別冊


 喧噪の中に人々が埋もれる街、東京。この街で自分を守ることができるのは、誰あろう自分しかいないのだ。このコーナーでは、そんな大都会に潜む様々な罠を紹介していこうと思う。



 おかわりトラップ

 とんかつ屋に入って、「ご飯はおかわりできます」と言われることは多かろう。ばくばく食べておかわりをもらうと、なんと一杯目よりご飯が多いではないか。
 これが俗に言う、おかわりトラップである。
 一杯目の量を予測していた胃袋にとっては、この微妙な差が思わぬ負担になる。
 それより何より恐ろしいのは、おかわりした手前ご飯を残せない、という心理的負担だ。
 おかわりしたくせに残してもったいない、という店員たちの視線を浴びることは間違いない。それなら一杯目から多めによそえよ、と思ってみても後の祭りである。
 この罠から身を守るには、まずおかわりしないことである。
 どうしてもしたいときは、勇気を持って「半分ぐらいで」と言おう。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…とんかつ屋など
 ■難易度…★★★
 ■対応策…おかわりしない、または「半分ぐらいで」と言う



 ボタンパニック

 仕事やプライベートで、エレベーターを利用することは多かろう。なかなか来ないエレベーターに業を煮やし、やっと乗り込んで行き先の階を押そうとすると、なんとボタンがないではないか。
 これが悪名高い、ボタンパニックである。
 そう、ボタンは、自分が乗ったほうとは逆の側にあったのだ。
 最近の大きなビルのエレベーターは、両側にあるので安心だ。だが、この罠に陥ったときの対応はかなりの熟練を要する。
 ついつい独り言で「あ、こっちか」などというのだけは、避けねばなるまい。
 この罠から身を守るには、まず勘を養うことである。もし違う側のほうに乗っても、あくまでも落ちついて対応すること。自ずと道は開かれん。
 エレベーターの罠としてはこの他に、大勢で乗り合わせて、知らないうちにボタンの前に立ち、自分がみんなのために「開」のボタンを押し続ける『突然デパートガール』もある。気をつけられい。

 ■罠の多い場所…中規模、小規模のエレベーター
 ■難易度…★★
 ■対応策…勘を養う



 コピーショック

 主に仕事で、コピーを利用することは多かろう。なにげなくそのままスタートボタンを押すと、なんと出来上がりのサイズが違うではないか。
 これがいわゆる、コピーショックである。
 そう、前に使っていた人がサイズを指定していたのだ。
 特に、最近の大きなコピー機において注意が必要だ。紙の大きさなど、機械が読みとるだろうという油断がここにある。 前に使っていた人間の忠実なしもべであるコピー機は、その指示を守り続けるあまり、こともあろうに自分への裏切り行為に出るのだ。
 さらに枚数が指定されていたときなど、一枚でいいコピーを十枚も獲得する羽目になる。これは危険だ。
 この罠から身を守るには、いっそ書き写すことである。自ずと道は開かれん。
 コピーの罠としてはこの他に、自分は壊してないのに紙詰まりに遭遇し、気をつかって直していると次の人に「早くしてよ」という顔をされてしまう『突然メンテナンスボーイ』もある。気をつけられい。

 ■罠の多い場所…大きなコピー機
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…いっそ書き写す



 デビルズロープ

 ふと気がつくと、自分の衣服から一本の糸が飛び出していることがあるだろう。あれみっともない、と引っ張ると、切れるどころかどんどん出てくるではないか。
 これが危険度の高い、デビルズロープである。
 見た目のか弱さからは予想もつかない強度で、私たちを困らせる。ボタン部分などはまだいいが、人目につく場所は注意が必要だ。
 さらに糸を出してしまった分だけ、服のどこかが縮んでいたりする。かなり最悪だ。
 この罠から身を守るには、はさみがあれば使うことである。
 はさみがなければ、気合いを込めて実行すること。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…自分自身
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…はさみがあれば使う



