西中国山地のツキノワグマ生息環境  2001年晩秋 島根県匹見町半四郎山から広見山方面

西中国山地地域の最近の状況(2001年9月現在)

 このところ東北地方などでは熊の出没や事故などの報道が増えてきている様
ですが、西中国山地(広島、山口、島根)方面は少々様子が異なります。私の
知る範囲では、出没や被害はおおむね7月一杯までに集中し、8月以降ほとん
ど出没情報が寄せられなくなりました。一部の町村にたいし個別に話を聞くと
全く出没などの情報がないわけではありませんが、有害駆除申請をするような
大きな被害や問題は起きていません。

 東北など他の地域の状況はあまり良く知りませんが、広島、島根、山口にか
けた西中国山地ではクリをはじめ堅果類が必ずしも少なくはなく、むしろクリ
はここ数年間ではもっとも豊作と言える状況とみています。これは、梅雨時に
雨は多かったものの、山林が荒れるような暴風雨はなかったため、花が失われ
ず順調に受粉が進んだこと、昨年にくらべ夏が高温であったこと、さらに、8
月、9月に台風の直撃を受けていない等の要因があげられると思います。また、
昨年も今年程とは言えないにしても、野生グリは豊作といえる年だったようで、
今年と同様に8月以降の出没や重大な被害は記録されていません。おかげでクマ
レンジャーの活動も開店休業状態です。

 また、今年の場合特徴的なのは、野生グリなど堅果類にクマ棚が形成されな
いことです。多くのクマ達は落果の拾い食いだけで十分必要な餌を確保できて
いるのではないかと想像しています。資源の豊富な木を占有する理由がない時
はクマ棚という形で痕跡が残らないのかも知れません。

 クマ棚が少ない=そこにクマがいない、ということではない様です。実際に
拾い喰いを観察した場所に、自動カメラ+若干のベートを設置したところ、発
信器付きの追跡個体、2年前の個体数調査で標識した個体、その他2個体の新顔
と言った具合に、約1週間の間に少なくとも4個体が入れ代わり確認されまし
た。また、同じ夜に別個体が2頭以上撮影されることも稀ではありませんでした。
10月中旬から徐々にクリ資源が枯渇しはじめましたせいか、このポイントでの
写真は撮影されなくなってきています(ベートの影響ではないことの言い訳で
すが事実です)。

 一方、昨年はミズナラ樹上でまだ青いドングリを採餌する個体を目撃しまし
たし、ミズナラ林で落果の拾い食いをする個体も観察しましたが、今年はまだ
採餌やクマ棚を確認していません。例年にくらべ2週間以上遅れています。こ
れらの豊凶についてははっきりしたことは言えませんが、昨年よりも着果数は
多いかも知れません。

 確証とは言えませんが、クマ棚の発見数を生息密度の指標としてお使いの方
は堅果類の豊凶の影響を補正する方法を検討した方が良いかもしれません。ク
マ棚形成がクマの生息密度の目安ではなく、むしろ堅果類の豊凶の目安と解釈
したほうが妥当かもしれないからです。

 西中国山地では普通クマ棚形成はまだクやドングリが青くて柔らかい時期に
始まりますが、茶色に硬化して落葉が始まってもクマ棚らしきものは見当たり
ません(私に見える範囲では)。結果的には完全に落葉してみないとクマ棚の
出来具合いは判断できませんので結論を急ぐつもりもありませんし断言もしま
せん。

 クマの生息密度、堅果類の豊凶、クマ棚の形成の相互関係は、さらに突っ込
んだ調査が必要とは言えるでしょう。それとも私が先達達の研究成果を知らな
いだけなのか、この件でほかに何か情報や、全く異なった見解などがありまし
たら御教示願います。

 ここ1週間でたくさん見られたクリなどの落果も、クマだけでなくイノシシ
も利用しているためか減少してきています。テレメ追跡個体も、クリの多い林
から徐々にミズナラが多い林に活動範囲をシフトしているように見えます。今
後越冬に入るまでの間どのように状況が変化してゆくのか興味がありますし、
2年続きに豊作の後にはないがくるのかということには少なからず不安が残り
ます。来年も春先5月から7月にかけて、親子連れの出没とそれらによる人身
被害の可能性、分布外縁部の拡大傾向などなど今年の餌資源が豊富な分注意が
必要と見ています。
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