A  「うわ!」だっけ
B  そのあとだ。「まずい! ソースじゃねえか!」って
A  ああ、そうだそうだ
B  自分で間違えといて、いい迷惑だ。俺は立ってただけなのに
A  まあ、そうだよね
B  出番なしと思ってのんびりしてたら、いきなりまずい呼ばわりだぞ
A  でも…
B  何だ
A  僕たちにも少し責任あるよ
B  どういうこと
A  だってさ、味はともかく、さすがにちょっと色とか似てると思わない?
B  …まあ、それはそうだな
A  容器の頭にでっかく名前書かれるの、もういやだよ
B  恥ずかしいよな…。よし。おまえ、白くなれ
A  え!
B  どうだ。できるか
A  白いしょうゆなんて、食欲出ないよ。嫌われるよ
B  じゃあ、緑
A  それもちょっと
A  じゃあ、赤
B  タバスコとぶつかるじゃん
B  文句多いな
A  いっそのこと、そっちが粉末になったら?
B  あれはカップやきそばの時だけだ
A  じゃあ、タブレット状に
B  俺はポリデントか(以下無音)




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 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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