イルカと泳いだメダリスト


2007年3月14日の「オーラの泉」のゲストでオリンピックのシンクロナイズドスイミング銅メダリスト小谷実可子さんの体験談は圧巻だった。小谷さんのアスリートとしての不思議体験はシンクロ競技中に水の中で息を止めても苦しくなくて水と一体化になるような体験が2度ほどあったそうである。
 通常の演技では心の中で審判に点数をもらう為にああしようこうしよう、ここでアイキャッチとか色々思っている。しかしこの時は青い空にエネルギーをもらい何にも頭に無くってもう幸せでしょうがなかった。演技が終わっても何も疲れがなかった。そしてこの時彼女は人生で最高の得点をとっって優勝したという。
小谷さんにとっての人生の転機は、ソウルオリンピックの後、野生のイルカと出会ったことであった。オリンピックの後、テレビで見ていた見知らぬアメリカのオジさんから突然電話があり「君の演技は素晴らしかった。でも水の中には君よりももっと美しく泳ぐもの たちがいるから会いに行こう。イルカを見ないか」と誘われるようになった。
毎年ように電話をかかってきてお節介にもシンクロだけが全てじゃないと言われ疎ましくと思っていた。ところが次のバルセロナオリンピックで補欠になりアスリート人生に不安を覚えた時、「シンクロだけが全てじゃない」という言葉を思い出し93年夏にイルカを見にバハマに行った。
そしてイルカと並走するように泳いだ時に体の中に電流のようなものが走ったという。海と一体化し自分のちっぽけさを知りつつ幸福感に浸った。それからの人生観が変わった。それからはイルカと対面するためにいつもピュアな気持ちでいようと心がけるようになったそうである。
 私はこの小谷さんのイルカ体験の興味をもち「イルカ療法」についてインターネットで調べてみた。この療法は精神障害を持った人に対する治療法としても注目されはじめており、最近ではガンや交通事故の後遺症など、肉体的な病気に関しても効果が期待できるとしてさかんに研究されている。
イルカはけがをした仲間の動物をかばう性質があり、人間の中から病人を選別でき、その病人を特別扱いする習性がある。イルカは人間の血圧の状態や脈拍がわかり、例えば右半身が麻痺している人が海に入れば、イルカは必ず不自由な右側を支えるような位置にまわってきて泳ぐという。自閉症の子が泳いでいた場合は、イルカと一緒に泳ぐ事によって、自分はイルカに特別扱いされたと思い、自分の存在を認めてくれた喜びと自信を与えてくれる。
 小谷さんの体験は、こうしたドルフィン・ヒーリングの体験よりも深いものがあると思った。人は世にあるとき様々なしがらみに巻きとられていく。また自分を大きくみせようと必死に努力する。
小谷さんの幸福感には、自分の「ちっぽけさ」の体験がある。ただし自分がイルカを通じて圧倒的に大きなものの一部であるという認識だったのである。
今の我々はこうした畏敬や崇敬といった根源的体験からあまりにも遠い世界に生きているのではないかと思う。
 ところで小谷さんがイルカと泳いだ時、オリンピックの金メダリスト・マット・ビヨンディも共にいた。小谷さんがシンクロの最中に水と一体化した体験を語るとビオンディも自分の体験を語った。クイックターンで壁を蹴って折り返した途端に何かポンと自分が離れたような感覚になって斜め後ろから自分の泳いでる姿ずっと見ていた。
そして最後にゴールタッチする時にフッと自分自身に戻って電光掲示板を見たら世界新記録がでていたそうである。
 小谷さんはビオンディとこの話をするためにバハマに来たと思った。そしてオリンピックに出たのも「イルカと出会うため」ではなかったかと思ったそうである。つまり彼女はメダルを取るより尊い体験をしたのだった。
小谷実可子さんは、かつてテレビの取材でギリシャに行ったことがある。ギリシャの島の壁画にイルカと共存していた人の絵があるのを見たことがある。ギリシャ・クレタ島に描かれたイルカの壁画だという。彼女ははるか以前から目に見えぬ力でイルカと出会うべく導かれていたのかもしれない。
ギリシアの人々がイルカの絵をクノッソスの壁に描くためにおもむろに絵筆をとったその時から。