 あきらめストッパー

 駅の改札を抜けたあたりで、ホームに電車が到着することがあるだろう。急いで階段を駆け上がると、前にいた人たちが間に合わないと判断して、すでに歩いてしまっているではないか。
 これが悔やみきれない、あきらめストッパーである。
 あのペースなら俺は間にあったはずなのに、という思いがよけいに悔しさをつのらせる。
 おばあさんならしょうがないが、女子高生だったりすると怒りも倍増だ。もっとがんばって走れよ、と説教したくなる。困った問題だ。
 しかも強行突破して、電車に乗れなければ笑われてしまう。どうすればいいのだ。
 この罠から身を守るには、消極的だが、もう走らないことである。
 強行突破は得策ではないが、したならしたで意地でも電車に乗り込むこと。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…ホームへの上り階段
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…もう走らない



 アップダウンチョイス

 公衆の場の洗面所で、ひねるタイプでない、レバーを上下するタイプの蛇口に出くわすことがあるだろう。ところが使用したあと、どちらに動かせば水が止まるかわからなくなってしまったではないか。
 これが腹立たしい、アップダウンチョイスである。
 一瞬考えるが、思い出せない。間違えてしまおうものなら、強烈な水流があなたのスーツを、ジーンズを襲うのだ。
 とにかくこれは、統一されていないことが問題だ。
 この罠から身を守るには、水を出しっぱなしにすることである。それはそれで、なかなか勇気がいる。自ずと道は開かれん。
 蛇口の罠としてはこの他に、自動の蛇口に手をかざしてもいっこうに反応してくれない『突然パントマイム修行中』がある。気をつけられい。

 ■罠の多い場所…ビルなどの洗面所
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…水を出しっぱなしにする



 ローリングパッケージ

 新製品を購入し、はやる気持ちで封を開けようとしたときに、どこからあけるか見つからないことがあるだろう。気がつくとその物体を、そのためとはいえ何回転もくるくる回しているではないか。
 これがいらだたしい、ローリングパッケージである。
 特にCDのパッケージは強敵である。あのセロハンのラインのスタート地点は見つけにくい。聴いてほしいのか聴いてほしくないのか、わからないぐらいだ。
 さらに困るのは、ビデオテープのパッケージ。
 開封口はCDよりも見つけやすいが、パッケージの張り方がピチピチなので、セロハンを引っ張ってすぐちぎれるなど、一度失敗したらもう大変。中身を取り出すためには、爪が削れるまでの努力を要する。
 この罠から身を守るには、人に頼むことである。それはそれで、申し訳ない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…新製品の購入後
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…人に頼む



 おしぼりラナウェイ

 ファミリーレストランなどで、おしぼりを出されることはよくあるだろう。しかし手をふいたあと、さも当たり前のようにウェイトレスが持ち去っていくではないか。
 これがなんともやるせない、おしぼりラナウェイである。
 紙ナプキンなら、まだあきらめもつく。だが、タオル地のおしぼりの喪失は、かなりの戦力ダウンである。
 この先、どういう事態が発生するかわからない。ドレッシングがこぼれ、アイスティがこぼれ、和定食のみそ汁がこぼれるという、セカンドインパクト並みの惨劇だって起こり得るにもかかわらず、おしぼりは回収される。これは危険だ。
 この罠から身を守るには、手をふき続けることである。首でもよい。それはそれで、恥ずかしい。自ずと道は開かれん。ちなみに、おしぼりが出ないレストランは店そのものが罠である。

 ■罠の多い場所…ファミリーレストランなど
 ■難易度…★★★
 ■対応策…手、または首をふき続ける



 バッドバッグ・リアクション

 持っていた手提げ袋を、下に置こうとすることはよくあるだろう。ところが壁に立てかけてみると、何度やっても手前に倒れてくるではないか。
 これが神経を逆撫でする、バッドバッグ・リアクションである。
 簡単なことなのに、うまくいかない。しつこいぐらいに挑戦しても、必ず倒れてくるのだ。
 この場合、ビニールの袋より紙の手提げ袋において、その被害は顕著である。折り目がついていることによる柔軟性のなさが、裏目に出るのだ。これは大変だ。
 この罠から身を守るには、逆の面を背にして立てかけることである。それはそれで、致し方ない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…手提げ袋を置くとき
 ■難易度…★★★
 ■対応策…逆の面を背にして立てかける



