括り罠対応
括り罠で錯誤捕獲を起した場合、放獣は危険性が伴う。麻酔銃など射程の長い器材が
活用できるとしても、基本的な心構えは共通していると考えられます。くれぐれも甘
く見ないように。

たいした経験がないのであまり大きなことは言えませんが、吹き矢での処理を前提と
した場合の注意点ほかについて述べます。当然、このとおりにやってもできないこと
があることは自明。現場対応策の検討などどうすれば良いか、とりあえず、現場で罠
にかかったクマを見る前に悩んだりしないために、事前にできそうな工夫やシミュレ
ーション訓練など思考実験するチャンスを持つことが必要です。

不足な点が満載ですので、不適切なところは随時修正予定。気が向いたときのみ。

作業環境の整備
 − 必ず下見をする。処理に関わる人員配置を行き当たりばったりで決めない。麻
   酔薬の撃ち手の足場確保を最優先。
 − かかっている罠の状態を確認する。麻酔処理をする場合は、足首にしっかりワ
   イヤーがかかっていること。草丈の高い藪ではないことを確認する。作業不可
   能とは言えないが、所要時間が延びる可能性もあり、不測の事態、罠脱落の可
   能性が高くなる。殺処分するかどうかはこの段階で判断すること。
 − 罠設置者から罠設置状況を確認すること。ワイヤーの太さ、罠やワイヤーの固
   定方法など。しっかりワイヤーが足首にかかっていても、ワイヤー端の固定方
   法が不完全(周囲の草を束ねてその根元に巻いてあるだけなど)な場合もない
   わけではない。その確認をすること。
 − 完全に括り罠が掛かっていれば、クマの到達範囲は周囲の草が倒されていると
   か土が掘り返されている範囲でわかるのでそれを間合いの判断に。ただし、人
   が近づくことで想定以上に到達範囲が広がることがあるので注意。
 − 興奮させないようにギャラリーは遠ざける。できれば半日以上静粛な環境をつ
   くること。しかし困難な場合が多いので、作業者は常に大きなリスクがあるこ
   とを認識すること。完全に撃ち手とクマの1対1の勝負になるようなステージ
   を作ること。
 − 人員配置方法を決定する。
 − 位置関係。逆光厳禁。作業は夜間に及びそうな夕方からはじめるべきではない。
 − 絶対に標的を見上げる位置から撃ってはいけない。重力で弾道線が急カーブに
   落ちるため、弾速がおちてあたりにくくなったり、ヒットしても動作不良を起
   す可能性がある。
 − 麻酔作業を行う場所(罠にかかったクマがいるところ)から離れたところ、ク
   マから直接見えないところで、直接作業に関わらない関係者の待機場所を設け
   る。それを放獣作業全体の総合指令所とする。

人員・配置
 − 直接放獣処理に関わる人員。2―3名のみ。麻酔薬の撃ち手1名、麻酔薬の撃
   ち手の補助(投薬器の用意と不測の事態における救出など)1名、バックアップ
   ハンター(不測の事態における射殺係)1名。が、最小で最大セット。
 − 事前に決めた配置につく。静粛にかつ迅速に。麻酔薬の撃ち手と麻酔薬の撃ち
   手補助は立ったまま作業しない。ただし情況により判断。この段階で覚悟を決
   めるように。
 − 麻酔ならびに保定作業の手順など指揮系統を統括するリーダーは、麻酔薬の撃
   ち手自身もしくは麻酔薬撃ち手の補助係が担当すること。原則として麻酔薬の
   撃ち手ならびにバックアップハンターは、リーダーの指示で行動すること。
 − 指揮系統に混乱をきたさないように事前コンセンサスを十分にすること。
 − 麻酔薬の撃ち手の補助係は撃ち手の真後ろに待機。手を伸ばして投薬器などを
   渡せる距離。
 − 仮に罠から外れて飛出したクマを自分で処理できれば撃ち手の補助係はいらな
   い。が、いざというとき麻酔薬の撃ち手の盾になるなど、作業員全員の安全を
   図る処置(クマスプレーなど)を講じるぐらいの重要な役目がある。
 − 通常、罠から脱出したクマは、バックアップハンターが射殺すれば良いのでは、
   と思われがち。通常はそのように取っても問題はないが、時として、クマは薬
   投器を撃って”直接攻撃”をした方に向かう場合がある。このような場合は、
   銃の照準線上にクマと人が重なることになり、銃撃の巻き添えを食らう危険性
   が高くなる。撃ち手の補助係が重要な理由である。
 − クマを中心にして撃ち手の位置を方向を0度とすれば、バックアップハンター
   は左右どちらか30度から45度の位置。立ち位置は撃ち手よりすこし下がっ
   たところに待機する。
 − バックアップハンターは立ち木などの環境を利用して身を隠すこと。配置位置
   は銃の弾道線上に住宅地などないこと。
 − 必要な場合は、脱出逃走したクマが住宅地などに逃げ込まないように、作業現
   場を遠巻きに取り囲める体制を整え、山林や不要な被害などの発生などの影響
   の少ない方向への誘導を試みることができるだけの人員を準備することも考慮
   する。

