ラジオテレメトリー
 野生動物の生態調査研究にラジオテレメトリーという手法が使われることがあります。
これは動物を捕獲し発信機をつけて追跡しその動物の行動範囲や行動様式を探るために利
用されます。この方法では、複数の観測点から発信機からの電波の到来方向を測定し三角
測量法で位置を推定します。この方法により、警戒心が強く直接観察が困難な動物や、接
近するとむしろ危険性が無視できない動物の調査に威力を発揮します。
 位置を推定したら後でその場所まで行って痕跡など残していないか、周囲の環境がどう
なっているか確認することが必要です。しかし、山岳地帯などでは電波の反射や回折が起
こりやすいため、誤差が見積もり難く推定精度の向上には調査地の環境を熟知することが
必要です。
 最近ではGPSを利用した野生動物の追跡方法も実用化されてきていますが、重量や電池寿
命の問題や、データは装置を回収するまで得られないものが多いなどの問題もあり、今後
の技術革新によりさらに使いやすくなることを期待したいものです。

 私の場合は、旧来の方法による追跡が主です。最近ではワイドレンジレシーバーで高性
能の機種が有ります。それらのうちで受信性能では最も定評の有るAOR社のAR-8000に、プ
リアンプJIM-100を組み合わせたものを利用しています
 発信機は2mバンドが多用されていますが、アマバンドにかぶらないように十分微弱か
つ若干高い周波数にあわせてあります。
 しかし、普通アンテナは市販の2m用3素子などがそのまま使用されているため、発信機の
周波数にあわせてゲイン、SWR、FB比など適正に調整したほうが良いものと考えます。しか
し、アンテナの最適化を意識して改造している研究者は多くありません。
 発信機の出力はかなり弱いものです。最適化されていないアンテナを使用することで本
来見つかるはずの追跡個体を見逃している可能性もないとは言いきれません。
 私も無線工学に関する専門知識は有りませんが、わかる範囲で改善の必要性を感じアン
テナはすべて自作し、自分なりに納得できる性能と限界について知ることができました。
 アンテナの調整にはYSIMやMMPC試用版などを基に5素子八木(一般追跡用)やHB9CV(脱
落発信機探索、接近用)を自作し、状況に合わせて使うようにしています。

 ラジオテレメトリーの応用にあたって、厳重に注意しなければならないのが発信機の種
類や装着方法による傷害の恐れがあるということです。現在では環境省の公式な指針(第
9次鳥獣保護事業計画など)で学術研究などで野生動物に発信機を装着する場合は、ある
程度の年数で脱落するような装置を工夫するように指導されています。しかし、過去10
年程度のあいだに有害駆除などで捕獲され、モニタリングのために電波標識化されたもの
(学習化放獣、学術研究も含め)の中にはそのような装置を具備していなかったものも少
なからずありました。これら装着個体の一部から装着部分(主に首)に褥創ができている
ことが見つかります。これは個体への負担がかなり大きいものと思われ装着具の材質や装
着方法、脱落方法の工夫など厳重な注意を必要とします。
11-01 地上からの方向探知。
11-02 航空機を利用する場合。
11-03 脱落発信機の回収。
11-04 発信機による褥創1。
11-05 発信機による褥創2。
11-06 脱落発信機回収。樹上で発見。
11-07 脱落発信機回収。樹上から回収。
    やたらと強力な信号が捉えられているにもかかわらず発見できなかったものでし
    た。結局ブナの樹上約6mのところの短い枝に引っかかっていたのを見つけました。
    降りるときに首輪が枝にかかりそのまま抜けてしまったのではないかと思われま
    す。1997年のことでした。最近、他の仲間が同様な経験をしたと聞きました。そ
    れほど珍しいことではないかもしれません。
11-08 発信機回収。
        装着ベルトが失われていたこと、人為的に破壊を試みた痕跡などさらに、発信機
    以外に耳標やマイクロチップによる個体識別をしていたにもかかわらず公式な記
    録に捕獲データが見当たらなかったことから、違法性の高い捕獲があって発信機
    だけが投棄された可能性も否定できない。
11-09 自作アンテナ。 短縮状態
    形式としてはHB9CV型。伸縮性ロッドアンテナをアルミ角材に。
11-10 自作アンテナ。 伸長状態
11-11 自作アンテナ。素子にスチールメジャー これもHB9CV型。
11-12 自作アンテナ。ロッドアンテナ方式 収納状態 5素子八木(モデル:藤田式5素子八木2000型甲)
11-13 自作アンテナ。ロッドアンテナ方式 伸張状態 5素子八木(モデル:藤田式5素子八木2000型甲)

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