 オーデコロンミサイル

 街を歩いていて、麗しい女性とすれ違うことはよくあるだろう。何気なく歩いていくとすれ違いざまに、とてつもない匂いが襲ってくるではないか。
 これが体力を消耗する、オーデコロンミサイルである。
 明らかに、つけすぎだ。なんとかしてほしい。
 自分の匂いは、確かに自分では気がつきにくい。それはわかるが、他人も忠告しにくい。
 実は女性に限ったことではない。男性用の化粧品もなかなか強敵だ。さらにおばあちゃんの匂いも、独特のものがある。
 この罠から身を守るには、子供とだけすれ違うことである。それはそれで、歩きにくい。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…人とすれ違うとき
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…子供とだけすれ違う



 テーブル戦国時代

 レストランに入って、食事を注文することはよくあるだろう。旺盛な食欲に身を任せてどんどん頼んだのはいいが、次々に出てくる皿が、テーブルの上に乗り切らないではないか。
 これが路頭に迷う、テーブル戦国時代である。
 食欲は恐ろしい。冷静な判断を、容赦なく妨げてしまう。これぐらいなら食べられるかな、ということは考えても、この料理の量がすべてテーブルに納まるか、ということにはなかなか頭が回らないのだ。もともと皿の数が多い中華料理など、取り皿も加わって群雄割拠の様相を呈する。
 これはもちろん、「皿が丸い」ことにも原因がある。
 この罠から身を守るには、四角い皿を使っている店に行くことである。それはそれで、あまりない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…レストランなど
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…四角い皿を使っている店に行く



 ちょっと一言シンドローム

 電車などで、他人の会話を聞くともなく聞いてしまうことはよくあるだろう。その話題の中で「あ、あれ何だっけ」と悩んでいる彼らを尻目に、自分はなんと、その疑問の答えを知っているではないか。
 これが胸かきむしられる、ちょっと一言シンドロームである。
 口を出したいのはやまやまだが、変な人扱いされるのは目に見えている。自分が彼らと少しでも知り合いなら、簡単に助言できるものを。まったく残念だ。
 さらに間違った結論で「そうそう」と納得でもしていようものなら、また一段と不快である。どうすればよいのか。
 この罠から身を守るには、とっさに気をそらして国際情勢でも考えることである。それはそれで、どうだろう。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…電車内など
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…とっさに気をそらして国際情勢でも考える



 レジ・スクランブル

 喫茶店などで、注文の品を飲み終わって代金を払うため、レジに向かうことはよくあるだろう。自分にとっていいタイミングで席を立ったはいいが、何と他の客がすでにレジの前にいるではないか。
 これが頭から湯気の出る、レジ・スクランブルである。
 そう、その客は偶然、自分とほとんど同じタイミングで席を立ったのだ。
 それも自分よりほんの少し早く、である。出鼻をくじかれて、いらいらすることおびただしい。 席に戻ろうとしてもなかなか難しい。すでにそのテーブルに飲み物はなく、ともすればもうグラスもなかったりする。
 この罠から身を守るには、他の客の飲み物の量を、逐一チェックして把握することである。それはそれで、休憩の意味がない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…喫茶店など
 ■難易度…★★★
 ■対応策…他の客の飲み物の量を、逐一チェックして把握する



 うっかりつまようじ

 コンビニなどで、弁当を買うことはよくあるだろう。家に帰って食べようとわりばしの袋を開けると、中に入っているつまようじが飛び出て、下へ落ちてしまったではないか。
 これが何度も繰り返される、うっかりつまようじである。
 食べる前に食後のケアなど、思いもよらない。落ちてようやく「ああ、この中にはつまようじが入っていたなあ」と思い出すのである。
 若い世代には、特につまようじを使う習慣がないかもしれない。が、このあとの食事で奥歯にカスがはさまる可能性は、誰にでもあるのだ。
 この罠から身を守るには、噛まずに食事することである。それはそれで、のどにつまる。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…自宅など
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…噛まずに食事する



