タイタニック号の沈没について調べるうち、私はタイタニックという巨大豪華客船がまるで魔界の入口であるように思えてきた。

1912年タイタニック号は、北大西洋上で氷山に衝突して沈没したのだが、この事件がおきる14年前にこれとそっくりな内容の小説が書かれていた。
 モーガン・ロバートソンが書いた小説「フューティリティ」、つまり「愚行」という名の小説である。
その物語は、造船会社により「不沈船」と宣伝された巨大な客船が、イギリスとニューヨークを往復する航海中、突如現れた氷山に衝突し沈没してしまうというものであった。船の名前は「タイタン号」であった。
 沈んだ場所が北大西洋であったこと、さらには救命ボートの不足によって多大な犠牲者が出てしまうという結末など、物語の設定が現実に起こった事件とあまりにも似ている。
さらに似ているのは事件だけではなく大きさ、構造、速度など、細い設計にいたるまでタイタン号はタイタニック号とそっくりなのだ。
例えばタイタン号の全長が800フィートに対し、タイタニック号は882.5フィート、乗客数は2000人に対し2200〜2400人、救命ボート数24艘に対し20艘といった具合である。
その他たくさんの類似点があるのだが、これを単なる偶然だと誰が言えるだろうか。

ユング心理学にシンクロシティ−という領域があるのだそうだ。シンクロシティ−とは数人で誰かの噂をしている時にちょうどその当人がやってくるなど「意味のある偶然の一致」のことである。
結論からいうと、ユングは「意味のある偶然の一致」がこの世にあるのならきっとこの世の中はそんな仕組みになっているからだろう」という仮説を立てている。(声:我々はその仕組みが知りたいんだけど)
つまり世の中には、ものごとを統合しようという目に見えない力が働いているからだという。
そして世の中には科学ではまだ発見されていないある種の繋がりがあり互いに連動している、というわけである。(声:なるほど)
そういう仮説を立てない限り、確率以上に起きる「意味のある偶然の一致」は説明する事ができないというわけだ。(声:それはそうだ)
この繋がりは、心理学の世界ではよく、氷山に例えられている。
海面から出ている氷山は、普段私達の意識の表面にでている表層意識で海面から出ている部分より、はるかに大きく水中に没している部分が深層意識つまり無意識の部分である。
従って、海面からは別々の塊に見えた氷山は、海の底へ行くと実は全てが繋がっていて一つのものだという。
しかし何れにせよユングのシンクロニシティの仮説は、モーガン・ロバートソンが書いた小説と現実の事件との類似性についての充分な説明にはなりえていない。
ただしタイタニックが激突した氷山が、魔界への入り口を示すメタファ−的存在にも思えてくるが。

 タイタニック号には幾つかの不思議なエピソードが存在する。その中でも特に不思議なものが「ミイラ」に関したものである。
エジプトのピラミッドから盗掘されたミイラが実は大英博物館からニュ−ヨ−クに移送されていたのだ。
お棺には「ピラミッドの墓荒らしには神が裁きを下すだろう」と彫られていた。
このミイラの所有者となった者は次々に原因不明の死に至り、このいわくつきのミイラを最終的に引き取ったのが大英博物館であったのだ。
というわけでタイタニックの沈没は「ファラオの呪い」かと当時からいわれていたのである。
このミイラは海に沈んだタイタニック号から引き上げられ、現在は、ふたたび大英博物館に収められているという。

ところでこのタイタニック号に乗り合わせた一人の日本人がいた。
鉄道院在外研究員の 細野正文氏当時42歳であった。
彼こそは運命の「めぐり合わせ」に遭遇した唯一の日本人である。
彼は、サウサンプトンから乗船し、事故の時には救命ボートに乗り込み救助された。
ただ、日本に帰国してから細野氏には想像を超える非難が待ちうけていた。
細野氏は救命ボートで救出されたが、多くの人々が亡くなっているのに自分だけ助かったと周囲の者に責められる事となったのだ。
彼は役所をクビになり、さらに日本の新聞は、細野氏を臆病者だと中傷した。
そして悲哀の中、細野氏は1939年に亡くなっている。
(1954年に日本の定期船・洞爺丸が沈没した時も、細野氏の一件が再び悪例として出された。)
私も、何もそこまでバッシングしなくてもと細野氏への同情を禁じえない。
生存者それぞれのその後の運命を知る由もないが、細野氏を見る限り、このタイタニックという魔界は、生存者の人生をも呑み込みこんでしまわないと気がすまなかったらしい。
ちなみにこの細野正文氏の孫が、元YMO(イエロ−・マジック・オ−ケストラ)の細野晴臣氏である。