学習化放獣について
 ツキノワグマの学習化放獣という考え方についてかかれた書籍、行政資料は数多く存
在するのでここでいちいち掲げる事はしません。興味のある方はそれぞれ自分で文献を
探して読む、各県の担当者に聞くか、他の有識者の意見を仰げば良いでしょう。

 このHPにアクセスされた方々の大部分は既に何らかの知識を持ち合わせかつ、不足なも
のはないかとWEB渉猟中にここにぶつかった人もいるかもしれませんが、このHPでもほと
んど役に立つ情報は得られないと思います。残念ながら。

 あえて学習化放獣を含めクマ対策のための1冊をあげるとすれば、”クマと向き合う 
栗栖浩司著”をお勧めします。特に一般向けとうよりはこれからクマ対策に臨もうか、と
いう行政担当者には読んでいただきたいと思います。対策を講じる立場の行政官が、最初
に考えるべき心構えなど、覚悟のきめ方、哲学的な部分の参考になるものと考えます。

 はなから他の文献や人にブン投げる姿勢を見せましたが、実際に、ツキノワグマによる
何らかの被害とその対策ならびに保護政策の姿勢は地域毎にすこしづつ異なっており、保
護管理に対する住民意識や政治的思惑など複雑な要因が関わっていて、表面的に一律のガ
イドラインを提示することは誤解の発生も含め難しい問題をはらんでいます。

 既にツキノワグマが生息し、何らかの被害や不安がある各自治体では任意の保護管理計
画や、個体群保護と被害対策を総合的に扱った特定鳥獣保護管理計画を策定し実行に移し
ています。その中に、ツキノワグマの放獣マニュアル、被害発生から駆除もしくは放獣す
るまでの手順や連絡体制を整理したものが出来上がっているところもあります。

 ここではそのような難しいことには触れませんし、答えもヒントも与えず提言もしませ
ん。その点は無責任を貫いたHPであること強調します。普通は誰も気にしない些細な現場
技術的なことや、実際の作業に関わる注意事項に限って列挙しています。もともとは個人
的な覚書や私信などの寄せ集めということで。

 実際には以下のような、

・学習化放獣という考え方
・捕獲から駆除もしくは放獣までの意思決定
・学習化放獣手順の考え方
・捕獲罠について
・他

などの項目を検討しなければなりません。お問い合わせいただいても結構ですが、これら
について基本的には、他の硯学の方々、経験の確かな研究者や行政官にお任せします。

また、ここに挙げたのはあくまでも考え方の一例であり、解答ではありえません。この通
りにやって失敗しても、当方は一切の責任を負うつもりはありません。むしろ問題点を読
みきれずに現実的な工夫でがきなかった貴方自身の”想像力(創造力)不足”を問題にす
るべきでしょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−− 各論 −−−−−−−−−−−−−−−−−−

・放獣作業にかかる前の注意事項
 − 手続き上の問題。捕獲のあった罠に違法性はないかどうか。有害駆除などで設置さ
   れたものは、設置申請および設置日とわなの種類を確認する。
 − 各種書類の確認と放獣手順に基づく連絡網の確認。
 − 括り罠と箱罠ではアプローチの仕方が違う。また、イノシシ用の箱罠はクマの捕獲
   に耐えられるほど頑強でないものもあるので、興奮させると破壊される危険性が増
   える。勝手に集まってくる野次馬の排除などの処置に必要な情報。
 − 捕獲場所の罠設置状況、地形、人家の有無など事前に入手できる情報は全て整理。
 − 複数の人員で確保すること。できれば参加者全員が同等の作業に従事できるだけの
   訓練をしておくこと。格差がある場合、リーダーは全ての作業手順を円滑に進めら
   れるよう訓練しておくこと。
 − 麻酔時間、作業所要時間などの管理に誰か必ず1名はタイムキーパーを設けること。
 − 捕獲個体を見てから放獣地の決定はしない。現場に行くまえに大体の目星を付ける
   か、必要ならば適地選択、交渉などの別働隊が動くこと。