 ストロー・ストレッチ

 やや小さめの紙パックの飲み物を買うと、たいてい伸縮式のストローが付いていると思う。飲みはじめてしばらくして、最後まで飲みきろうと底にストローを強く当てると、そのストローが短くなって紙パックの中に入ってしまったではないか。
 これが夜な夜なうなされる、ストロー・ストレッチである。
 まさかこんな形で裏切られようとは、と愕然とする。このあと、残った中身を飲みきるには一体どうすればよいのだろうか。
 申し訳ないが、特に某Y社の「毎日骨太」シリーズにおいて、その被害は顕著である。
 この罠から身を守るには、もう一本買ってそっちのストローを使うことである。それはそれで、違和感がある。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…自宅など
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…もう一本買ってそっちのストローを使う



 地図に流れる見えない川

 例えば東京23区の地図を見て、目的地を探すことがあるだろう。しかし、やっと見つけたその目的地が、ページをまたいだ非常に見にくい位置にあるではないか。
 これがうんざりさせられる、地図に流れる見えない川である。
 広いエリアを扱った地図が、いくつものページにわたって記載されているのは致し方ない。とは言うものの、何度も重なると腹が立ってくる。そんなところに行く自分が悪いのか。
 東西にずれているときは、次のページを見ればいいので被害は少ない。だいたいの地図はエリアを分割したブロックに、横へ横へと番号をつけていくからだ。
 困るのは、南北にずれているときである。遠く離れた2つの見開きページを行ったり来たりで、腕が疲れる。
 この罠から身を守るには、もうそこには行かないことである。そこがたとえ、生き別れになった父の家でも。それはそれで、意地の張りすぎ。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…地図を見るとき
 ■難易度…★★★
 ■対応策…もうそこには行かない



 目次ジプシー

 見出しにひかれて雑誌を購入することは、よくあるだろう。しかし、お目当ての記事がどこに載ってるか見つからないばかりか、それを探すための目次が見つからないではないか。
 これが絶望の淵に立たされる、目次ジプシーである。
 お目当ての記事が、常にトップ項目とは限らない。
 雑誌によって、その目次が書かれているページはまちまちである。表紙をめくってすぐに書いてあったり、最後のページに書いてあったり、カラー・白黒グラビアが終わった次のページに書いてあったりするのだ。
 文藝春秋などは、折り畳まれたページの内側に書いてある。毎号読んでいれば常識かもしれないが、知らない者にとってはかなりのハードルだ。
 これはやっぱり統一するか、表紙に目次のありかを記載するべきだ。
 この罠から身を守るには、覚悟を決めて頭から全部読むことである。それはそれで、次の号が出てしまう。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…雑誌を見るとき
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…頭から全部読む



 ふたミステリーツアー

 ふたやキャップが付いている物を、利用することはよくあるだろう。しかし、使ったあと元に戻そうとすると、そのふたがどこにも見当たらないではないか。
 これがむなしさ漂う、ふたミステリーツアーである。
 ふたのないドレッシングやソースは、あまりに危険度が高い。
 だいたい調味料ほど、こぼして困るものもない。口に入れることもできる安全なものなのに、こぼしたときの被害の大きさは、その落差も手伝って想像以上である。
 さらにサインペンなどは、ペン先が渇く前にふたを見つけないと、ペンは生死の境をさまようことになる。そして我々はふたを探して、部屋中あてのない旅に出るのである。
 この罠から身を守るには、ふたを取ったら口にくわえることである。それはそれで、しゃべれない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…ふたを取ったあと
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…ふたを取ったら口にくわえる



 値札ダブルガード

 買ったばかりの品物に、値札が付いていることはよくあるだろう。しかし、その値札をはがしてみると、薄くめくれて途中で切れてしまうではないか。
 これが嘆かわしい、値札ダブルガードである。
 端からめくってはみるものの、あの薄い値札がいつの間にか、表面部と粘着部とに別れてしまう。驚きの分裂だ。
 プラスチックなど、表面がつるつるの商品ならばまだいい。時間をかければかけるほど、少しずつ効果が現れる。
 が、紙に張り付いている値札は商品の方を巻き込んではがれてしまったりする。大切なものだと、がっくりすること甚だしい。これは危険だ。
 この罠から身を守るには、爪をほどよく伸ばしておくことである。それはそれで、テクニックの問題が残る。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…新製品の購入後
 ■難易度…★★★
 ■対応策…爪をほどよく伸ばしておく



