西中国山地のツキノワグマ生息環境

臭いと音

 個人的な経験や主観的な感覚で判断するものなので、痕跡や形跡を示す上で汎用性や確実性
はあまり期待で来ませんが、西中国山地地域での個人的な経験から紹介します。また、他にも
多くの研究者、狩猟者などが確実な情報持っていたり、経験していると思うので興味のある方
はいろいろな意見を聞いてみるべきでしょう。

威嚇   :これが威嚇音(音声、吠え声)というのはハッキリしませんが、ガッ、ガッと聞
      こえる音とガチガチという歯をならす音は聞いたことがあります。よるの8時頃
      山道で暗闇の中、偶然クマと15mほどの間隔で50mばかり並んで歩かなけれ
      ばならないはめに陥ったとき、クマが急に立ち止まりそのような発音をしました。
      こちらは無視して通り過ぎました。

求愛   :これは私も聞いてみたいです。

コグマの :かつて10月頃親子グマの親の方を捕獲した時、周囲で当年うまれと思われるコ
コーリング グマのコーリングとおもわれる声を聞きました。人がまねするのはかなり難しい
      ですが、咽の奥から口を半分閉じたままクオッ、クオッと発すると体感的には近
      い音のような気がします。

親が子を呼ぶ声:聞いたことがありません。

新生児  :2月、それも出産直後のわずかな期間しか聞けないかも。ミギャーと聞こえる、
      ある種、人の赤ん坊の鳴き声にもにたような、しかし、無機質に長くのばすとこ
      ろが違うようです。一度だけ聞いたことがあります。

恐怖による声?:出会ったクマが木にのぼり、こちらを見ながら発した音。見た目は2歳か3
      歳の若い個体でした。ひょっとすると小別れ直前か直後だったかも。コグマのコ
      ーリングに似ていましたが、クオーンもしくはゥオーンとも聞こえるやや高周波
      成分を含み、若干甘えるような、泣いてでもいるような?抑揚がありました。犬
      があくびした時に聞く声に似ていなくもないです。この説明では想像がつかない
      かもしれません。

足音   :多分何の役にも立たないことでしょうけれども。山中の乾いた枯れ葉が深くつも
      ったところや笹薮では、足音を聞く機会があるかもしれません。しかし多くの場
      合、クマが先に異変に気付いて動きを止めます。それでもまれにゆっくりと歩き
      ながら近付いてくる時があります。この時は。かなりゆっくりとしたペースでミ
      シッ、ミシッといった感じです。これは2ー3回身近に経験しました。また、動
      きを止めていたクマが急に走り出すなどの場合は、いわゆるリズム感のある足音
      として聞こえるのではなく、あたかも大岩を転がり落とすがごとき大騒音になり
      ます。シカなどが笹薮を走って移動する時もかなり大きな音になることがありま
      すが、一応バサッ、バサッなど明らかに歩く、走るなどの足音らしきものとして
      認識できるところが違うようです。走る条件によって変わるので余りあてにはな
      らないかもしれません。

息遣い  :クリなどの落果を採餌するときなど、匂いをかぎながらときどき息を大きく吐き
      ながら食べるので、フンフン、バフッ、ピチャピチャ等と聞こえます。
      また、歩行中の息遣いも体が大きいためか、静粛な山中ではかなり大きく聞こえ
      ることがあります。バフッ、バフッやハッ、ハッと聞こえます。いずれも静粛な
      環境で間近で観察できたまれな例です。人などの通過を待つなど、藪の中でじっ
      としているときは息を殺しているらしく、こちらから息遣いに気がつくことはま
      ず無い、といっても良いでしょう。

 有害で捕獲されたクマが檻の中で特有の鳴き声や吠え声を発したものを聞いたという経験はあ
りませんでした。そのほか、あまりクマが生息しない地域で、地域住民が「よく裏山までクマ
が鳴いている」などという話を聞いたことがありますが、何かの間違いかもしれません。

臭い   :これは地域によって、それぞれクマ研究者によっても意見が別れるものと思われ
      ます。体臭という意味では、イノシシやシカ、タヌキのようなそこにいなくても
      糞や臭腺の分泌物で、それらと分かるにおいが残されることは良く知られている
      ものと思われます。しかし、クマではそれはハッキリしないと私個人的には感じ
      ております。

 罠で捕獲した個体が汗が腐ったような酸え臭い臭気がある、ドブ臭い感じがする、口臭が生
臭いなどの「特有の臭い」をしているのは確かですが、それがわかるのはクマ研究者の多くが、
クマといわゆる「吐息のかかる関係」にあるからにほかならず、一般のかたがたが普通に登山
などをして、一瞬目の前を横切ったなどぐらいではハッキリとした体臭を感じることができる
かどうかわかりません。私も何度か山道で出会ったことがありますが、臭いでそれと分かった
ケースはありませんでした。これは私が蓄膿だからというわけでもないと思います。

 地域によって植生が異なり餌環境もかわりますので、ある地域では1kmさきでもハッキリ
わかる体臭がある、という人もいるかもしれません。現状ではまだまだ統合的な情報整理がで
きていないのでだれもはっきり断言できないことですので、もし、違う意見があれば地域差が
あってそれぞれの地域で心構えが違うのだ、と認識しておくしかないと思います。この点は私
もぜひ知りたいものです。

 むしろ彼等は環境に埋没しようとしているかのごとく、特に糞尿はその時に食べていたもの
の臭いを反影しているように感じます。むしろ、いろいろなものに体を擦り付けて、自分にそ
の臭いを刷り込んでいるのではと思うこともあります。ひょっとして臭い付けの意味が違うの
ではないかと感じました。

 クマの臭いは犬や他の動物にはハッキリわかるのでしょうけど、人間にはわからないか、ご
くわずかにしか感じないか、なのかもしれません。

 多分、あくまでも多分ですが、クマ本人が追い詰められたと感じ、一方的に異物を排除する
ための攻撃を含め、その状況を打開する、逃げ出すなどの行動を起こすのを目の当たりにする
程の距離、もしくはまさに攻撃をうけ頭でも齧られているような状況にならなければ、ハッキ
リとした音声や臭いを感じることはできないかもしれません。
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