別冊


 世界に伝わる物語には、長い年月をかけて伝承していくうち、省略されてしまった登場人物が数多く存在する。ここでは物語ごとに、そのようなサブキャラクターにスポットを当て、その記憶を後世にとどめておきたいと思う。


 ・第1回 ロミオとジュリエット
 ・第2回 西遊記
 ・第3回 浦島太郎
 ・第4回 シンデレラ
 ・第5回 赤ずきん
 ・第6回 水戸黄門
 ・第7回 桃太郎
 ・第8回 三匹のこぶた
 ・第9回 裸の王様
 ・第10回 スーパーマン
 ・第11回 ドラえもん
 ・第12回 3年B組金八先生



 第1回 ロミオとジュリエット


 トミオ

 ロミオの同級生。成績はあまりよくないが、物理の先生のものまねでクラスの人気は高い。
 ロミオと一緒に帰るとき、ジュリエットに「ロミオ!」と声をかけられ、「おれのこと?」と勘違いして返事をし、恥をかく。それ以来ロミオに憎悪の念を抱き、ロミオのカバンを隠すなど、物語の前半で活躍。
 だがある日、あまりの自分のふところの小ささに気づき、部活中に失踪する。



 サマンサ

 ジュリエットの家庭教師。彼女の恋の悩みに答えるうち、やはり女性に必要なのは色気と考え、腰をくねらせて歩くようになる。
 だがサマンサが不幸だったのは、それに気づいたときすでに70歳だったことだ。
 腰を悪くして入院し、家庭教師も辞めてしまう。「ジュリエットはロミオとうまくいったかしら。うまくいったかしら」とうなされつつ、息を引き取る。



 ヘンリー

 ご存じ、死んだように眠ることができる薬の開発者。
 誰かに試したくてしょうがなかったところに、牧師から相談を受ける。
 その薬には、錠剤のほかにカプセル、顆粒、ドリンクタイプがある。ドリンクタイプにはお徳用ボトルも。変わったところでは、湿布も開発中だった。
 完成前に試験台にされた五人の弟は、今も死んだように眠っている。







 第2回 西遊記


 小荒

 物語のはじめに三蔵法師に出会う、心優しいコアラの妖怪。
 旅の一行に加えてくれ、と頼み込むが、鼻が黒いのが三蔵法師に嫌われる。
 彗星のごとく現れた孫悟空に如意棒で追い回され、それからコアラは木に登って静かに暮らすようになったという話である。



 金 内混

 如意棒を企画・制作した「金鉄工所」の代表取締役副社長。
 まだ回収できていない代金を取り立てるため、一行について回る。
 そのうち会社の内紛に巻き込まれ、代表権のない会長の座に押しやられる。



 無量法師

 天竺で三蔵法師を待つ僧侶。
 なかなか来ない一行を待つため、東洋人として初めてウノをする。
 だが、慣れないルールのため「ウノ!」をことごとく言い忘れ、手持ちの札はとうとう100枚に。
 怒った法師は、自分でも勝てる新しい競技をひねり出す。それが、7ならべである。







 第3回 浦島太郎


 巳之助

 亀をいじめる子供たちの一人。
 子供心に何気なくとった行動であったが、その後の彼は、亀に呪われ続ける。
 気がつくと背中は硬いは、水辺は好きだわで、もう大変。
 しかし呪われるうちに亀そのものになってしまい、一万年生きた。周囲から「いいじゃん」「よかったじゃん」と言われつつ、静かに息を引き取る。



 千代蔵

 竜宮城で、タイやヒラメの踊りを振り付けした日本初のコリオグラファー。
 そのシャープな切れ味は、太平洋一。レッスンについてこれなかった魚たちは、容赦なくさばかれる。
 そのため小骨の少ない魚のレッスンは、一際厳しいという噂である。



 丙姫

 乙姫の妹。美しい姉を持ってしまったせいで、性格がどんどんひねくれていく。
 浦島太郎がお土産の玉手箱を開けてしまったのは、箱を結わえたひもが切れてしまったためである。実は、彼女が細工した。ひどい女だ。
 だが乙姫との壮絶な姉妹ゲンカに敗れ、身ぐるみはがされる。裸一貫になった彼女は、自力でシーフードレストランを開いたそうである。







 第4回 シンデレラ


 メアリー

 シンデレラをいじめる娘たちの一人。
 いじめの計画の中には、シンデレラをロケットに縛り付けて月へ送るという、壮大なものまであったらしい。
 舞踏会への出席が決まってからは、一日中ダンス、ダンスで明け暮れ、あげくの果てにアキレス腱を切る。
 当日はベッドの中。



 ミッチェル

 国王の宮殿を設計した建築家。
 宮殿の玄関ロビーより2階のホールへとつながる階段は、長くて急なため利用者に不評である。
 毎夜毎夜行われる舞踏会のたびに、必ず誰かがあわてて帰り、靴を脱がされる。ミッチェルは階段の修理のかたわら、いろんな靴を手に入れてほくほく顔だったそうである。



