手作りクマ捕獲用ドラム缶トラップ 軽量版
 西中国山地地域におけるクマの生息状況調査で使用した2連式ドラム缶トラップ。当然手作り。
1998年、1999年の第一回目は借り物トラップ10基のほかに、10基製作(後年まで残さずスクラッ
プ)。改めて、第2回目2004年に予備含めて22基製作。第3回目2009年、2010年も引き続き使用。
 アーク溶接はへたくそなので、毎回設置前に点検と修理は不可避だった。

 驚かれると思うが、巷にあるような重厚なつくりではなく、非常に簡単にできている。設置場
所は車両通行が可能な山道沿いから数10m〜100mに設定していた。軽量化して運搬移動を楽にし
た分、使い易さとトレードオフになったかもしれない。2連接続し扉を除いた重量は60kg以下
だったので、平地で100m程度であればそのまま一人で 運搬可能。

 鉄工所で製作される罠は非常に頑丈な上、製作技術的にも大いに参考になるし丁寧なつくりを
されたものは感心する。が、有害駆除対応とか市街地に近いところで、参加する人数が多いとか、
重機を投入できるような環境ならば取り扱いには問題がない。
 しかし、調査目的の捕獲では通行が難しい山中などに人力でかなりの距離を運ばなければなら
ないことも多い。このような環境ではあまり作りこんだ罠は扱いにくい。
 ということで、古くから自作罠で捕獲調査をしてきた方の意見などを参考に、可能な限り重量
を減らした結果、後述のような構造になった。

 この罠は2連ドラム缶方式なので、何らかの前後接続機構が必要。分解して運べるようにボル
トと受け金具などを工夫しても良かったが、2−4本束ねた3mmの番線で接続した。ハッカーなど
金属工具で締め付けることで強固に接続。ただし、中に捕獲個体が入った状態で、クレーンなど
による吊り下げは不可。実際、調査設計上その様な扱いに対応した強度は必要なかった。
 接続用番線が中からきられる事例は1−2例ほど見られたものの罠が分解して逃走もしくは作業
者に危険が及ぶ事態はなかった(4箇所で結束し、1箇所切れても分解しない)。ただし安全のた
めロッキングペンチは必需である。如何なる状況で如何に使うかは想像にまかせる。

 西中国山地地域の個体はやや小柄な点、番線方式で対応できていたという部分がある。100kg
超個体の捕獲もまったく問題なかったが、まねする人はいないと思うが、心配だったら何らかの
補強策を講じるべきだろう。

 クマが扉などに突進するのでは?という疑問もあるが、これまでの捕獲作業でそれを観察した
ことがなかった。構造上ドラム缶の両端(扉と後)には光の差し込む隙間がなく、外が覗えない
方向には脱出努力衝動は低いのではと感じた。

 この罠側面には作業用に25mmの穴が30個以上あけてあるが、このため側面の穴に牙がかかっ
て折れる事例は皆無ではなかった。一回目と二回目で延べ合計108頭ほど捕獲があったが、直接
ドラム缶起因の牙折れは10例くらいだったか。
 生体捕獲の場合、このような”事故”は皆無でなければならない。そういう意味では少々手抜
き過ぎる構造といえるかも。

 罠には補助的に微弱電界(30mが限度)の手製発信機を設置したため、最寄の道路から捕獲が
あったかどうかモニターできた。定期的見回り中、発信機の信号によって事前に心構えができる
ので、罠を目の前にしてドッキリしないで済む。フィールドによって事情は異なるが、遠方から
受信できる必要は特にないと思う。
 注: 微弱電波について 総務省を逸脱する発信機を無免許で運用することは違法である。

 微弱発信機で捕獲の有無を確認できたら、少し離れたところで保定作業の準備を整えておいて、
静かに接近する。捕獲を確認した時点では寝ている個体が多く、外部から刺激を与えられなけれ
ばそれほど激しく興奮することはなかった。
 この罠の場合、横穴から吹き矢で投薬するので、投薬前に作業扉に交換する行程がなく、直前
に不要な刺激も最小限になるので、寝ている間、または興奮状態になる前に麻酔薬などの第1投
目を施用するチャンスを得られることもないわけではなかった。

