クマレンジャー出動風景

広島県のクマレンジャー
JBN (Japan Bear Network) 機関誌掲載文から

 広島県は、平成13年度ツキノワグマ対策として「ツキノワグマ管理対策事業」
と「有害駆除」を柱とした事業を展開しています。

「ツキノワグマ管理対策事業」は「ツキノワグマ餌樹木など調査」、「捕獲個
体管理」、「ボランティア活動」、「クマレンジャー要請・出動」(以下クマ
レンジャー)の4項目の事業を含みます。前3項目についてはまだ具体的な活動
方針が決まっていません。広島県のツキノワグマ対策の説明は他に機会を譲る
こととしますが、ここではクマレンジャーについて御紹介します。

 クマレンジャーの趣旨は、「民家周辺に出没するツキノワグマを人身被害の
恐れが高い里山定着個体としないために、クマレンジャーによる出没地域周辺
のパトロールや必要に応じたツキノワグマの追い上げ等を実施する」となって
おり、このことから地域住民の安全をはかることが目的となっています。

 この背景には、ツキノワグマ分布地域外縁部の拡大傾向にあります。この要
因の一つとして山間部、中山間部の過疎化などにより管理されずに放棄された
山林(里山を含む)が一種の回廊として利用され、出没範囲の拡大に繋がった
と考えられます。このようにして集落周辺に進出した一部の個体は人の生活環
境にも適応し、農林業被害や人身被害の危険性を増加させてきたものと思われ
ます。これに対して、追い上げなど示威的な行動をとることにより、人の生活
圏への進出抑止効果と、ある意味ですみわけ的効果が期待できないかという考
え方がうまれました。

                         クマレンジャーの腕章  以上のことから、クマレンジャーは、@クマ出没時に地域周辺をパトロール する、A状況により、花火弾、ゴム弾によるクマへの威嚇、追い払いを行い、 里山定着化を阻止する、B必要に応じて住民へのクマへの対応、生ゴミ処理、 捕獲檻の設置などについて指導する、を役割としており、駆除隊ではありませ ん。  クマレンジャー事業は今年の6月1日に正式に発足し、ツキノワグマの恒常的 生息地と考えられる16町村を中心に28名のクマレンジャーが登録されました。 これらには知識アドバイザー1名、技術アドバイザー2名が含まれます。要請を 受けて出動時の際には出没地域のクマレンジャー登録ハンター2名、県ならび町 村担当者2名、クマ専門家1名が基本構成となります。  クマレンジャーの公式な第1回目の出動要請は、8月6日千代田町でありまし た。この新聞記事はJBNのメーリングリストでも紹介しましたが、再掲載します。 -------------------------------------------------------------  8月7日の中国新聞の記事から。  県が今年編成したクマレンジャーが6日、千代田町で発のパトロールやツキノ ワグマの出没要因を調査した。千代田町、豊平町、八千代町の3町の猟友会メン バーら隊員6人と県、町職員ら15名が参加。先月3件の出没情報があった川戸地 区の谷筋に入った。  日本ツキノワグマ研究所(吉和村)研究員の藤田昌弘隊員(42)が「かじら れた竹や、松の枯れ木は要注意」とポイントを説明。足跡の調査や、地形などか ら行動経路を推定した。クマの通り道や、ツメを研いだ跡が残る木も見つかった。  クマレンジャーは人里に出たツキノワグマを山に戻し、人間との住みわけをす すめる全国初の組織で、県内で28人が登録。加計町で先月に2回、緊急出動し ている。県環境保全室は「パトロールや情報収集活動を積み重ねて組織力を高め、 里山地域に住む人たちの恐怖をやわらげる様努めたい」と話している。                     発見した痕跡。アカマツ朽木の爪痕 -------------------------------------------------------------  クマレンジャー事業にはいくつかの問題点があります。一つは機動性が良くな い点で、クマレンジャー出動要請があっても、その地域のレンジャーの人数が限 られるので緊急出動に応えられない場合があります。他町村のレンジャーでは土 地勘がなく要請する側も、される側にも大きな抵抗があります。  また、既存の猟友会による有害駆除隊とクマレンジャーの役割の違いが消化不 良な点がみられます。どのような違いがあるのかというと、クマレンジャーが出 没要因や、出没経路の把握をして、パトロールや追い払いを行います。この際、 認可を受けたものが花火弾を所持し必要な場合は運用することになります。通常 2人1組で一方が花火弾、他方がバックアップの実弾をという形態になります。 話が複雑になるのは、花火弾の運用が認可されるのはクマレンジャー隊員に対し てであり、既存の有害駆除隊にではないということです。有害駆除隊のパトロー ルでは花火弾は使用できないことになります。  有害駆除隊は捕殺、非捕殺を問わず捕獲の必要がある時の出動となり、そのよ うに業務上の住みわけを目指しています。そのため、予算もクマレンジャーは県 からの事業経費でまかなわれますが、有害駆除隊の出動はその猟友会が所属する 各市町村が受け持つようになります。この辺もわかりやすい整理が必要でしょう。  人材面では、クマレンジャーと有害駆除隊を掛け持ちせざるを得ません。これ は花火弾等の使用を前提としているので、乙免所持者が主に猟友会員ということ に因ります。また同じ前提で、一般の人が参加しにくいことも整理が難しい点の 一つでもあります。  また、根本的な問題として、クマの追い払いといってもクマの引き上げ先や逃 げ場の確保には対策があるのかという点です。逃げ場と言っても、そう簡単にで きるものではありません。ある意味で、落葉広葉樹林と針葉樹林、自然林と人工 林、奥地と集落周辺や里山の樹種などについて、森林配置のリストラといった問 題への対策と考えられるからです。樹木を1本伐るには30秒もかからないとして も、森らしい概観を見せるまで育つには最低30年はかかるでしょう。この時間差 が、追い上げ、忌避的学習、物理的隔離などの対症療法的対策のさけられない問 題ではないかと思います。将来にわたって十分な予算処置を保証して、長期的な 全体計画の中でどのように位置付けるか整理する余地が残っています。  クマレンジャーについては、取りあえず今年度1年間は試行錯誤して実施体制 の改善点、問題点のあぶり出しなどの検証に主眼に置いています。そのため本格 的な活動は来年以降となるでしょう。  今後のクマレンジャーの役割として、@各市町村単位もしくはさらに細かい地 区単位での出没状況の把握、Aカキ、クリなど餌資源となりうる要因の分析と、 被害地や獣道などの地図化、B被害誘発要因の除去対策を提案し、地元レベルで 実施できる対策などを助言、などの役割も課せられてくるものと思われます。  現に、今回も地元隊員からトタン巻の有効性に付いて提言があったので、地元 の積極的な対応とくに施行のための予算化など期待したいものです。 クマレンジャー出動体制 実施イメージ                        
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