 ボタン売れ残り

 着替えの時、ボタンが付いているシャツを着ることはよくあるだろう。だが、上から順に掛けていたつもりのボタンが、最後になぜか一つ余るではないか。
 これが狂おしい、ボタン売れ残りである。
 知らないうちに穴を一つ間違えていたのは、紛れもない事実である。さすがに二つずれることはないと思われるが、被害は跡を絶たない。
 だがここでさらに問題なのは、そういうときに限って、より首に近い方のボタンを掛け間違えていたりする。また全部はずして掛ける、この時間のロスは人生において何の意味も持たない。つまり、最悪だ。
 この罠から身を守るには、もうファッションと割り切って出かけてしまうことである。それはそれで、友達は減る。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…着替えの時
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…ファッションと割り切って出かけてしまう



 ドリンク肩すかし

 仕事やプライベートでも、コーヒーなどを飲むことはよくあるだろう。だが、まだあると思って容器を持ち上げると、すでに飲み干していたではないか。
 これが痛々しい、ドリンク肩すかしである。
 容器を持ち上げて口元まで持ってくる間に、ああ、そういえばさっき全部飲んだなあと気づくのだ。何となく恥ずかしいので、一応ちょっと口を付けて飲んだふりをし、もう一度テーブルに戻してみたりしてはいないか。
 その容器の異常な軽さに、悔やんでももう遅い。外側から中身が見えない器において、この被害は顕著である。
 この罠から身を守るには、器を頭の上まで持ち上げ「ああ、××社製か」などと言ってみることである。それはそれで、みっともない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…コーヒーなどを紙コップで飲む時
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…器を頭の上まで持ち上げ「ああ、××社製か」などと言ってみる



 エスカレーターチョイス

 デパートなどへ行ってフロアを見て回ったあと、エスカレーターに乗ることはよくあるだろう。だが自分が下りたいと思うと、なぜか上りのエスカレーターにたどり着いてしまうではないか。
 これがため息の出る、エスカレーターチョイスである。
 もちろん、上ろうとするときは下りのエスカレーターにたどり着く。
 上り続けたり、下り続けたりするときはよい。ところが商品を見ている間に、方向感覚を失ってしまうのだ。
 逆に行くエスカレーターは、だいたい背中合わせに設計されている。こうしてあなたは、すでに見た店内をもう一度半周することになるのである。
 この罠から身を守るには、1階で買い物を済ますことである。それはそれで、きっと困る。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所…デパートなど
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…1階で買い物を済ます



 ブランク・ダメージ

 レストランなどへ行って、メニューを見ることはよくあるだろう。だがオーダーに悩んだ末、このページの裏にも何か料理が書いてあるのかな、と思ってめくると、何も書かれていないではないか。
 これが泣くに泣けない、ブランク・ダメージである。
 ああ、また無駄なアクションをしてしまった、と寂しい気持ちになる。
 店内のメニューすべてを見極めてから注文したい、という人間の密かな欲望を、鼻で笑うようだ。何も書かないなら、お願いだからめくれないようにしておいてほしいものである。
 この罠から身を守るには、その空欄に自分で勝手に「うどん」と書くことである。それはそれで、店員の驚きは並でない。自ずと道は開かれん。ちなみにメニューの罠として、裏を見ると表とまったく同じだった、という『一人神経衰弱』もある。気をつけられい。

 ■罠の多い場所…レストランなど
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…その空欄に自分で勝手に「うどん」と書く