・麻酔中の作業と注意事項
 − 獣医師の指導の元、使用する麻酔薬そのほか器材の特徴や使用方法を熟知すること。
   知識として正確な情報を持つことは直接自分自身で取り扱うかどうかは関係がない。
 − 麻酔の程度。計測や発信機装着その他ハンドリングに関わる所要時間のを充分把握
   しておくこと。
 − 薬量を多めに使う傾向があるが、なるべく体重に合わせ処方する。
   最初に体重を量れない矛盾が生ずるが、目測で大まかな体重の判断がつくように訓
   練する。当初、見当がつきにくいので、ハンドリングする毎に、見た目の大きさと
   実測値の関係を自分なりに捉えること。10kg程度の誤差は問題がない。また、
   興奮している個体は体毛を逆立てているので、見た目5−10kg大きめに見える。
 − ハンドリング所要時間。15分程度で収められるのが理想。
   計測など作業に関わる人員が、ほぼ同じレベルの作業能力を持っていることが重要。
   なるべく訓練して誰にスイッチしても滞りなく作業できるようにしておくとこと。
 − 耳標、発信機など装着が必要なものは、計測の前に行う。とくに発信機は装着にネ
   ジ止めするがこれに関わる時間は意外と長い。覚醒を開始すると作業が困難になる
   ため、面倒な部分を先に済ませる。これには、各人固有の考え方があり個人の経験
   で判断される部分が大きい。
   対立意見があっても必ずしも正しいとか間違っているとはいえない。麻酔の深さ、
   手順、慣れなど個人の技に左右されることであり、単に後先の問題ではなく、全体
   の流れの中でどう位置付けられているかで判断される。比較して自分が実行しやす
   い固有のスタイルを確立せよ。
 − 追加麻酔。なるべくしないほうが良い。ケタミンの場合、最適薬量投与すると、約
   15分ほどで覚醒が開始する。この時点で再投与すると、目覚めが異常に長くなる
   傾向がある。初期投与時に充分な薬量を投与すること。また、使用している薬剤の
   効果、麻酔導入から覚醒までの間個体にどのような影響を与え、どのような行動が
   おこるか把握すること。
 − 麻酔作業時に、各個体毎麻酔導入から不動化、覚醒までのプロセスの時間記録、行
   動記録を必ず取ること。これら記録は、ハンドリング所要時間から放獣地までの移
   送にかかる時間及び放獣作業の所要時間の見積もりを立てることに必要である。仮
   に各種作業の指示、統括する作業担当責任者に土地勘がない場合地図だけで大まか
   な所要時間の見積もりができるよう訓練しておくこと。

・麻酔中の作業、計測上の注意
 − まず異論があるかもしれない。麻酔は筋弛緩剤を併用するべきと考える。たとえば
   ケタミンの場合、単独で使用するとカタレプシー(麻酔がかかった状態で筋硬直が
   起こる)を起すことが知られている。この状態では体躯を伸長させることは難しく、
   正常な状態で計測ができたかどうか疑わしいデータとなる。基本として、硬直が解
   けた死亡個体に準ずる状態が計測には好ましいのではないか。そのため、使用する
   麻酔薬の種類と特性、麻酔の経過に注意すること。
 − ケタミン、ゾレチル(チレタミンとゾラゼパムの混合物)などフェンサイクリジン
   誘導体を含む麻酔薬は過剰な流涎を促すことがある。個体の健康上、大きな問題は
   ないと考えるが、必要ならば硫酸アトロピンなどを投与できるようにしておくこと。
   流涎自体は舌を引出し横向きに寝かせるなど、唾液が外部に排出できるように配慮
   する。筋弛緩剤などを麻酔導入剤として活用し麻酔薬そのものの投与量を減らすよ
   う心がけること。実験室ではないのでカンペキな麻酔管理は無理であったとしても
   である。
 − クマは体躯が大きく体重も重いので何かとぞんざいな扱いになりがちである。特に
   体重測定はクマ自身が体躯のバランスを取れないので自重で呼吸障害などを起す危
   険がある。やたらシバって逆さ吊りにするとかではなく、ネットで全体を保持する、
   幅広ベルトで胸部を圧迫しないように固定するなど、負担の少ない方法を工夫する
   こと。

・完全に麻酔から覚醒していること
 − 放獣地点が離れている場合、運搬に関わる所要時間を把握しておくこと。運搬途中
   で完全覚醒していると後の処理が早い。放獣作業の効率化に努めること。
 − 意識が完全に戻ったようでも、四肢の麻痺が長時間続く場合がある。爆竹や、唐辛
   子スプレー処理の後開放して、直ちに走り出す状態が良いが、そうなるとは限らな
   い。

