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当編集部と提携関係にある(有)橿原工務店がこの度、電熱を用いて無機物同士の会話を録音する、珍なる機器を発明した。その内容の一部をここに掲載する。
A 1号機エレベーター B 2号機エレベーター
録音地 ………… 都内デパート
A おい。呼んでるぞ。おい、聞いてんのか?
B 何よ
A 10階で呼んでるぞ
B 誰が
A 誰って…。知らないよ
B あなた行ってきて
A おまえ、今どこにいるんだ
B 8階よ
A じゃあ、おまえの方が近いじゃないか。俺、4階なんだから
B ちょっと今、忙しいの
A 客を運ぶ以外に仕事ないだろ
B うるさいわね。「開」ボタン、ずっと押されてて動けないの
A ああそうか…。じゃ、仕方ないな
B 人を待ってるらしいんだけど。まったく迷惑だわ
A いいよ、俺が行く。…あれ? 誰もいない!
B 引き返したみたいね
A 勝手に予定変えるなよ…。一回押したら乗ってほしいよ
B ようやく乗ってきた。じゃ、1階まで行ってきます
A おう。あ、こら!
B 何ですか
A 今、7階に降りる人いただろ
B ええ
A ええって…。そいつ乗せて降りればいいだろ
B いやよ。1階下でまた止まるなんて、面倒くさいもん
A まあ、そうだけど
B あなた今、10階にいるんだから降ろしてあげてよ
A わかったわかった…。7階ね。はいはい
B はい、1階に着きました。あら、すごい人だかり
A おまえがもたもたしてるから、みんなしびれ切らしてんだよ
B こんなに多くの人、重くてとても無理ね
A あ、おい!
B 何ですか
A 閉めちゃだめだろ!
B 乗せたくないわ
A え〜
B こっちにも乗せる権利があります
A そうか?
B いやなものはいやなの
A しょうがないなあ。俺、1階に行くから乗せてくるよ
B あ〜あ、退屈
A じゃあ仕事しろ
B お願いね
A はいはい皆様、お待たせしました。おお、こりゃ楽だ。みんな12階の屋上レストラン行きだ
B お昼時だから
A お、1階に子供が一人。あれなら軽いだろ。乗せてやれ
B しょうがないわね
A はい、12階着きました
B この子も12階よ
A あ、そう
B はい、着きました…。あらいやだ!
A どうした?
B この子、全部の階のボタン押したわ
A いたずらか
B こういう子には、今までにない恐怖を味あわせてあげましょう
A まさか
B はい。閉じこめます
A え〜
B あ、焦ってる焦ってる
A どっちもどっちだ
B これぐらいやらないと、わからないのよ
A 泣き出したぞ
B 馬鹿ね〜。非常ボタンあるのに
A 子供には無理だろう
B ま、もちろん押してもベルは鳴らしませんけどね
A おまえは悪魔か
B お漏らしされても困るから、これぐらいで勘弁してあげるわ。はいどうぞ、12階よ
A まったくもう…
B なんてね。ここで勢いよく閉めます
A おい! グエッって言ったぞ、グエッって!
B 大丈夫よ。若いんだから
A そういう問題か
B 12階も人が多いわねえ
A この団体、おまえに任せたぞ。俺は9階に行ってくる
B いやよ
A どうして?
B だって、餃子の臭いがすごいもの。そんな人は乗せません。まったく、何回言ったらわかるのかしら
A どうやって伝えてんだよ
B エチケットの問題よ。あなた行ってきて
A いいけどさあ…。う〜ん、これは確かに臭いけど
B でしょ? 乗せなくてよかった
A あのなあ
B あ、5階に私好みの人! 行ってきます!
A そいつ、別にボタン押してないだろ
B そんなの関係ないわ
A あるよ
B どうしたのよ? あなた、今日は怒ってばっかり
A すべておまえが原因だろ?
B …ちょっとあなた
A はい
B 今日という今日は、話があります
A 何だよ
B ちゃんと向き合って話しましょうよ
A エレベーターなんだから。前向いてないと、客が乗れないだろ
B ずっと思ってたのよ。私のことなんて、もう嫌いなんでしょ?
A どうしてそんなこと言うんだ?
B だって、あなたいつでも私から離れたがるし
A あのな、エレベーターなんだから。同じ階にいると客から文句言われるだろ
B いつもお互い平行線ね
A 交わってたら衝突するだろ(以下無音)
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発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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