目立たないこと
 − 麻酔銃では十分な距離が保てない場合、吹き矢では絶対に、自分の身を充分隠
   せる盾(派手な色ではない灰色系、茶色系)を使うことを勧める。自分の動き
   を見せないため。動いているものに強く反応するので、自分の動きを隠すのが
   大きな目的。
 − 盾は吹き矢を撃つときにパイプの固定にも役に立つ。立ち木なども組み合わせ
   て利用すると良い。
 − クマの一撃は正直言って防げない。フェイルセーフの考えで、盾は破壊させて
   自分を守る。大型の荷物収容プラスチックケースの蓋なども少々手を加えれば
   利用可能。
 − 危ない場合はその貧弱そうな盾をおとりにして、回避もしくは体制をたてなお
   すこと。おとりにしても何秒も余裕はないように見えるが、一瞬でも相手の動
   きが止められれば逃げる体制を立てなおすことができるか、バックアップハン
   ターが射殺するタイミングが作れる。
 − 重かったり、体に固定してはかえって危険。すぐに自分の体から離れるように
   工夫すること。

吹き矢の撃ち方など
 − 吹き矢の場合のクマからの距離。吹き矢の筒先から5mが最適。私の場合は自
   分の立ち位置から5m、テリンジェクトの吹き矢筒は全長2mなので、筒先か
   らは3m。とりあえず真似しないこと。
 − この距離(筒先から5m)でとりあえず日ごろから練習すること。
 − 吹き矢は肺活量ではなく瞬発的な腹筋力。自己確認を。5mというのは近いよ
   うだが緊張すると男でも失敗する。甘く見ないほうが良い。
 − できれば手製の薬投器は使用しない方が良い。動作不良や投薬器の飛行安定性
   に若干の問題がある。
 − 薬量として1投で済むと考えられるようでも、2投目を必ず用意すること。興
   奮状態の個体等では、通常の5倍以上の薬量を使用しても麻酔導入に失敗した
   ケースがある。麻酔導入剤として筋弛緩剤は必ず使用すること。
 − 余計に薬品を用意するのはまっとうな獣医は非常に嫌がる。実験室などの整備
   された環境ではないので不測の事態を想定し必ず2投めを準備しておくか、直
   ちに処方できるよう準備しておくこと。1投で効いてしまうと2投目は経費的
   に無駄になったり、廃棄など薬品の管理上の問題がややこしくなる。それらに
   対処できるルールを決めておくこと。

補足・炭酸ガス式麻酔銃
 − 麻酔銃の場合は照準線や弾道線の基本的理論を理解しておくこと。取り扱いは
   それぞれの銃取り扱い説明書を熟読しておくこと。
 − 概念的に全ての銃は精密機械であるということを理解すること。ぞんざいな扱
   いはしないこと。故障や事故の原因となる。
 − 運搬、保管、運用(装弾から発射までのプロセス)に関わる取り扱い方法は
   ”実銃に準ずる”。
 − 炭酸ガス式の麻酔銃の場合。同じガス圧でも外気温で飛距離が変わることがあ
   る。圧力ゲージと照準装置の組み合わせによる飛距離の関係を体得しておくこ
   と。初心者の場合、最低50投ぐらい練習しないと関係が飲みこめない。練習
   もしないでいきなり現場には持ち込まないこと。事故などの原因となる。
 − 炭酸ガス式の麻酔銃。圧縮ガスの断熱膨張の圧力を利用するので、銃本体特に
   銃身内部、銃身取り外し型の場合は接合部分などに水滴が発生することがある。
   放置するとサビや動作不良の原因となるので、使用後は必ずふき取るか良く乾
   燥させるように心がけること。
 − 炭酸ガス式の麻酔銃。銃身。発射直前の薬投器から僅かに薬液が漏れているこ
   とがある。発射時に銃身内部に薬液が付着する。使用後は必ず汚れのチェック
   をし必要ならば市販のクリーニングセットなどで清掃すること。
 − 銃機関部などに無用な注油は行わない。

2005/04/27
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