・学習化処理
 − 最善の方法論には賛否がある。唐辛子スプレー、爆竹、ロケット花火、電気シ
   ョック、人の声など。それぞれを単独で刺激を与えるのではなく、複数同時に与え
   ること。それぞれの刺激が互いにリンクするであろうことを期待するため。
 − 本来は、人が怖い、農作物が怖い、その土地に恐怖感を与える、というのが趣旨。
   だが、実際には移動放獣になる場合が多いので本当の効果についてはいまだ疑問が
   持たれている。当然、人を怖がることはあるかもしれないが、ある特定の条件、た
   とえば、”黄色い服を来た人が怖い”など一見関係ない条件に対してだけ条件付け
   されてしまっている可能性が否定できない、ということ。
   しかし、現実的に確かめる方法がない。そのため、いろいろな条件を同時に与える
   ことになっている。問題がないわけではないということも理解するように。
 − これらの条件付け刺激は一人ではできないので、何人かで手分けして処理する。
   なるべく大人数で取り囲んで威嚇する事が効果的というケースも有る。実際はどう
   かわからないが、放獣事業への参加意識を高めるためにも無意味ではないであろう。
 − 唐辛子スプレー。ドラム缶罠と開放系の罠では飛沫のこもり方が違う。ドラム缶罠
   では直接個体の体にかからなくても良いようである。普通狙うのは顔面、粘膜刺激
   が大きいところ。噴射時間は1回あたり1秒では長すぎるので注意。
 − 麻酔が効いていて呼吸が深くなっている場合、噴射後すぐに逃走できない条件では、
   深く唐辛子スプレーを吸い込んでしまう恐れがある。呼吸器障害などの原因となる
   ので注意。
 − 忌避学習化のタイミング。唐辛子スプレーなどの噴霧処理を捕獲檻の中に捕獲個体
   が入ったままで行うことに、処理後の効果が期待できるのかどうか疑問視する意見
   もある。むしろ、檻開放時、外に出た時点で処理することを勧める意見もある。
   現状ではどちらがより効果的であるかの検証は難しい。事例を重ね数年間の適正な
   モニタリングを行ってその結果に期待するしかない。個人的には檻の外でもしくは
   捕獲個体が周りを確認できる状況(逃避衝動が起こりやすいとか、周囲に攻撃する
   人間がいることが自覚できる環境ということ)を作る必要性を認めている。ただし、
   檻から外に出てしまった段階では逃走個体の制御が難しく、忌避学習化処理自体を
   失敗する可能性もある。
   また、逃走方向によっては新たな人身被害を引き起こす可能性もある。もし、この
   方法を採用する場合は、檻から逃走する間に鉄格子などで作ったトンネル状の設備
   を設置した上、忌避学習処理担当者の安全を確保しながら充分な忌避学習処理がで
   きるようステージを整える必要があるだろう。
 − 真っ向から立ち向かう度胸も必要だが、酒場受けしかしないような武勇伝は要らな
   い。想定し得る、避けられる危険性はなるべく排除するよう心がけること。

・個体の運搬
 − 各地域、捕獲目的(理由)によって、捕獲用の罠の種類やサイズがまちまちである。
   罠そのもので運搬できないケースが多いので、移動用の小型檻を用意すること。
   移動用の小型檻 概念図
   ドラム缶1本分の大きさで工夫することができるが、これを搭載する車両に合わせ
   て調整したほうが良い。たとえば主に軽トラやピックアップを利用するのであれば、
   全長をその荷台の幅に調整するなど。例:戸河内町はスズキエスクードの後部荷台
   スペースの空間に合わせた設計をしている。町や実行主体の機関で所有している公
   用車に合わせて設計しておくと便利ということ。直径45cm×100cm、もし
   くは一辺45cm×100cmなど。これでも120kgクラスは入る。個人的に
   はステンレスパンチングメタル張りを推奨。捕獲罠と連結部分を作ると作業が円滑。
   移動用の小型檻捕獲罠(戸河内方式)の連結
 − 放獣作業に使用する檻は、檻後部か側面数カ所に小さな作業穴を設ける。そこから
   スプレーや爆竹などを用いた条件付け処理を行う