 ロクサーヌ

 ガラスの靴に最初にチャレンジした町の女。体重は82kg。
 どう考えても無謀な試みに、周囲の止める声は日増しに高まり、署名運動に発展したほど。
 だが、10万人の署名が集まったときには、すでにチャレンジして脱げなくなっていた。当然、誰も助けなかった。ロクサーヌは目に涙を浮かべ、ダイエットを誓った。







 第5回 赤ずきん


 青ずきん

 赤ずきんの姉。お母さんが姉妹に買い与えた二つの頭巾を取り合う。
 最初赤い頭巾を選んだが、どうしても青い方がよくなってしまう。さんざん粘って交渉したあげく、長女の座を明け渡してもいい、と訳のわからない提案も。
 しかし、いまいちメジャーになれず後悔しきり。あのおつかいを赤ずきんに押しつけなければよかった、と晩年に語っている。



 朱色ずきん

 赤ずきんの武勇伝が公になるにつれ、国内ではその偽物が横行した。彼女もその一人。
 よく見ると微妙に頭巾の色が薄いため、すぐ見破られる。逮捕6回、罰金17回。
 「あのオオカミには私も参った」と言いながら勝手に他人の家に上がり込み、クッキーを頬張る。まあ、あまり問題ない。



 エミリー

 赤ずきんがおばあさんの家に行く途中の路上で、ティッシュを配っていたアルバイトの高校生。
 おつかいを無事遂行することしか頭になかった赤ずきんは、エミリーの配るティッシュに目もくれず、つれない態度をとってしまう。もちろん、彼女は激怒。
 おばあさんの家にたどり着くまで、赤ずきんに執拗にティッシュを投げ続ける。その攻撃から逃げるあまり、赤ずきんは予定より30分も早く到着したという。







 第6回 水戸黄門


 余次郎

 弥七のいきつけの居酒屋「五郎八」の主人。毎夜のごとく閉店間際まで飲む弥七から、よく愚痴を聞かされる。
 おまけに、酔った弥七が四方八方に繰り出す風車のおかげで、「五郎八」の壁は一面穴だらけ。そればかりか、余次郎にもかなりの頻度で命中する。
 「危険なのはいつも俺だ」とうつろな目つきで訴える弥七に、「おれも危険だ」と脅えながら、今日も深夜2時まで営業中。



 超うっかり八兵衛

 いつの間にかパワーアップし、今までからは想像もつかないことでうっかりする。
 一番驚いたのは、黄門様を「ご隠居」と呼ばずに「おい」と呼んだことだ。
 助さんに殴られ、一時は意識不明の重体に陥る。



 おせん

 格さんが落とした印籠を拾って届ける、心優しい町娘。
 しかし、印籠を落とした事実を黄門様に知られてはまずい、と思った格さんは、こともあろうにおせんが盗んだことにしてしまう。
 彼女も助さんに殴られ、ほぼ即死。数ある水戸黄門のストーリーの中で、一番悲劇的なエピソードである。







 第7回 桃太郎


 おじいさん

 登場人物として省略されてはいないが、桃太郎を送り出したあとの行動が謎に包まれている。
 きびだんごを渡したあと、どうしても1つ食べたくなってしまった彼は、おばあさんの止める声を振り切って桃太郎の後をつけ狙う。
 子分になることまで考えたが、体力の限界を感じて断念。あげくの果てに、猿がもらったきびだんごを横取りして大げんかしたという。



 鬼七

 鬼ヶ島で、当日見張りをしていた門番。双眼鏡を逆にのぞくという初歩的なミスを犯し、桃太郎たちに気づいたときはすでに手遅れだった。
 しかし責任感は強く、鬼の大将に「もう一度やらせて下さい。次は必ず」と直訴する。とはいうものの、もう宝物は一つもなかった。島内で一番高価なものが、自分が首にかけている双眼鏡だったとは、何ともやるせない話である。



 金蔵

 「八百金」の主人。川から流れてきた大きな桃の情報をいち早くキャッチして、次に流れてきたら店で売って儲けようと計画。何日も岸辺で待ちぶせをする。
 だが残念なことに、大きな桃は流れてこなかった。
 流れてきたものはペットボトルか、釣りエサのビニール袋だった。ショックと過労で倒れ、川に転落。自分が流れていった。







 第8回 三匹のこぶた


 北岡

 こぶたたちに住宅の何たるかを教える、謎の建築家。
 間取りや採光、収納に至るまで、細部にわたって指示を出す。そのため、かなり住みよい家が完成し、地元のケーブルテレビが取材に来るほどに。
 だが彼らの鳴き声を計算に入れておらず、防音設備を怠ったため近所から「ブーブー言うな」と苦情が殺到。こぶたたちはその後、訴えられることになる。



 西園寺

 こぶたたちが訴えられた際に雇われた、腕利きの弁護士。
 満員の傍聴席に向かって「あの鳴き声はいびきだ」と主張するその姿は凛々しく、法廷にも関わらず裁判官が恋に落ちてしまったほど。
 だが、被告人席に座っていたこぶたたちが「そうだそうだ」と叫んでしまったため、それが日常会話だとばれる。窮地に陥った西園寺は、現在南アフリカを逃走中。