 10円アタック

 駅で切符を買ったり自動販売機でジュースを買う際、小銭がないことはよくあるだろう。だが千円札を入れて購入すると、10円単位のおつりが、すべて10円玉で出てきたではないか。
 これが世にも恐ろしい、10円アタックである。
 どうして機械の中に50円玉が入っていなかったのか、理解に苦しむ。
 その大量の小銭を手際よく取り出すのは、また困難な作業だ。切符売り場の場合、後ろに大勢の人が並んでいたりすると、気持ちも焦って大パニックである。自動販売機の場合は、おおむね取り出し口が狭い。困った話だ。
 それをなんとかクリアすると、今度はサイフの限りない膨張という、非常に不快な状況に遭遇することになる。腹立たしいこと、この上ない。
 この罠から身を守るには、おつりの出ない公衆電話でしか小銭を使わないことである。それはそれで、どうしておつりが出ないか疑問だ。自ずと道は開かれん。ちなみに、同時に『100円アタック』の被害に遭うこともある。気をつけられい。

 ■罠の多い場所…駅など
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…おつりの出ない公衆電話でしか小銭を使わない



 乗り込んだら普通列車

 大きなスーパーで買い物をしてお金を払う際、レジで並ぶことはよくあるだろう。だが自分が並んだ列よりも、隣の列の方が早く進んで行くではないか。
 これが実に理不尽な、乗り込んだら普通列車である。
 数あるレジの中で、どうしてここに並んでしまったのかと自分のセレクトを呪っても、あとの祭りだ。
 かと言って今さら隣の列に移るのは少々恥ずかしいし、下手すればもっと遅れるし、とにかくどうしようもない八方ふさがりである。先に列をなしている人々の手際の悪い動作にいらいらしながら、じっと耐えるより他はない。
 この罠から身を守るには、万引きすることである。それはそれで、捕まる。自ずと道は開かれん。ちなみにこの罠は、駅で切符を買うときにもよく遭遇する。筆者はこれで新幹線に乗り遅れたことがある。勘弁してほしい。

 ■罠の多い場所…スーパーのレジなど
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…万引きする



 カレーパンの前夜祭

 おなかが空いたとき、カレーパンを食べることはよくあるだろう。だが一口食べても、まだカレーが出てこないではないか。
 これが胸にすきま風の入り込む、カレーパンの前夜祭である。
 具の偏りは外見からは想像できない。一瞬、自分が何パンを買ったのかさえ、わからなくなるほどの衝撃である。
 味のないパンを噛みしめながら、「これはカレーライスでいえばライスの部分なんだ」と自分に言い聞かせてみても、何か心に引っかかる。本当はここにカレーがあったはずなのに…。こみ上げてくる悔しさを、私たちは押さえることが出来ない。
 この罠から身を守るには、別にカレーを携帯することである。それはそれで、荷物になる。自ずと道は開かれん。ちなみにこの罠は、あんぱんでも起こりうる。当然といえば、当然だ。

 ■罠の多い時間…カレーパンを食べるとき
 ■難易度…★★★
 ■対応策…別にカレーを携帯する



 ひじの崖崩れ

 物を考えたりボーッとしているとき、頬杖をつくことはよくあるだろう。だがうっかりすると自分のひじが、机からずり落ちてしまったではないか。
 これが背筋も凍る、ひじの崖崩れである。
 世の中にある、すべての机の大きさや表面の滑りやすさを把握することは不可能だ。
 また、そのときの服が長袖か半袖か、長袖ならその生地によって、半袖ならひじの油分によって、その危険性は微妙に異なる。さらに食事による腹部の膨張などによって、自分の姿勢も大きく変化する。
 そして、ひじがずり落ちるだけならまだしも、その衝撃で舌を噛み、肩の骨がはずれ、机で頭を打ち、記憶をなくして生死の境をさまようことも、なくはない。何かあってからでは遅いのだ。今までに起こらなかったことが、これからも起こらないとは限らない。
 この罠から身を守るには、ひじを机に接着しておくことである。それはそれで、動けない。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…ボーッとしているとき
 ■難易度…★★★★
 ■対応策…ひじを机に接着しておく