・個体の運搬 使用する車種に関する注意
 − まず、別途トラック、軽トラック、ピックアップなどの車両が放獣事業に自由に使
   用できる環境では必要のない配慮であること。多くの自治体で公用車として使われ
   るステーションワゴンタイプしかない場合の事例。
 − この車種の多くは荷台床高が低いため、移動用檻の積み下ろし時に作業上の問題が
   発生する恐れがある。
 − 問題は、檻と捕獲個体の合計重量が60kgを超えた場合です。これ未満であれば、
   仮に女性二人でも積み下ろし可能(やっとかもしれないが)。しかし、この場合で
   も、ハッチバックの扉がちょうど運搬人の顔にあたるおそれがあり、中に押し込む
   さいにかなり前かがみにならなければならない。この姿勢ではたとえ軽くても、腰
   などへの負担が大きい。直接、クマによるらない作業上の怪我(椎間板ヘルニアな
   ど)を起す可能性がある。
   作業上の事故、障害の可能性1
 − さらに、60kgを超える場合、極端な場合100kgを超える場合、檻の運搬に
   かかる人数は4人必要になりこともある。檻を横向きで運搬することを前提とした
   場合、先に車側に接した2名が上記のような姿勢になり、場合によっては檻の転倒、
   落下などの事故を起す可能性が高くなる。
   作業上の事故、障害の可能性2
 − 重量物を積み下ろし作業する時は、最初から最後まで無理のない姿勢で作業が行わ
   れるよう配慮するか補助的な装置を工夫すること。。ハッチバックでは先に述べた
   とおり扉と低い天井が何処かで邪魔になる可能性があるため、操作性が悪くなるま
   えにフロアの高さに檻が乗っていれば良く、そのまま車内に滑り込ませるような仕
   組みがあればよいことといえる。あくまでも一例。
   補助装置
 − 檻を車内の安全な位置までいれる際、荷台フロアの塩ビシートまたはゴムシートの
   摩擦によって滑りこませるこは困難な場合がある。車内に人が起立できるほどの空
   間はないのでかなりの負担になる。一例として、荷台に3cm幅ぐらい(適当な長
   さ)の鉄板もしくは金属ベルト、厚みは2−3mmを等間隔で3―4本引くこと。
   乗せた檻をこのレールの上を滑らせて所定の位置に調整する。金属どうしならば摩
   擦係数はそれほど大きくはならない。
 − どのような積み方を前提にするにしても、積み下ろし作業に関わる効率化と安全性
   を無視してはならない。実際に手元に既に移動檻がある場合、現場で使う前に必ず
   操作性の善し悪しならびに効率的な作業ができるか検討し、担当者間で事前訓練が
   行われるべきである。実際に檻に土嚢を積めて50kgの場合、70kgぐらいの
   場合100kgをこえる場合を想定し問題点の整理を行うこと。
 − あえて、力ずくとか、苦労している姿を見せびらかすような姿は必要ない。行政と
   して行うことであるとするならば、人が見ていることむしろ見られて当然という点、
   スマートに対処すべし。

・放獣手順 準備
 − 放獣場所。選定が困難な場合が多い。事前に場所の選定と確認を。
   地域の問題としてどのように判断すべきかは、行政、被害者、猟友会そのほかの一
   般市民とのコンセンサスが必要。特定保護管理計画など実行計画のあるところはそ
   れに従うこと。
 − 放獣場所。実際に放獣する場所。各市町村所有の森林、国有林、特に承諾が得られ
   た場合は民有林も。
 − できれば林道、作業道の終点など広場のあるところ。広場の理由、作業員が障害な
   く退避できる条件が必要。がけや山が迫った林道の途中などは移動方向が限られる
   ので、放獣した個体が放獣作業を行った人の待避線と同じ経路で逃走する危険性が
   ある。公道は避ける。
 − 放獣個体の逃げ道の確保。移動檻の扉を谷側もしくはすぐに身を隠せるヤブや森林
   のある方向に向ける、檻後方はなるべく開放空間を作る。
 − 放獣作業員の退路確保。条件付け作業を終えた後、作業員は直ちに後方の車両など
   を利用した退避施設に入ること。人員数と距離で適切なスペースを設ける。檻を中
   心に5−10m程度あれば良い。
   放獣体制 配置概念図
 − 移動檻の設置。多くの場合落とし扉なので、横にして扉を引き戸型にすると開放し
   やすい。扉にロープをつける5−10m。扉の開放はロープで連結して車両の中か
   ら操作する。
 − 扉にロック機構のある檻は、ロープ索引時に解除を忘れることが有る。または、遠
   隔的に安全に解除できるよう工夫する。ロック機構がない場合、開放直前までロッ
   キングペンチ、バイスなどで固定しておく。固定していないと、完全に覚醒した個
   体は自分で開けて出てしまうことが有る。退避処置ができていない前に出てしまう
   と人身被害の恐れもあるので注意。
 − 唐辛子スプレーを操作するものは。喘息や、気管支系の疾患を持たないこと。
   必要ならばゴーグル、マスクを着用すること。
 − 準備と安全確認の後作業員は所定の場所で待機。条件付け処理、扉開放など一連の
   作業は、条件付け作業を行うものの中にリーダーを設け、その合図で行うこと。

