ヘアートラップ写真
鳥取でクマの調査(2001年と2002年)を行ったときにヘアートラップを用いた生息状況調査
を行いました。採集された体毛の種と頻度などからある地域のクマ生息状況を把握することが
できます。 また、自動撮影カメラやビデオを仕掛ければ写真や映像として来訪した個体の確
認ができます。
ヘアートラップ法は、個体の体毛を採取する仕組みです。体毛の毛根部には生きた細胞のミ
トコンドリアや体細胞の核が分離可能です。これに含まれるDNAを抽出することができるの
で体毛を残した個体の遺伝子レベルでの差を読取り、地域個体群の系統や個体群規模の推定な
ど多方面の応用が期待されています。
ここでは、そのとき取れた写真の一部を紹介しますが、遺伝子分析については触れません。
ヘアートラップ法による研究の総説的な説明は、
Miura, S. and Oka, t;
Evaluation of apple bait hair-traps for genetic tagging of asiatic black bear in the
Kitakami Highkland, northern Honshu, Japan.
MAMMAL STUDY, Vol.28, No.2, p.149-152, Dec.2003.
また、ヘアートラップによる個体数推定や採取試料の扱いなどについては、
佐藤喜和
ヘアトラップによる体毛回収とDNA個体識別を用いたクマ類の個体数推定の現状と課題。
哺乳類科学 44(1):91‐96, 2004
などを参照されるとよいでしょう。
なお、本HPに掲載された写真は、NPO日本ツキノワグマ研究所が行った調査から得られ
たものです。また、技術論の詳細はNPO日本ツキノワグマ研究所ほか各大学や研究機関など
の専門の先生がたにお尋ねください。
図
ヘアートラップ設置にあたり、下調べは重要です。なるべく新しい痕跡はないか、獣道はな
いかなど痕跡調査が必要です。また、トラップは獣道が複数交錯するようなところがいいかも
しれません。ただし、調査区域内の植生や環境別などによる相対密度の差を比較したい場合は、
クマの痕跡の有無にこだわらず獣道のみを指標にしたほうが良いかもしれません。人による恣
意的な地域選択は避けなければならないこともあると思います。
観察によるとほとんどは有刺鉄線の下を潜り抜けようとするように見えます。さらに潜り抜
けるときは背面をわざとすりつけでもしているようにしています。地面からの高さは地面の凸
凹もあるので、25cm-45cmでも採取できるようです。この点は各研究者によってお勧めの高
さ値に差異があるかもしれませんが、それぞれが現場で鍛えた結果ですので、うまく参考にし
て自分のフィールドにあったモノにする、というスタンスでよいのではないでしょうか。
ヘアートラップ模式図
ヘアートラップ模式図2
ヘアートラップ模式図3 衝立タイプ
写真
HT-01
もっとも基本的な形状のトラップです。立ち木に2-3m四方になるように有刺鉄線
を張りました。誘引餌として蜂蜜を使用していますが、通り道としての使用頻度の
分析などや、はっきりした通り道や獣道がある場合、環境影響の方が大きいと判断
される場合は必須ではありません。
HT-02
HT-01と同様の形状ですが、人工林に設置した例です。
HT-03
矩形に設置できない急斜面では樹木に有刺鉄線をまきつけた例。
HT-04
通り道や樹木にではなく、崖や岩場の窪地、倒木など自然構造物を利用して設置し
た例。
HT-05
崖にできた小道が獣道になっていたのでトラップを張ってみた例。誘引餌は使用し
ていませんが、イノシシやテンの体毛が採取されました。クマのものも半年で1例だ
けありました。
HT-11
矩形と巻きつけ型併用。はっきりしないが有刺鉄線を巻きつけた方に上ろうとして
いる。
HT-16
矩形トラップ内の誘引物を食べた挙句、
HT-17
そのまま寝てしまった個体。
HT-18
ミズナラの木に巻きつけ方式へアートラップ脇を通り過ぎる個体。
HT-19
衝立型に有刺鉄線を立ててその上に誘引餌を設置した例。効果的に有刺鉄線に触れ
る可能性を追求してみた一例。形状を工夫すれば採集部分が体が触れる頻度は高く
できるかもしれません。
HT-20
このように、有刺鉄線の下をくぐるようにしたときに、有刺鉄線に触れた部分の体
毛が採取されていくものと考えられます。
体毛採取状況ビデオ
クマの体毛が有刺鉄線をくぐったときに背面が接している状況です。wmvファイル、約486KB
体毛採取状況ビデオ2 wmvファイル、約784KB。
一瞬アップで wmvファイル、約688KB。
1999年ごろに30000円くらいの安物ビデオカメラに、市販のタイマー・リレー付焦電
センサーやら、タイマーキットなど3種類ほど組み合わせて自動ビデオ撮影装置を作
ってみました。センサー感知、ビデオ電源投入、撮影スイッチのオン・オフ、ビデオ
電源オフという繰り返しをするものでした。結果、実験ではうまく作動するのですが、
実地では電源が予定通りに切れなかったりと散散な代物でした。しかし、偶然にもヘ
アートラップの体毛採取状況が撮影できました。このビデオ装置で撮れた映像はこれ
らで最初で最後(2002年撮影)。同じテープ上の映像から使えそうなところを抽出。
ごらんの通り日中の撮影で、時間が記録できなかったのですが、誘引物をセットし、
体毛チェックのあと直ぐに現れた、もしくは、こちらが去るのを待っていたのではな
いかと想像しました。ビデオを設置してから、翌日早朝にビデオチェックと回収、要
は1夜しかセットしていなかったのでした。
やはり不都合で、予定していたシークエンス通りの動作せず、セットしてから90分間
動きっぱなしでだったようでした。が、おかげで誘引物(丸太の上の容器)から中身
をなめる様子なども撮影されていました。この個体の性質もあるのでしょうが、容器
を乱暴に叩き落して中身を食べる、とか言う行動はなく針金で固定してあった容器を
徐々に傾け、中身を少しずつこぼしながらだったということ。そのために、後ろ足で
立ち上がり、丸太に手をかけてふんばっていました。
映像ではわかりにくいですが、立ち位置に直径10cmくらいの切り株があって、そ
れに乗って高さを稼いで(ほんの数センチですが)いたのが興味深い点でした。
それで肝腎の採取状況ですが、最初のビデオではごく僅かですが細い毛が取れていま
したが、ビデオ2では採取確認できませんでした。どのくらいの頻度で採取に成功す
るかは不明ですが、トラップを通過すれば100%というわけではなさそうです。