 電話番号の前後賞

 携帯電話が普及した今でも、自宅の電話や公衆電話を使うことはよくあるだろう。だが10ケタの番号の最後の最後で、プッシュする数字を間違えてしまったではないか。
 これが国も傾く、電話番号の前後賞である。
 少しの油断が悲劇を生む。一つ間違えただけで、頭からかけ直しという非常事態に陥るのだ。
 ボタンを押そうと飛び出した指の勢いは、それを司るはずの自分自身でさえ止めるのは難しい。触れるつもりのない所を思わず触れてしまう。そしてそれまでの作業は全て無駄になる。悲しい出来事だ。
 携帯電話が優れているのは何もどこでも使えることではない。メモリを使ってダイヤルするときはもちろん、この罠に陥ってもクリアボタンで訂正してから、一気にダイヤルできることにあるのだ。
 この罠から身を守るには、主に電報に頼ることである。それはそれで、面倒くさい。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…自宅の電話や公衆電話を使うとき
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…主に電報に頼る



 自動ドアの右パンチ

 外に出掛ければオフィスビルやホテルなどの、自動ドアに出くわすことはよくあるだろう。だがやや離れて前を歩く人が通ったあと、ちょうど自分が通過しようとしたタイミングでドアが閉まってきたではないか。
 これが家庭も崩壊する、自動ドアの右パンチである。
 すぐに開きかけるが、ともすればドアに殴られる。そしてこれが結構恥ずかしい。非常に迷惑だ。ここに自動という盲点がある。人影を判断してから作動するまでに、若干のタイムラグがあるのだ。
 もちろん反対側から通過するときは左パンチになり、両側から来るときはワンツーパンチとなる。
 この罠から身を守るには、閉まっている自動ドアを自分で開けて通るか、前の人にピタリとくっついて通ることである。それはそれで、何事か疑われる。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間…自動ドアを通るとき
 ■難易度…★★★★★
 ■対応策…前の人にピタリとくっついて通る



 ブリッジ・ブルー

 かなり交通量の多い道路を、歩いて渡ることはよくあるだろう。だが渡ろうと思っても目の前に横断歩道はなく、自分の行きたい方向には歩道橋が建っているではないか。
 これが社会を揺るがす、ブリッジ・ブルーである。
 横断歩道を渡るより明らかにカロリーを要する。何とかしてほしい。
 4方向すべてが歩道橋ならば、まだあきらめもつく。ところが腹立たしいことに、その交差点のまさに自分の行きたい方向にだけ歩道橋が建っているという状況にも遭遇する。残りの3方向は横断歩道なのに、どうしてここだけ歩道橋なのか。あまりの怒りに、もう一つ隣の交差点まで歩いてしまいそうになる。
 これは地下道でも同じである。疲れる山登りがあとになるか先になるか以外、特に大きな違いはない。
 この罠から身を守るには、道路の一つや二つまたげるぐらいになることである。それはそれで、育ちすぎ。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間 … 交通量の多い道路を横断するとき
 ■難易度    … ★★★★★
 ■対応策    … 道路の一つや二つまたげるぐらいになる



 肉まんの非常口

 手軽なおやつとして、肉まんを食べることはよくあるだろう。だが下についている紙をめくると、肉まんの皮までめりめり剥がれてくるではないか。
 これが一人立ちつくす、肉まんの非常口である。
 穴が開いたにも関わらず、我を張っていつも通りに食べようものなら、肉汁がこぼれ落ちてくる。穴の大きさによっては、肉そのものまで落ちてくる可能性もある。
 膨らんでいる方をいつも下に向けて食べる人は特に問題ないが、多くの人が膨らみを上に向けて食べたいと思っているはずだ。なぜならそれが、親指と他の指の構造上、自然な形だからである。
 あの紙さえなければ、と悔やまれる。さらに手強いのは竹の皮。ほとんど必ずこの被害に遭うので、覚悟を決めた方がよい。
 この罠から身を守るには、あとのことは考えず、まず丸ごと食べてしまうことである。それはそれで、異物感に耐えがたい。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間 … 肉まんを食べるとき
 ■難易度    … ★★★★★
 ■対応策    … まず丸ごと食べてしまう