・放獣手順(まとめ)
 − 条件付け作業員以外は車両など退避施設に入る。
 − 覚醒確認(動ける状態かどうか)
 − 条件付け作業。
 − 扉のロック解除。
 − 条件付け作業員の退避。
 − リーダーの合図で扉の開放。
 − 逃走の確認と、逃走方向の確認。逃走方向にロケット花火などで威嚇など。
 − 逃走しない場合、爆竹やロケット花火で威嚇。石などを投げ込む。など。基本的に
   は逃走するのを待つ。
 − 退避施設方向に向かってきた場合は、無視してそのまま逃走経路を確認する。
 − 安全確認。のち、後片付け。この時点で戻ってくることはないが、油断はしない。

・発信機などで標識する場合の注意
 − 発信機装着前に、設計周波数での発信状態を確認する。使用している受信機毎に若
   干の癖があるので、一番聞き取りやすいトーンに合わせて受信周波数の調整を行う。
   各種オプション、加速度センサーや温度センサーのあるものの動作チェックはそれ
   ぞれの機種毎の説明書による。
 − 発信機装着時。発信機は多くの場合マグネットスイッチで発信が制御されている。
   磁石の除去は装着前に行うこと。特に購入から装着前期間があいている場合、スイ
   ッチとなっている内部のリードスイッチが上手く動作しない場合がある。原則とし
   て乱暴に扱うべきではないが、磁石をはずしても発信しない場合、手のひらでたた
   くなどの操作が必要になることがある。とにかくあせってはいけない。
 − 首輪型の装着装置の場合、ゆるく取り付ければ脱落し、きつくすれば首に褥創を作
   る。いずれもその後の追跡調査に支障をきたす、個体の健康上の負担を増すなどの
   問題の原因となる。やむを得ず自動脱落装置のない装置を装着する場合は、適度な
   締めつけ具合に調整できるように訓練すること。また、脱落は装着されたクマの個
   性も大きく影響するようで、装着後首輪を気にしない個体もあれば取り外しのため
   飽くなき努力を払う個体もあるようである。
 − 締めつけ具合。首輪と首の間に指が2―3本入ることと言われているが、季節や栄
   養状態によって首の太さが変わる。首輪自体はベルトの長さが変わるわけではない
   ことに注意。首輪を仮止めし下顎下面から、顎の幅でベルトを持ち前方に引きぬく
   ようにしても顎から抜けないこと。続いて上体側に首輪を持って(耳の幅で両手で
   持つ)引き上げ、頭部前方に向かって引っ張る。このとき両耳の付け根でベルトが
   ぎりぎりで止まる程度では脱落の危険性があるのでこの時点でベルト長さを2ー3
   cm詰めること。
 − 夏は首輪が首周囲で自由に回る程度に余裕を持たせること。春先、秋期は少しきつ
   めに装着。ある意味勘に頼らざるを得ない。
 − 取りつけねじ。適正なサイズの取りつけ工具(スパナなど)を用意する。米国製の
   機種ではインチ規格のネジを採用していることもあるので取りつけ工具はインチ規
   格のものを用意すること。インチ規格かメートル規格か購入時に確認すること。
 − 最近の首輪の取りつけねじはナイロンナットで締める。単独でも緩みは少ないが、
   そのほかに付属しているワッシャ−、スペーサーなど省かないように注意すること。
   インチ規格のものは入手できない場合があるので紛失しないようにするか、予備ネ
   ジを同時に購入しておくこと。
 − 首輪装着後の処置。電波の発信状態をチェックする。
 − 発信機を装着を前提とした場合、事前に追跡体制を整えておくこと。移動放獣の場
   合、本来活動域と異なる地域に放獣される場合も考えられるので、必ず放獣後少な
   くとも3日―1週間の動き、移動先の追跡を実施すること。その後の見失い危険性
   が減少する。