 最近の罠は側面に穴がなく、捕獲用の扉ならびにドラム缶後部の捕獲用の扉・壁(鉄平板)を、
作業用の扉(エキスパンドメタルや格子状の鉄枠)に交換できるなど作業性が良い。
 しかし、捕獲クマが見やすい明るい作業スペースが確保できるということは、クマからもこち
らの動きが良く見えているわけで、保定作業を始める直前には興奮状態にしてしまっている。こ
のため作業者がいる方向や、明るい方向に向かってくるケース(長野でのクマ捕獲)もあった。

 中が良く見えるタイプの罠が、良く見えるがゆえにクマにかけてしまうストレスがどうだった
のか良くわからない部分があった。あくまでも個人的に感じたことではある。
 どのような状況でも”うまく裁ける”ということが、このような調査をしている人・組織なり
の作業スタイルに対する思想、ノウハウ、そのほか諸々ということなのだろう。

 西中国山地地域におけるクマの生息状況調査は、捕獲再捕獲法を採用していたため再捕獲され
ることが必要だった。また無用に興奮させて暴れさせたり衰弱させないように、なるべく早く処
置するようにして、”トラップに掛かった”、という経験がなるべくマイナス(trap shynessな
ど)に働かないように配慮したつもりだったが・・・・。

 自分なりに過去の不具合やミスも含めた事例の総括ということで、使った罠を略図に書き直し
てみた。

 2連式ドラム缶トラップ(バレルトラップ)平面図 略図

 2連式ドラム缶トラップの扉フレーム平面図 略図

 2連式ドラム缶トラップ(バレルトラップ)外観略図

 このトラップにはトラップ固定用の足などはついていないが、フレームに針金を通す穴をあけ
てあるのでそれを立ち木などを利用して固定する。固定方法に問題がないわけではない。
 トリガーワイヤーは裸で出ているので、捕獲失敗を避けるためには別途塩ビパイプや雨どいな
どでカバーを工夫する。

 微弱発信機を併用した場合の設置状況略図

 トラップ後部に作業窓などを作らなかったため、誘引物の設置や交換は非常にやりにくい。
また、誘引物容器はドラム缶天井に少しきつめに貼り付けるように設置(トリガーワイヤーの張
力で調整)。餌容器は500mlくらいの容量があればよい。材質、価格をみて適当なものを。個人
的好みでプラスチック植木鉢なども多用したが、どのように使ったかは省略。

 誘引物設置・交換法略図

 実際この罠は、日本でクマ研究が始まったころの、慣れとか固有のコツが必要な時代に試行錯
誤的に作られた構造をそのまま受け継いでいるようなもの。現在大勢を占める研究者目線的には
作業者利便性が低いため、今後このような簡略版が作られることはないことだろう。

 調査者自ら溶接して・・・というのは機材の品質面で危険な場合もあるので、お勧めしない。
もし新しい工夫が必要ならば、正確に情報をまとめ、簡単でも良いので図面化したうえ鉄工所に
行くべきでしょう。

ついでに
 蜂蜜ベース誘引物。主目的は固化しやすい蜂蜜を液状に保つための小細工。あくまでも作業し
やすさのためであり、これで劇的に誘引効果が上がるとか、いないクマまで引き寄せることがで
きる、とかそういう代物ではないことを明記。

 誘引物組成 効果がなくてもそんなことは知らない。大体”効果”って何だ?

 いろいろな立場の方々が、さまざまな目的と思惑の上に、誘引や捕獲などを試みていると思う。
それに使用する誘引物にしても、それぞれが”これだ”という小技、大技など多様な工夫をされて
いるようで大変興味深い。


(2012/06/29 追加 2012/07/07)