 レンゲのアリ地獄

 ラ−メンやうどんなど、つゆの入った丼ものを食べることはよくあるだろう。だがスープを飲むためにもらったレンゲが、丼の端をつたって中に落ちてしまうではないか。
 これが同情の集まる、レンゲのアリ地獄である。
 あ、と思ったときにはもう遅い。優雅なフィギュアスケートの如く、弧を描いてレンゲが落ちていく。
 まずはレンゲを裏向きにして置いておくことが肝心だが、それでも短いレンゲの場合、対抗策になり得ない。どうして中華料理のレンゲはやや短いのか。悩ましいことである。
 落ちたレンゲを親指と人差し指でそっとつまみ出す瞬間、世の中の無情を憂う気持ちがよぎるのは私だけではあるまい。
 この罠から身を守るには、レンゲで食べるしかない。それはそれで、もどかしい。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間 … つゆの入った丼ものを食べるとき
 ■難易度    … ★★★★
 ■対応策    … レンゲで食べる



 映画館でアタック25

 映画館で映画を見ることはよくあるだろう。だが運の悪いことに、前に座っている客の座高が異常に高いではないか。
 これがはかなきこの世を憂う、映画館でアタック25である。
 人の体をどうのこうのと言いたくはない。だがしかし、自分の座高を把握するのは、いまやまっとうな社会人としての義務である。その座高なら一番後ろからでも見えるだろ、という人間が映画館の中央あたりに陣取ったらどうなるか。
 そう、その真後ろに座った人間は映画どころか、ダイヤモンドのコマーシャルまで見逃すことになるのである。そして、前の客が左に傾けば右、右に傾けば左とジグザグフォーメーションを繰り返すうち、映画が終わってしまうのだ。まったくもって腹立たしい。
 この罠から身を守るには、前の人の頭にアゴを乗せることである。それはそれで、かなり勇気がいる。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所 … 映画館、演芸場など
 ■難易度    … ★★★★★
 ■対応策    … 前の人の頭にアゴを乗せる



 ケータイのガサ入れ

 自分の携帯に電話がかかってくることはよくあるだろう。だが運の悪いことに、カバンの中の携帯電話がなかなか見つからないではないか。
 これが心臓えぐられる、ケータイのガサ入れである。
 焦れば焦るほど見つからない。それはもう、全神経を注いでも思ったほどの効果はあがらない。本や書類やメーク道具をかきわけかきわけ、やっと取り出すとほとんど同時に、着信音が途切れてしまったりする。小型軽量化が進むにしたがって、携帯はどんどんカバンの一番奥の方に閉じ込められやすくなっているのだ。
 着信履歴も残るし、はっきり言ってコミュニケーションに何ら支障はない。しかし携帯電話を持ち運んでいながら、鳴ってすぐ電話に出られなかった自分のミスに、悔しさのあまり思わず天を仰いでしまう。まったくもって腹立たしい。
 この罠から身を守るには、手に電話を埋め込むことである。それはそれで、おそらく痛い。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い時間 … 携帯に電話がかかってきたとき
 ■難易度    … ★★★★★
 ■対応策    … 手に電話を埋め込む



 ホッとしたらホット

 電車やバスに乗っていて、目の前の席に座っていた乗客が降りていくことはよくあるだろう。だが、空いたその席に腰を下ろしてみたら、異常なほどにぬくもりが残っているではないか。
 これがしばし佇む、ホッとしたらホットである。
 人の体温の高さは、見た目ではわからない。平温が37℃のおじいちゃんもいれば、35℃のスポーツマンもいないとは限らない。また、暑い日にあわてて駆け込んできた人が座っていた場合、相当の熱量が座席に保存されたままであろうことは想像に難くない。
 あまりの熱さに腰を浮かせると、周りから怪訝そうな顔で見られる。車内が混んでいれば、ますます孤独感は増す。他の乗客は、着席している幸せしか読み取れない。「見ず知らずの人の体温に接する」という不快な境遇に陥っていることなど、誰もわかってくれないのだ。
 この罠から身を守るには、自分の体温を上昇させ、座席を冷たいと感じるようになることである。それはそれで、また熱い。自ずと道は開かれん。

 ■罠の多い場所 … 電車やバスの中
 ■難易度    … ★★★★
 ■対応策    … 自分の体温を上昇させる









表紙


 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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