・耳標装着時の注意
 − 事前にタグならびに装着工具はアルコールもしくはイソジンに浸漬して消毒してお
   くこと。
 − 現在使用されているタグはおおくが家畜用の流用である。クマに比べて耳介の厚さ
   が薄い動物対象である。尖入部がプラスチック製のものは貫通しないで変形など起
   すことがある(DALTON ROTOタグなど)。どのようなタグを装着するにしても、尖
   入困難と見た場合は清潔な針(径2mm程度)であらかじめ装着部に穿孔したほう
   が良い場合がある。
 − タグ装着部ならびにタグ装着後の創面はアルコールもしくはイソジンで消毒するこ
   と。
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ただし、移動放獣、学習化放獣放獣など非致死的対策が誤った方向に流れていないかどう
か不安があります。現状では、加害個体と個体群母集団との関係、新世代グマの存在、行
動範囲など今だ不明な問題が多すぎます。

中でも地域個体群規模(=生息個体数と場合によっては同義)はもっともわかりにくい問
題です。殺処分と非致死的処置は、個体群保全と被害管理という難しい課題に対応してど
ちらをもっぱら採用するか、という問題ではなく、生息数の把握、個体群規模のモニタリ
ング、適正かつ迅速な電気柵展開などの対策を講じた上での最終的な判断であるべきです。

現状、民意と称した過剰な捕殺、感情論的な放獣推進思想、どちらでもなく、とりあえず
目の前からどっかにいってくれれば良いんだ、という程度の放獣事業が明確な基準や判断
もなくもなく − 判断基準や計画はあっても100%反故という場合もあるかもしれな
い − 行われてきてしまいました。

保護管理、管理の一方のみが順調に運用され、個体群母集団の保全には大きな関心が向け
れていない用に危惧しています。殺処分と放獣と言うのは、母集団規模がある程度把握で
きていて初めて意義があるという点、忘れられているようです。

結果、放獣数はここ10年程度でたいした数ではないにもかかわらず、放獣個体の子孫が最
近の異常出没などの原因となっているのではないかと意見から、放獣事業を廃止に追いこ
もうとという動きも散見されます。絶滅推進派にとってはかなりおいしい理由付けですが、
このような揚げ足取り的な反応が産まれたすべての原因は、放獣後の行動調査や個体数推
定調査などの同時並行的運用の必要性を無視し、地域にフィードバックできるデータが蓄
積されてこなかったこと、その適正な解釈がなされてこなかったからに他なりません。

放獣事業という考え方ができて、すでにかなり長い年月がたちましたが、行われなかった
モニタリングのために、過去のデータや実績が無になろうとしています。まことに残念な
ことです。ちなみに、新世代グマの存在、里付き個体など、ごく最近にできた考え方、こ
のような特定の行動を持った個体群の分化が懸念されていますが、まだ明確な証拠のない
話です。

現在ツキノワグマの保護管理事業として、学習化放獣などを考え実行している自治体、な
らびにこれから策定しようとしている方々、保護管理計画書にいくら立派な文言やフロー
図が並べられても、具体的な評価方法が実行レベルでついてきているのでしょうか?

何の為に放獣を行うのか、放獣の結果何がどう評価できるのか(殺処分でも同様!)、先
述の批判的反応を受けるまでもなく放獣事業の意義について良く考えなおしてほしいと思
います。特定鳥獣保護管理計画が地域個体群の崩壊を促す仕組みにならないようにして欲
しいと希望します。

たしかに不測の事態はさけられません。どうしても助けられないとか、あるのは事実です
が、マクロなレベルでの運用システムの不備が直接振りかかって、迷ったり悩んだりする
のは、実際に現場で血まみれになる末端職員、あなたがた自身です。考え方によっては、

     適正な基準の基に、現場が正しい方策を判断できなければ、
         クマを救うことはできないということ、

これに尽きると考えます。

2005/04/26
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