 ロベルト

 とんかつレストラン「こぶた」のオーナー兼シェフ。1分間に、20個のキャベツを千切りにする。
 裁判の費用を捻出するため、こぶたたちは誰か1匹が犠牲になって、以前からオファーのあった「こぶた」でとんかつになることを決めた。
 そこに、謎の放火事件。レンガの家はそのまま大きな暖炉になり、6時間後に鎮火したものの、家の中にはおいしそうなチャーシューが。現場近くでほくそ笑むロベルトを見た、という目撃証言もあったが、真相は藪の中である。







 第9回 裸の王様


 トム

 ストリーキング。王様が裸で街に繰り出したとき、運悪く出没。
 通行人たちに騒がれようとしたのに、みんなの注目は王様に集まっており、何をやっても不調に終わる。
 仕方なく、服を着て家に帰る。その日のニュースでも、まったく扱われなかった。



 キャサリン

 王様の一人娘。彼女も裸で街に繰り出す。
 その美しい体に、沿道に集まった見物人たちからは思わずため息が。
 少年が「王女様も裸だ」と叫ぼうとしたため、周りにいた男性たちがこれを止めようと殴りかかる。少年は全治5カ月。



 ジョンソン

 王室お抱えの歯医者。
 王様をまんまとだました服屋に触発され、「頭の悪い人には見えない入れ歯」を売りつける。
 その数日後には、王様がおかきを丸飲みする事件に発展する。国民からはジョンソンの犯行を非難するよりも、王様のあまりの馬鹿さ加減に対する、あきらめの声の方が圧倒的に多かったという。







 第10回 スーパーマン


 ロバートソン

 公衆電話を管理する、ニューヨーク市の職員。いつも電話ボックスを更衣室がわりに利用するスーパーマンを、苦々しい思いで見ている。
 対抗策として、マジックミラーで中が丸見えの電話ボックスが検討されている。
 これでもまだ使うなら、着替えの最中にクレーンでボックスを吊り上げてやる、と彼は語る。こうなったらもう、単なる嫌がらせである。



 マーク

 スーパーマンのスーツを作る、メンズショップの店長。
 最近太り気味のスーパーマンから届く、たび重なる作り直しのオーダーに悲鳴を上げている。聞くところによると、一番スリムなときから比べて体重は22キロ増。寝る前のポテトチップスが、どうしてもやめられないらしい。
 慣れない頃には「S」のカーブを逆に縫ったこともある。



 ロドリー

 スーパーマンの別れた妻。
 彼女の「赤いパンツをはいて、人前で空を飛ぶことだけはやめてくれ」という必死の願いも聞き入れられず、ついに離婚が成立。
 青のタイツに赤のパンツでなければならない理由は何もない、という主張は裁判所で認められ、精神的ダメージを受けた彼女への損害賠償として、スーパーマンに150万ドルの支払い命令が下ったのは有名な話である。







 第11回 ドラえもん


 カヅ夫

 かなりのひねくれ者で、この世に無常観を抱いている。
 のび太が窮地に陥るたびに「死ねばいいじゃん」とアドバイス。いつものび太はどん底まで落ち込み、泣きながら心のダイヤルに電話する。ドラえもんに相談するのは、そのあとのことである。
 少年マンガに登場するにはキャラクターが暗すぎると抗議が殺到し、第六話で転校されられた。



 ロボジャイアン

 その名の通り、ジャイアンがロボットに。
 パワーアップしたその暴力は、地元の教育委員会でも議題に上るほど。誰が作ったのかはいまだ謎だが、近所の住民を次々に襲っては「俺の歌を聴け。聴かないとひどいぞ」と叫ぶ。
 歌は下手。



 北野

 ドラえもんが取り出す道具の修理屋。
 いつも使い方が粗いので途方に暮れている。先日はどこでもドアのノブが取れた。先月はホンヤクこんにゃくを腐らせた。その前は暗記パンにカビが生えた。
 20歳になったとき、のび太に莫大な請求書が届くという。







 第12回 3年B組金八先生


 吉村

 地元で「バーバー吉村」を営む理髪店の店長。
 髪が無造作に伸びている金八を、七三分けにしようと企む。
 荒川の土手で待ち伏せ、川上から川下まで逃げる金八を追いかけて10キロ走ったという伝説の持ち主。



 鈴木

 いつも金八と言い争いをしている例の巡査。
 大事件の重要な手がかりとなる人物を目撃することもあるが、「俺は出世よりも金八との言い争いに命を賭ける」と言ってはばからない。
 平成7年、依願退職。自転車はツノダ製。



 逸川 学

 3年B組の生徒。
 桜中学に入学してからいきなり車にはねられ入院6カ月。そのあとすぐインフルエンザにかかって入院4カ月。さらにそのあと屋根から落ちてきた瓦で頭部を強く打ち、入院1年2カ月。
 よって、知能は小学6年生。高校受験はかなりの苦戦が予想される。









表紙


 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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